黒獅子の愛でる花

なこ

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第五章

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あれだけ眠れない日々が続いていたのが嘘のようだ。

最近のサフィアはよく眠れる。

今朝もすっきり目覚めると、今日は何をしようかと考えただけで心が踊った。

ルイはとても好奇心旺盛だ。あれもこれも、様々なことに興味を持つ。

次の生誕祭を過ぎれば、ルイには本格的な教育が施される。

科目ごとに専門の教師が付けられる予定だ。

それまで少しの間でも、サフィアは自分の知るあらゆることを、惜しみなくルイに教えようと思う。

誰もサフィアを咎める人はいない。

知っていることを知っていると、当たり前のように言う事ができる。

勿論、知らないことや、曖昧なこともある。そんな時は、ルイを連れて中宮の書庫に行けばいい。サフィアもルイも本が好きだ。二人は何時間でも、そこで過ごす事ができた。

生家にいたときは考えもしなかったが、案外自分はこういった仕事が好きなのかもしれない。

ルイの世話係を外されるときがきたら、その後はこうした仕事を生業にして生きていくのも悪くない。

時間通りにルイの元を訪れると、ルイは待ち侘びた様子でサフィアを迎えてくれた。

「おはようございます、ルイ王子。」

「おはようございます。サフィア、これを。」

ルイから差し出されたものは、一枚の絵だった。

「…やっと、納得のいくものが描けたそうです。何度も書き直していたようですよ。」

先に来ていた使用人が、そっとサフィアに教えてくれる。

丸めた紙を開くと、サフィアの顔はみるみると綻んだ。

そんなサフィアを見上げ、ルイはにんまりと笑っていた。




綺麗に伸ばして掛けられた羽織りは、黒色に金色の刺繍が施された高価な代物だ。

そっと触れれば、するりとして、まだ微かに異国の香りが残っている。

後ろめたい気もあるが、サフィアはそっとその香りを吸い込む。

翌日、エリクを通して返そうとしたが、断られた。

王は自分のものを人に貸すことはない。誰かに渡したのだとすれば、それは王にとって、もう不要なことを意味するそうだ。

返す方が不敬だと言われてしまった。

あの晩以降、ライとの接点はまるでない。

はもうないだろう。

この羽織りは、あの不思議な一夜が現実であったことの、唯一の証だ。

その隣に、ルイから貰った絵を飾る。

羽織りと絵とが並んだ壁を数刻眺めると、サフィアはようやくペンを取った。

宛先は、生家とリヒト・グレファムだ。




朝からしとしとと降り続く雨を眺めながら、サフィアは少しだけ拍子抜けしていた。

心を決めて漸く二通の書簡を出したのに、それ以降サフィアへ届く書簡は一通もない。

「…サフィア、これは?」

ルイの部屋には、東国の書籍が多い。

自分でも読めるようになりたいと言うルイのために、サフィアは少しずつ東国の言葉を教えている。

厄介なのは、古語で書かれたものが多いことだ。

古語では、現在使われている言葉と意味合いが異なるものも多い。

サフィアは丁寧に、わかりやすいように説明をした。

夕刻前の、気だるい午後の時間だ。

ルイは、うとうとし始めている。

…少し休ませよう。

そう思い、サフィアが立ちあがろうとすると、エリクの声がする。

エリクは時折、ルイとサフィアの様子を伺いに来るのだ。

いつものように、エリクを迎え入れようと扉を開けたサフィアの動きが止まる。

……え?

悠然と待ち構えていたのは、気怠そうに腕を組んだライだった。










































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