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第11話・決意
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ロイドが案内してくれたのは、庭の中枢にあるコンサバトリーだった。
ガラス張りのそこには、特に温度調整の必要になる植物がいくつも保管されていて、微かな魔力によっで暖かさが保たれている。
案内されるままに、中央の椅子に座ったグレースは、ほう…と吐息を吐き出した。
「懐かしいわね、ここ」
「ふふ、昔はよくここで内緒のお話をしましたよね。お嬢様、いつも泣いていたから……。僕にできることはなんだろうって、父から鍵をくすねて、ここに……」
「まあ、そうだったの?」
「はい。結構カンカンに怒られましたよ。それでも懲りなかったから、そのうち諦めて、ここの管理を任されて……今ではこの屋敷の庭の半分は、僕の管轄なんです」
「そう。頑張っているのね。お父様にもお伝えしておくわ」
にこ、と前髪の奥で笑うと、ロイドは苦笑いをした。
「まさか。よしてください……旦那様には僕、よく思われていないんですよ」
「え?そうなの?」
「旦那様は、お嬢様をずいぶん可愛がってらっしゃいますから。余計な虫はつけたくないのでしょう」
「虫だなんて……ロイドだけよ。私とこんなふうに仲良くしてくれるのは」
「案外、そう思っているのはお嬢様だけかもしれませんよ。みんな貴方に話しかけたくても、いろんな障壁が邪魔をして……僕には幸い、その障壁が無かっただけかも」
相変わらず優しいロイドの言葉に、グレースは泣き笑いのような表情を浮かべた。
そんなわけが無い、と言うことは分かっているのに、否定したら、ロイドの思いやりごと拒絶することになってしまう気がして、言葉が出てこない。
彼の優しさに報いる方法も、両親に誇れる自分でいられる道も、まだ何も、見つけられていない。
ロイドの気遣いが、余計にグレースの焦燥感を煽った。
「私、…………きっと、結婚するのも、この家を継ぐのも、無理なんだわ」
「!そんなこと、」
「いいの。昨日の事で、もう覚悟…してるから……」
「だ、だったら、お嬢様、その」
「だからね、私、決めたの」
「僕と───はい?」
「私、魔法師になる」
焦燥感に背を押されるまま、グレースはそんなことを口走っていた。
貴族令嬢の“スタンダード”は、結婚をして、子供を産んで、その血を絶やさないために美貌を磨くこと。
対して魔法師は、そのおよそ7~8割が男性。平民も貴族も関係なく、抜きん出た才のあるものだけが、その称号を手に入れる。学園の魔法師養成科に入る貴族令嬢・令息達の動機のほとんどは“なんとなく”で、教養科目のカリキュラムが充実しているから、そこに在籍しているに過ぎない。
だから、まさか貴族令嬢が本気で魔法師を目指すなんて、誰も思わないだろう。魔法師は国の結界を運営したり、魔獣を退治したり、魔法の研究をしたりする、ゴリゴリの男性職だ。
もしグレースが「魔法師を目指している」と口外すれば、忽ち変わり者として名を馳せ、貴族令嬢としての格はいよいよ地に堕ちるだろう。
それでも、グレースには「呪いの副作用」として、その身に余る膨大な魔力と毒物耐性がある。魔法の才には悉く恵まれていたのだ。
結婚できない自分が、フォンディナム伯爵家に報いる方法。
それは、立派な魔法師になって、歴史に名を刻むこと。
それしか無いと、グレースはなかば追い詰められるように決断した。してしまった。
「お、お嬢様、その、それは、本気……ですよね」
「勿論です。私、もうそれしか道が無いんだわ。早速明日の朝、婚約解消の件も含めて、お父様にお伝えしないと」
「ちょ、ちょっと待ってください。明日っ?」
「ええ。もう私には卒業まで2年の猶予しかないもの。早く本腰を入れなくちゃ」
およそ正気とは思えない、崖っぷちに追い詰められた可哀想な女の子の決断に、ロイドはこれでもかと瞠目した。
「今日はありがとう、ロイド。私……頑張るわ」
「あ、ちょっと待ってくださいお嬢様、まだ……!」
「まだ?」
「ま、まだ、その、お話し足りないこととか……ないですか?」
「もう十分よ。ありがとう」
貴族令嬢らしくく優雅に頷いたグレースを見て、ロイドはどこか落胆したように首を落とした。
ガラス張りのそこには、特に温度調整の必要になる植物がいくつも保管されていて、微かな魔力によっで暖かさが保たれている。
案内されるままに、中央の椅子に座ったグレースは、ほう…と吐息を吐き出した。
「懐かしいわね、ここ」
「ふふ、昔はよくここで内緒のお話をしましたよね。お嬢様、いつも泣いていたから……。僕にできることはなんだろうって、父から鍵をくすねて、ここに……」
「まあ、そうだったの?」
「はい。結構カンカンに怒られましたよ。それでも懲りなかったから、そのうち諦めて、ここの管理を任されて……今ではこの屋敷の庭の半分は、僕の管轄なんです」
「そう。頑張っているのね。お父様にもお伝えしておくわ」
にこ、と前髪の奥で笑うと、ロイドは苦笑いをした。
「まさか。よしてください……旦那様には僕、よく思われていないんですよ」
「え?そうなの?」
「旦那様は、お嬢様をずいぶん可愛がってらっしゃいますから。余計な虫はつけたくないのでしょう」
「虫だなんて……ロイドだけよ。私とこんなふうに仲良くしてくれるのは」
「案外、そう思っているのはお嬢様だけかもしれませんよ。みんな貴方に話しかけたくても、いろんな障壁が邪魔をして……僕には幸い、その障壁が無かっただけかも」
相変わらず優しいロイドの言葉に、グレースは泣き笑いのような表情を浮かべた。
そんなわけが無い、と言うことは分かっているのに、否定したら、ロイドの思いやりごと拒絶することになってしまう気がして、言葉が出てこない。
彼の優しさに報いる方法も、両親に誇れる自分でいられる道も、まだ何も、見つけられていない。
ロイドの気遣いが、余計にグレースの焦燥感を煽った。
「私、…………きっと、結婚するのも、この家を継ぐのも、無理なんだわ」
「!そんなこと、」
「いいの。昨日の事で、もう覚悟…してるから……」
「だ、だったら、お嬢様、その」
「だからね、私、決めたの」
「僕と───はい?」
「私、魔法師になる」
焦燥感に背を押されるまま、グレースはそんなことを口走っていた。
貴族令嬢の“スタンダード”は、結婚をして、子供を産んで、その血を絶やさないために美貌を磨くこと。
対して魔法師は、そのおよそ7~8割が男性。平民も貴族も関係なく、抜きん出た才のあるものだけが、その称号を手に入れる。学園の魔法師養成科に入る貴族令嬢・令息達の動機のほとんどは“なんとなく”で、教養科目のカリキュラムが充実しているから、そこに在籍しているに過ぎない。
だから、まさか貴族令嬢が本気で魔法師を目指すなんて、誰も思わないだろう。魔法師は国の結界を運営したり、魔獣を退治したり、魔法の研究をしたりする、ゴリゴリの男性職だ。
もしグレースが「魔法師を目指している」と口外すれば、忽ち変わり者として名を馳せ、貴族令嬢としての格はいよいよ地に堕ちるだろう。
それでも、グレースには「呪いの副作用」として、その身に余る膨大な魔力と毒物耐性がある。魔法の才には悉く恵まれていたのだ。
結婚できない自分が、フォンディナム伯爵家に報いる方法。
それは、立派な魔法師になって、歴史に名を刻むこと。
それしか無いと、グレースはなかば追い詰められるように決断した。してしまった。
「お、お嬢様、その、それは、本気……ですよね」
「勿論です。私、もうそれしか道が無いんだわ。早速明日の朝、婚約解消の件も含めて、お父様にお伝えしないと」
「ちょ、ちょっと待ってください。明日っ?」
「ええ。もう私には卒業まで2年の猶予しかないもの。早く本腰を入れなくちゃ」
およそ正気とは思えない、崖っぷちに追い詰められた可哀想な女の子の決断に、ロイドはこれでもかと瞠目した。
「今日はありがとう、ロイド。私……頑張るわ」
「あ、ちょっと待ってくださいお嬢様、まだ……!」
「まだ?」
「ま、まだ、その、お話し足りないこととか……ないですか?」
「もう十分よ。ありがとう」
貴族令嬢らしくく優雅に頷いたグレースを見て、ロイドはどこか落胆したように首を落とした。
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