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第二章
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初めて目の当たりにするライ王の姿に、サフィアは思わず息を呑んだ。
黒獅子と呼ばれるのは、ライ王がかつて前王に冷遇されていた当時、幾度も僻地での討伐を命じられ、騎士として功績を上げていた頃の名残りだ。
この国では珍しい黒髪を翻し、抜きん出た体躯で戦場を支配したライは、国の守り神である獅子の姿に例えられた。
ライは騎士達の憧れであり、リヒトもまたその中の一人だった。
凱旋するライを、羨望の眼差しで見つめていたリヒトの横顔は、今でもサフィアの記憶に刻まれている。
ずらりと並んで凱旋する騎士達の中で、ライは特別に抜きん出て逞しく、長く靡く黒髪は怜悧な顔立ちを一際際立たせていた。
相まみえることなど想像もできなかったライが、今サフィアの目前に存在している。
裏切られることなど想像もできなかったリヒトは、とうにサフィアの元を去ってしまったと言うのに。
「随分と懐いているようだな。」
低く艶のある声に、サフィアははっと我に返った。
王に口上を述べようと頭を垂れようとした所で、ルイがついと一歩前に踏み出す。
王とサフィアの間に立つと、ルイは両手を広げてライを見上げた。
「…一体何の真似だ?」
その姿は、まるで父親である王から、サフィアを守ろうとしているかのように見えた。
「余が其方の世話係を奪うとでも?」
「サフィアは、ルイのサフィアです。」
王の圧に屈する事なく、ルイは同じ色をした父親の瞳をじっと見据えた。
「まだまだ未熟な姿だと言うのに、独占欲だけは一人前なのだな。」
皮肉げな笑みを浮かべると、ライはいとも簡単にルイを押し除け、サフィアへと近づいた。
「其方では役不足だと、レノアール家から毎日のように申し立てがきている。鬱陶しいぐらいにな。」
押し除けられたルイは、その場にころりと転がった。
「役不足かどうか、余が直接確認しに来たのだ。」
すっとライが手を伸ばす。
その手がサフィアの泣きぼくろに触れると、サフィアはびくりと跳ね上がった。
「其方には王太子をも惑わす、余にも計り知れぬ隠れた能力があるのか?」
王の尊顔を直視することなど出来ない。
触れられるがまま顔を伏せることしかできずにいるサフィアの顎を、ライがついと持ち上げる。
意図せず直視してしまった感情の読み取れない瞳は、ルイと同じ金色をしていた。
「…お、恐れながら、わたくしにはそのような能力など、何もございません。」
目を合わせてはならないのに、ライの瞳から目を逸らすことができない。
「…いいだろう。新しい世話係を探すのも面倒だ。これ程まで懐いているのだから、其方がこのままルイの面倒を見ればよい。」
ライの手がサフィアから離れると、転がっていたルイがむくりと起き上がり、泣きそうな顔をしてサフィアに抱きつく。
そんな二人の様子を一瞥すると、振り返ることなくライは去っていった。
サフィアは何の前ぶれもなく突然嵐が訪れ、突然去っていったような、そんな気持ちに襲われた。
「…ルイ王子、お怪我はありませんか?」
小さく頷くルイを宥めるように抱き上げると、ルイは少しだけ震えていた。
「…父上がいるから、サフィアはルイといてくれるのですか?」
小さな手は、そう言いながらサフィアの泣きぼくろにそっと触れた。
「…王子?」
ルイはそのまま黙り込むと、その日は殆ど口を開くことなく、サフィアの側を離れることはなかった。
黒獅子と呼ばれるのは、ライ王がかつて前王に冷遇されていた当時、幾度も僻地での討伐を命じられ、騎士として功績を上げていた頃の名残りだ。
この国では珍しい黒髪を翻し、抜きん出た体躯で戦場を支配したライは、国の守り神である獅子の姿に例えられた。
ライは騎士達の憧れであり、リヒトもまたその中の一人だった。
凱旋するライを、羨望の眼差しで見つめていたリヒトの横顔は、今でもサフィアの記憶に刻まれている。
ずらりと並んで凱旋する騎士達の中で、ライは特別に抜きん出て逞しく、長く靡く黒髪は怜悧な顔立ちを一際際立たせていた。
相まみえることなど想像もできなかったライが、今サフィアの目前に存在している。
裏切られることなど想像もできなかったリヒトは、とうにサフィアの元を去ってしまったと言うのに。
「随分と懐いているようだな。」
低く艶のある声に、サフィアははっと我に返った。
王に口上を述べようと頭を垂れようとした所で、ルイがついと一歩前に踏み出す。
王とサフィアの間に立つと、ルイは両手を広げてライを見上げた。
「…一体何の真似だ?」
その姿は、まるで父親である王から、サフィアを守ろうとしているかのように見えた。
「余が其方の世話係を奪うとでも?」
「サフィアは、ルイのサフィアです。」
王の圧に屈する事なく、ルイは同じ色をした父親の瞳をじっと見据えた。
「まだまだ未熟な姿だと言うのに、独占欲だけは一人前なのだな。」
皮肉げな笑みを浮かべると、ライはいとも簡単にルイを押し除け、サフィアへと近づいた。
「其方では役不足だと、レノアール家から毎日のように申し立てがきている。鬱陶しいぐらいにな。」
押し除けられたルイは、その場にころりと転がった。
「役不足かどうか、余が直接確認しに来たのだ。」
すっとライが手を伸ばす。
その手がサフィアの泣きぼくろに触れると、サフィアはびくりと跳ね上がった。
「其方には王太子をも惑わす、余にも計り知れぬ隠れた能力があるのか?」
王の尊顔を直視することなど出来ない。
触れられるがまま顔を伏せることしかできずにいるサフィアの顎を、ライがついと持ち上げる。
意図せず直視してしまった感情の読み取れない瞳は、ルイと同じ金色をしていた。
「…お、恐れながら、わたくしにはそのような能力など、何もございません。」
目を合わせてはならないのに、ライの瞳から目を逸らすことができない。
「…いいだろう。新しい世話係を探すのも面倒だ。これ程まで懐いているのだから、其方がこのままルイの面倒を見ればよい。」
ライの手がサフィアから離れると、転がっていたルイがむくりと起き上がり、泣きそうな顔をしてサフィアに抱きつく。
そんな二人の様子を一瞥すると、振り返ることなくライは去っていった。
サフィアは何の前ぶれもなく突然嵐が訪れ、突然去っていったような、そんな気持ちに襲われた。
「…ルイ王子、お怪我はありませんか?」
小さく頷くルイを宥めるように抱き上げると、ルイは少しだけ震えていた。
「…父上がいるから、サフィアはルイといてくれるのですか?」
小さな手は、そう言いながらサフィアの泣きぼくろにそっと触れた。
「…王子?」
ルイはそのまま黙り込むと、その日は殆ど口を開くことなく、サフィアの側を離れることはなかった。
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