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第14話 「少年」
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「Vulnus Sana!...この程度で申し訳ないが、ひとまずこれで」
カイルが簡易な回復魔法を詠唱し、私の背中に手を翳してくれた。
傷の痛みがもたらすそれとは違う、ほのかな温かみが傷を包んでいくのがわかる。
エリックをはじめとした騎士たちの奮戦もあり、魔獣たちは撤退して既にその姿はなかった。
幸いにも重傷者や死者は出ずに済んだようで、騎士たちの実力の高さを改めて感じる。
「...おねえちゃん、ごめんなさい...ぐずっ...」
我を取り戻した少年が、涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしながら私たちに謝っていた。
「怪我はない?」
私が聞くと、少年はブンブンと頷いた。
何はともあれ、この少年が無傷でよかった。そう思うと、こんな状況とはいえふっと笑みがこぼれた。
我ながら、だんだん大胆になってきたのかもしれない。
泣きじゃくる少年がなんだか可哀想になってきたので、気を落ち着かせるためにも声をかけることにした。
「どうしてこんなところにいたの?」
「ずっとおうちの外に出れなくて...おとうさんやおかあさんも暗い顔して遊んでくれないから...」
「そう...でももう危ないからちゃんと家にいなくてはだめよ。きっとまた外で遊べるようになりますからね」
「うん...うん...ごめんなさい...あの...おねえちゃん、おなまえなんていうの?」
「わたし?わたしはエレナ...エレナ・ローズウッドよ」
「エレナおねえちゃん...ほんとうにありがとう!僕はサイっていうんだ」
「そう、サイ。いつかきっと道は開けるのだから、それまでお互いがんばりましょうね」
「うん...わかった。僕、がんばるよ。エレナおねえちゃんもね。またね!」
まだ涙ぐみながら手を振る少年を諭し、騎士たちに家まで送られていくその後ろ姿を見て少し胸が痛んだ。
あれぐらいの子どもにとって、家に篭っていろというのは酷なことだろう。
「エレナ嬢、あなたは勇敢で...優しいのだな」
私と少年のやりとりを見ていたカイルが、私を見て微笑んだ。
そういえば、この人の微笑みは初めて見たかもしれない...そんなことを意識すると、急に恥ずかしくなってきた。
「あの...ごめんなさい。無謀でした」
必死の興奮状態が落ち着いたあとは、次第に自分の行為の無謀さに今更ながら恐怖心が湧いてきた。
「いえ...全ての責任は私にあります。いかなる事態にも備えるべきだった。全く油断がなかったといえば嘘になる」
そういってカイルは微笑みを消し、わずかに悔しそうな顔をした。
この生真面目な騎士団長は、私の怪我も自分の責任の範疇と考えているようだった。
「人は万能ではないですから...それに、あなたが私を助けてくれました。改めてお礼を申し上げます」
「いえ...」
少し照れくさそうにするカイルの背中を、エリックがバシバシと叩いた。
「そうだ、お前が悪い。大事な女を守れない男に存在価値はないぞ!」
「だからお前は...」
たちまち険しい顔に戻ったカイルを無視して、エリックは私の方へ向き直った。
「エレナちゃん、立派だったぜ。惚れ直した。今度は俺が守ってやるからな」
「はぁ、それはどうも...」
いつものおふざけかと思いきや、意外にエリックにはふざけた様子もなく、真摯といってよい表情だった。
そのギャップにいささかも心動かされることはなかった...といえば嘘になる。
「だから俺にしとけ。な?」
「いや、誰にするとかそういうことは...」
エリックは、真摯な表情から一転して、私の返事も聞かず高笑いしながら部下たちを取りまとめるために去っていった。
(モテモテだねぇ)
(...精霊王ならもうちょっと精霊術でなんとかならなかったのかしら)
(いやはや面目ない...術の発動が遅いのは精霊術の難点でね...ああいう局面ではなかなか)
(冗談よ。私が軽率だったわ。からかいのお返しよ)
(今後一層精進することを誓うよ)
そんなことを言っているうちに、どうかにフローズンレイクに帰り着いた。
もともと大した傷ではなかったのと、カイルが即座に回復魔法を使ってくれたおかげで大事には至らなかったが、疲労困憊していた。その日はすぐに休むことにしたが、明日にはニヴェルガルドへ行きたい旨を伝える。
カイルはしばらく休んではどうかと提案してくれたが、私は譲らなかった。
サイとの約束もある。困っている人々のために、何かできることがあるのなら、すぐにでもしてあげたい。
そんな気持ちになっていたのだ。カイルも結局は折れてくれ、明朝ニヴェルガルドへ向かうことになった。
カイルが簡易な回復魔法を詠唱し、私の背中に手を翳してくれた。
傷の痛みがもたらすそれとは違う、ほのかな温かみが傷を包んでいくのがわかる。
エリックをはじめとした騎士たちの奮戦もあり、魔獣たちは撤退して既にその姿はなかった。
幸いにも重傷者や死者は出ずに済んだようで、騎士たちの実力の高さを改めて感じる。
「...おねえちゃん、ごめんなさい...ぐずっ...」
我を取り戻した少年が、涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしながら私たちに謝っていた。
「怪我はない?」
私が聞くと、少年はブンブンと頷いた。
何はともあれ、この少年が無傷でよかった。そう思うと、こんな状況とはいえふっと笑みがこぼれた。
我ながら、だんだん大胆になってきたのかもしれない。
泣きじゃくる少年がなんだか可哀想になってきたので、気を落ち着かせるためにも声をかけることにした。
「どうしてこんなところにいたの?」
「ずっとおうちの外に出れなくて...おとうさんやおかあさんも暗い顔して遊んでくれないから...」
「そう...でももう危ないからちゃんと家にいなくてはだめよ。きっとまた外で遊べるようになりますからね」
「うん...うん...ごめんなさい...あの...おねえちゃん、おなまえなんていうの?」
「わたし?わたしはエレナ...エレナ・ローズウッドよ」
「エレナおねえちゃん...ほんとうにありがとう!僕はサイっていうんだ」
「そう、サイ。いつかきっと道は開けるのだから、それまでお互いがんばりましょうね」
「うん...わかった。僕、がんばるよ。エレナおねえちゃんもね。またね!」
まだ涙ぐみながら手を振る少年を諭し、騎士たちに家まで送られていくその後ろ姿を見て少し胸が痛んだ。
あれぐらいの子どもにとって、家に篭っていろというのは酷なことだろう。
「エレナ嬢、あなたは勇敢で...優しいのだな」
私と少年のやりとりを見ていたカイルが、私を見て微笑んだ。
そういえば、この人の微笑みは初めて見たかもしれない...そんなことを意識すると、急に恥ずかしくなってきた。
「あの...ごめんなさい。無謀でした」
必死の興奮状態が落ち着いたあとは、次第に自分の行為の無謀さに今更ながら恐怖心が湧いてきた。
「いえ...全ての責任は私にあります。いかなる事態にも備えるべきだった。全く油断がなかったといえば嘘になる」
そういってカイルは微笑みを消し、わずかに悔しそうな顔をした。
この生真面目な騎士団長は、私の怪我も自分の責任の範疇と考えているようだった。
「人は万能ではないですから...それに、あなたが私を助けてくれました。改めてお礼を申し上げます」
「いえ...」
少し照れくさそうにするカイルの背中を、エリックがバシバシと叩いた。
「そうだ、お前が悪い。大事な女を守れない男に存在価値はないぞ!」
「だからお前は...」
たちまち険しい顔に戻ったカイルを無視して、エリックは私の方へ向き直った。
「エレナちゃん、立派だったぜ。惚れ直した。今度は俺が守ってやるからな」
「はぁ、それはどうも...」
いつものおふざけかと思いきや、意外にエリックにはふざけた様子もなく、真摯といってよい表情だった。
そのギャップにいささかも心動かされることはなかった...といえば嘘になる。
「だから俺にしとけ。な?」
「いや、誰にするとかそういうことは...」
エリックは、真摯な表情から一転して、私の返事も聞かず高笑いしながら部下たちを取りまとめるために去っていった。
(モテモテだねぇ)
(...精霊王ならもうちょっと精霊術でなんとかならなかったのかしら)
(いやはや面目ない...術の発動が遅いのは精霊術の難点でね...ああいう局面ではなかなか)
(冗談よ。私が軽率だったわ。からかいのお返しよ)
(今後一層精進することを誓うよ)
そんなことを言っているうちに、どうかにフローズンレイクに帰り着いた。
もともと大した傷ではなかったのと、カイルが即座に回復魔法を使ってくれたおかげで大事には至らなかったが、疲労困憊していた。その日はすぐに休むことにしたが、明日にはニヴェルガルドへ行きたい旨を伝える。
カイルはしばらく休んではどうかと提案してくれたが、私は譲らなかった。
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そんな気持ちになっていたのだ。カイルも結局は折れてくれ、明朝ニヴェルガルドへ向かうことになった。
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