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第六章
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しおりを挟むライが王になることを望んでいたのは、カリンの父であるザギエラだ。
幼い時に母を亡くし、西宮の離れでずっと冷遇されていたライのことを、唯一気にかけてくれたのがザギエラだった。
当時、他にライを気に掛ける者は誰もいなかった。
ザギエラの望む通りに感情を殺し、ひたすら学び、剣を振るった。
ザギエラの望む通りに、カリンを王妃とし、世継ぎをもうけた。
ザギエラの望むことは全てやり遂げた。
感情を殺し、その時が来るまで耐えろと言われ続け、漸く手に入れた玉座に腰を据えた時、何かが変わっただろうか。
玉座から見下ろした景色は、ただの血塗られた景色でしかなかった。
「陛下、ご無沙汰しております。お変わりありませんか?」
久しぶりに訪ねてきたザギエラは、幼いライにとってはとても大きな存在だった。今ではどこか、一回り程も小さくなったように見える。
「…そうだな。見ての通りだ。」
「お元気そうで、何よりでございます。」
「何の用だ。」
「王妃が静養されているとお聞ききしまして、見舞いに参りました。」
「…見舞い?」
はっと、ライは鼻で笑う。
「ではゆっくり王妃を見舞うといい。せっかくなのだから、親子水入らずで過ごせばいいではないか。」
「陛下、王妃は陛下のお心遣いにより、静養はもう不要とのことです。それよりも、陛下が訪ねて下さらないことを気に病んでおります。どうか…」
とんとんと、指先で机を叩くと、ライは退屈そうに視線を窓の外へと移した。
「…訪ねてどうする?」
「陛下!王妃は…」
「約束しただろう?」
ザギエラの言葉を、有無を言わさぬ強い口調でライは遮る。
「カリンを王妃にし、世継ぎが生まれるまでだと。其方の望みは全て叶えた筈だが?これ以上何を望む?」
「王妃は、カリンは誰よりも陛下のことをお慕いしているのです。ですから、もっと王妃に寄り添って頂きたいと。」
「其方の言い分も、カリンの要望も余が受け入れる筋合いはない。それ以上余計な言葉を発するのなら、其方の首を刎ねるまでだが、どうする?」
ライの表情は何も変わらない。
前王、前王妃、半分血の繋がった弟の首を躊躇なく刎ねたときと同じ、全くの無表情だ。
黒獅子と呼ばれるようになってからのライには、ザギエラさえも畏怖してしまう。
ここで何かまた一つ、ライの機嫌を損ねるような発言をすれば、間違いなく自分の首は飛ぶとザギエラは理解した。
「…一つだけ、お聞きしたいことが。グレファム公爵から頼まれたことです。」
これまで無表情だったライが、微かに眉を顰める。
「レノアール家の者が王子の世話係として雇われていると噂がたっております。それは誠のことでしょうか。」
暫くの沈黙が続いたが、ライは何も答えようとはしない。
とんとんと、もう一度ライが指先で机を叩くと、ザギエラはそれ以上何も言うことはできず、静かにその場を立ち去るしかなかった。
ザギエラの去った部屋で、ライは一人反芻する。
…グレファム公爵?
サフィアが唯一親しくしていた相手が、グレファム公爵家に婿入りした者だとエリクから報告を受けていた。
その者の前では、いつもあのような笑みを浮かべていたのだろうか。
そう思い当たって、ライは考えるのをやめた。
だから何だと言うのだろう。
ライには関係のないことだ。
昨晩の酒が甘すぎたせいかもしれない。
何が嬉しかったのか、サフィアはライの前で初めて綻ぶような笑みを浮かべた。
しっとりとした庭園で、少し汗ばんだサフィアの姿は艶やかだった。
今まで気にしたこともなかったが、サフィアの言うように、昨晩庭から望んだ花々は本当に美しかった。
ただ、それだけのことだ。
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