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第2話 辺境への帰還
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馬車に揺られること五日間。ようやく見えてきたヴァンベール城は、想像以上に荒れ果てていた。
灰色の石壁には蔦が絡まり、庭は雑草だらけ。城門を守る兵士たちも、疲れ切った表情をしている。
「セラフィーナ様、お帰りなさいませ」
城の執事ベルナールが深々と頭を下げた。六十過ぎの老紳士は、私が幼い頃から仕えてくれている。
「ただいま、ベルナール。でも、これは……」
「お恥ずかしい限りです。先代様が亡くなられてから、領地の経営は困難を極めておりまして」
そうだった。この領地は三年前に父が亡くなってから、事実上放置されていた。私は王都での婚約者教育に忙しく、領地のことなど考える余裕がなかった。
執務室に案内されると、山積みの書類が待っていた。
「うわぁ……」
思わず声が出る。財政報告、領民からの請願書、近隣領主からの書簡、魔物討伐の報告書。全てが未処理のまま積み上げられている。
「とりあえず、現状を教えてください」
「はい。まず財政ですが、ほぼ破綻状態です」
「えっ」
「王都への献金、先代様の残した借金、そして北方の魔物対策費。収入の三倍の支出が続いています」
これは想像以上に酷い。
「領民の数は?」
「最盛期の半分以下。若者の多くが王都や南部の都市に出稼ぎに行ったまま、戻ってきません」
「魔物の被害は?」
「月に二、三度、小規模な襲撃があります。幸い、騎士団がなんとか防いでおりますが……」
ベルナールは言いにくそうに続けた。
「騎士団の給与が三ヶ月滞っております。彼らは忠義のために留まってくれていますが、いつまで持つか」
私は頭を抱えた。これは破滅ルートより酷いんじゃないだろうか。
でも、諦めるわけにはいかない。ここは私の領地で、領民たちは私の責任だ。
「分かりました。まずは収入を増やす方法を考えましょう」
その時、執務室のドアがノックされた。
「失礼します。騎士団長のレオンハルト・フォン・シュタインです」
入ってきたのは、黒髪黒眼の厳つい男性だった。三十代半ばぐらいだろうか。傷だらけの顔と鋭い眼光が、歴戦の戦士であることを物語っている。
「セラフィーナ様、お帰りなさいませ。早速で恐縮ですが、報告があります」
「どうぞ」
「昨夜、北の森で大型の魔物の足跡を発見しました。おそらくワイバーンクラスです」
「ワイバーン!?」
それは原作にも登場した、上級の魔物だ。小さな村なら一夜で壊滅させる力を持っている。
「はい。ここ数年で最大の脅威です。至急、討伐隊を編成する必要がありますが……」
レオンハルトは言葉を濁した。予算がない、と言いたいのだろう。
私は書類の山を見つめた。財政難、人手不足、そして迫りくる魔物の脅威。
でも、不思議と怖くはなかった。むしろ、なんだかワクワクしてきた。
「レオンハルト騎士団長、相談があります」
「はい」
「私、この領地を立て直してみせます。そのために、あなたの力を貸してください」
レオンハルトは驚いたように目を見開いた後、ゆっくりと膝をついた。
「騎士団長レオンハルト・フォン・シュタイン、謹んでお仕えいたします、我が君」
こうして、私の辺境開拓生活が始まった。
灰色の石壁には蔦が絡まり、庭は雑草だらけ。城門を守る兵士たちも、疲れ切った表情をしている。
「セラフィーナ様、お帰りなさいませ」
城の執事ベルナールが深々と頭を下げた。六十過ぎの老紳士は、私が幼い頃から仕えてくれている。
「ただいま、ベルナール。でも、これは……」
「お恥ずかしい限りです。先代様が亡くなられてから、領地の経営は困難を極めておりまして」
そうだった。この領地は三年前に父が亡くなってから、事実上放置されていた。私は王都での婚約者教育に忙しく、領地のことなど考える余裕がなかった。
執務室に案内されると、山積みの書類が待っていた。
「うわぁ……」
思わず声が出る。財政報告、領民からの請願書、近隣領主からの書簡、魔物討伐の報告書。全てが未処理のまま積み上げられている。
「とりあえず、現状を教えてください」
「はい。まず財政ですが、ほぼ破綻状態です」
「えっ」
「王都への献金、先代様の残した借金、そして北方の魔物対策費。収入の三倍の支出が続いています」
これは想像以上に酷い。
「領民の数は?」
「最盛期の半分以下。若者の多くが王都や南部の都市に出稼ぎに行ったまま、戻ってきません」
「魔物の被害は?」
「月に二、三度、小規模な襲撃があります。幸い、騎士団がなんとか防いでおりますが……」
ベルナールは言いにくそうに続けた。
「騎士団の給与が三ヶ月滞っております。彼らは忠義のために留まってくれていますが、いつまで持つか」
私は頭を抱えた。これは破滅ルートより酷いんじゃないだろうか。
でも、諦めるわけにはいかない。ここは私の領地で、領民たちは私の責任だ。
「分かりました。まずは収入を増やす方法を考えましょう」
その時、執務室のドアがノックされた。
「失礼します。騎士団長のレオンハルト・フォン・シュタインです」
入ってきたのは、黒髪黒眼の厳つい男性だった。三十代半ばぐらいだろうか。傷だらけの顔と鋭い眼光が、歴戦の戦士であることを物語っている。
「セラフィーナ様、お帰りなさいませ。早速で恐縮ですが、報告があります」
「どうぞ」
「昨夜、北の森で大型の魔物の足跡を発見しました。おそらくワイバーンクラスです」
「ワイバーン!?」
それは原作にも登場した、上級の魔物だ。小さな村なら一夜で壊滅させる力を持っている。
「はい。ここ数年で最大の脅威です。至急、討伐隊を編成する必要がありますが……」
レオンハルトは言葉を濁した。予算がない、と言いたいのだろう。
私は書類の山を見つめた。財政難、人手不足、そして迫りくる魔物の脅威。
でも、不思議と怖くはなかった。むしろ、なんだかワクワクしてきた。
「レオンハルト騎士団長、相談があります」
「はい」
「私、この領地を立て直してみせます。そのために、あなたの力を貸してください」
レオンハルトは驚いたように目を見開いた後、ゆっくりと膝をついた。
「騎士団長レオンハルト・フォン・シュタイン、謹んでお仕えいたします、我が君」
こうして、私の辺境開拓生活が始まった。
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