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1章
第3話:名もなき竜と契約
しおりを挟む夜が更け、森に静寂が戻る。
ユリウスは焚き火の傍ら、寄り添うように眠る幼いドラゴンを見下ろしていた。
その身体は小さく、だが確かに強靭で、内に恐るべき魔力を秘めている。
それでも今はただ、炎のぬくもりに身を寄せるように、無防備に眠っていた。
「まさか、こんな形で……竜と関わるとはな」
ドラゴンは知性ある種族だが、人と共に生きることは滅多にない。
特にこの“紅蓮竜”は、高位種であり、成長すれば都市ひとつを焼き尽くすとも言われる存在だ。
それを助けてしまった。
そして、見捨てられなかった。
(何が“静かに暮らしたい”だ。……これじゃあ、あの帝国と変わらん)
だが、そんな思考を遮るように、竜が目を開けた。
まだ焦点の定まらない金色の瞳が、ユリウスをじっと見つめる。
「……起きたか。調子はどうだ?」
言葉が通じるわけもない。だが、竜は小さく首を動かし、彼の手に鼻先を触れさせた。
その瞬間——魔力が暴れた。
「……ッ、これは……!」
ユリウスの手を通して、竜の魔力が流れ込んでくる。荒々しく、だが懐くようにまとわりつくそれは、まるで“誓い”を求めているかのようだった。
(まさか……この竜、自ら契約を望んで……?)
ユリウスは目を細め、静かに言葉を紡いだ。
「名もなき竜よ。我が名はユリウス=グレイ。お前の望みが誓いであるならば——」
彼は手のひらを天に向け、契約の印を描く。
「我が魔力を分け与えよう。代わりに、お前は我が“使い魔”として共に歩め。……それでいいな?」
小さな咆哮が返された。それは答えだった。
次の瞬間、竜の額に赤い紋様が浮かび上がり、ユリウスの右腕にも同じ形の刻印が現れた。
契約は成立した。
「……本当にやってしまったな」
ユリウスは微かに苦笑し、炎を見つめる。
この契約は、彼にとって“再び誰かと生きる”という決意でもあった。
「……お前の名前、どうするか」
竜は頭を傾げ、しっぽをぱたぱたと揺らす。
その仕草に思わず口元が緩む。
「なら……“フレア”でどうだ? 炎のように激しく、でも温かい存在って意味でな」
竜——フレアは、満足げに小さく鳴いた。
こうして、最強の魔導士と一匹の紅蓮竜は、名もなき森で契約を結んだ。
それは後に“辺境の守護者”として知られる絆の始まりである。
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