簒奪女王と隔絶の果て

紺乃 安

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ノルドグレーン分断

駆け引き 6

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「……それで? まさかおのが身だけ助かるため、このヘルストランドに逃げ込んできたのではあるまい」
 ノアのこの辛辣しんらつさは、体調の悪さによるものだろうか。あるいはベアトリスの言葉を誘導しているようにも取れる。
「無論です。だから……」
 来るべきときが来た――ベアトリスは深く息を吸い込んだ。
「ノア様、私と……結婚してくださいませ」
「……私のランバンデッド視察も唐突だったと思うが、それ以上だな」
 ノアは余裕ありげな表情を崩さなかった。言葉とは裏腹に、然程さほどおどろいた様子でもない。一国の王たる身にしてみれば、求婚などありふれた話なのかもしれない。ベアトリスはそれを受けて、実利に訴えかけるよう話頭わとうを変じた。
「ノア様は私の持つ軍事力に、西岸フィスカルボまでの広大な版図と財を手に入れる。この点には異論を挟む余地はないはずです。リードホルムの貴族たちなどは、これをこそ警戒していたのですから」
 早口でまくし立てるベアトリスを、ノアは不思議そうに眺めている。ベアトリスはすぐに恥じ入って口を閉じた。
「……突然で、不躾ぶしつけな申し出であることは承知しています。ですが……」
「構わんさ。王族の男子にとっては、それほど珍しい話でもない。私は例外だったが」
「そ、それはどういった……?」
「この世界ではよくある話だ。即位前まで、私は常に権力の傍流ぼうりゅうにいた。そして王になったらなったで、あなたの軍事力なしでは王座を維持できぬほど非力な王というのではな。目ざとい貴族ならば、次を見据えて手駒は出し惜しむ……おっと、いやな言い方だったかな」
「い、いえ、そんな」
「手駒呼ばわりされて心地のよい女性もおるまい。父王の妹、私の叔母に当たるエヴェリーナなどは、閨閥けいばつを強化するためアッペルトフト家に降嫁こうかさせられ、今は時の黎明館ツー・グリーニン蟄居ちっきょの身だ。あわれなことだが、さして珍しい話ではない。残念ながらな」
「そうですが……そうではなく」
「……」
 ふたりは互いに言葉を失ってしまった。話が噛み合っていない。ノアが意図的に回答をはぐらかしているようでもある。
「……ノア様、ご返答を!」
「あ、すまん」
 ベアトリスが意を決して詰め寄ると、ノアは本当にうっかりしていたという顔をした。
「……あなたを、ベアトリス・ローセンダールを、リードホルム王の妻として迎えることを約束しよう」
 ノアはソファから立ち上がり、ベアトリスを見据えて宣誓するように言った。
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