黒獅子の愛でる花

なこ

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第四章

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もう何日もまともに眠れていない。

サフィアの様子は、王宮に来たばかりの頃と比べると、明らかに憔悴していた。

「ルイ王子、今日はいかがいたしましょう?何か読みたい本はありますか?それとも…」

尋ねるサフィアをじっと見つめていたかと思うと、おもむろにルイは立ち上がった。

「ルイ王子?」

首を傾げるサフィアの手を取ると、部屋の外へとその手を引く。

「…どこか行きたい所でもあるのですか?」

ルイは何も言わずに、サフィアの手をぐいぐいと引き寄せ、ゆっくりと進んでいく。

されるがままに後をついていくと、東宮を出て中央殿へ繋がる回廊まで辿り着いた。

「中庭を見たかったのですか?」

ルイが自ら此処を訪れるのは、初めてのことだ。

回廊で立ち止まると思いきや、ルイは立ち止まることなく、中庭まで足を進める。

「王子、この先は…」

この先では鮮やかに咲き誇る花から花へ、ひらひらと蝶が舞い踊る。

一度ぴたりと歩みを止めると、ルイは意を決したように、庭の奥へとサフィアを促した。

回廊からは見えなかった中庭の奥へ進むと、小さな噴水と東屋が見える。

隠れ家のようなその場所から臨む景色は、回廊から見ていた景色とはまるで違う。

「…ここは、ルイの庭です。」

小さな噴水も、小ぢんまりとした東屋も、よく見れば全てがルイの為に作られているようだ。

「王子の隠れ家なのですね。」

こくりとルイは頷く。

「こんな素敵な場所に連れて来て頂いて、とても嬉しいです。ルイ王子、ありがとうございます。」

ルイは満足そうに、また深く頷いた。

東屋に備え付けられた小さな椅子に腰を下ろすと、サフィアは時間を忘れて美しい眺めに見惚れた。

そんなサフィアに倣って、ルイも隣に腰を下ろす。

二人の周りをひらひらと蝶が舞う。

「…蝶は、ルイのことをきらいです。」

ふいに、ルイが呟く。

「王子?」

「ルイのせいで、しんだから。だから、ここには、あまり来れません。」

ルイは少しだけ顔を歪ませた。

「…何を仰っているのですか?そんなことありません。王子は決してそんなことをしません。サフィアには分かっています。だから、大丈夫ですよ。」

王子はきっと、本当は蝶のことが好きなのだろう。

何があったのか検討もつかないが、今にも泣き出しそうなルイのことを、サフィアはそっと抱き寄せる。

小さな肩はふるふると、暫くの間震えていた。




今晩は満月だ。

窓辺にぼんやりと佇みながら、サフィアは今日の出来事を振り返る。

自分だけが苦しいような気がしていた。

あんな小さな王子でさえ、抱えている何かがあったのだ。

それだけじゃない。

今になって思えば、ルイがサフィアを連れ出してくれたのは、きっとサフィアのためだろう。

月明かりに誘われ、サフィアはいつしか無意識の内に、ふらふらと彷徨い始めた。

気がつけば、そこは中庭だ。

ああ、風が気持ちいい。

ここでなら、このまま眠れるだろうか。

眠れる場所を求め、奥へ奥へと彷徨い続ける。


「…そこで、何をしている?」


低く艶のある声だ。

何をしている?

何をしていたのだろう?

振り返った先には、リヒトの憧れていた黒獅子がいる。

夢?

二度瞬きをして、サフィアははっと我に返った。

そこにいたのは、紛れもなく黒獅子だった。

その後ろには、側近のエリクと護衛が控えている。

さーっと血の気が引いていく。

月明かりに照らされたライ王が、悠然とサフィアのことを見下ろしていた。
















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