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1章
第1話:追放の朝
しおりを挟む空は澄みわたり、帝都は今日もどこか嘘くさいほどに平和だった。だが、その平穏の裏側では、一人の男が“静かに”すべてを失おうとしていた。
「ユリウス=グレイ。帝国魔導士団を本日付で解任。以後、帝都への立ち入りを禁ずる」
金と紅の装飾が施された議事室。その中央で、白銀の髪の男はただ静かに立っていた。周囲を囲むのは帝国貴族たち——かつて彼に称賛を送り、戦場ではその背中にすがった者たち。
「理由は?」
短く問うと、中央に座する男——宰相ゼノ=ヴァルトハイムが冷淡に答える。
「君の魔力は危険だ。……国家に不要なほど、強すぎる」
ユリウスは笑わなかった。ただ、心の奥に沈んだ氷が、音もなくひび割れるのを感じていた。
(国家に不要? かつて俺が守ったこの国が、俺を“捨てる”のか)
それは怒りでも悲しみでもなく、虚無に近い感情だった。人はどこまで都合よく他人を扱えるのか、目の前のこの光景がすべてを物語っていた。
「——了解した。後の処理は任せてくれ」
何一つ逆らうことなく、ユリウスはその場を去った。驚く者、安堵する者、面白がるように薄ら笑いを浮かべる者。彼の背中を見送ったその瞳のどれにも、“敬意”は残っていなかった。
数時間後、帝都北門。
「……ここまでか。長いようで短かったな」
ローブ一つを羽織り、杖も剣も持たず、ユリウスは門をくぐった。彼の退場は、あまりに静かだった。誰も止めず、誰も見送らず。最強とまで称された魔導士の退場劇に、拍手はなかった。
だが彼は、それを望んでいたのかもしれない。
この腐敗しきった帝国に、もはや未練はない。
だからこそ、彼は“選んだ”。
「辺境に行こう。誰もいない場所で……ようやく、静かに生きられるかもしれない」
その言葉が、後に大陸全土を揺るがす“建国”の幕開けであることを、このときの彼は知る由もなかった。
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