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1章
第5話:盗賊と狼の少女
しおりを挟む村の修復を終えた翌朝。
ユリウスは焚き火に湯をかけながら、静かに森の“歪み”を感じ取った。
「来たか……思ったより早いな」
気配は三つ。すべて人間。刃物を持ち、隠密行動に慣れている。
そして——もう一つ、明らかに“異質な存在”がその後を追われている。
フレアが低く唸る。ユリウスはそれを制して立ち上がった。
森の中、息を切らしながら走る少女がいた。
灰色の耳と尻尾、泥だらけの毛皮の上着。まだ十代半ばと見えるが、身のこなしは素早く、目には野生の光が宿っている。
「くそっ……なんで、こんなところまで……!」
少女の名はセラ。獣人の孤児。
盗賊に村を焼かれ、逃げ続けてきた彼女は、偶然ユリウスの張った“魔力障壁”に触れた。
そして、その場に立っていたのは——
「おい。そんなに慌てて走ると、足を捻るぞ」
声の主は、古びたローブの男。灰のような髪に、刺すような視線。
だがその声は、どこか柔らかかった。
「……誰だ、あんた」
「ただの通りすがりの隠居魔導士だ。追われてるようだな」
「……関係ない。関わんな」
そう言って走り去ろうとした瞬間——茂みから飛び出した三人の盗賊が、彼女を囲んだ。
「見つけたぞ、クソガキが! あの耳と尻尾、いい値で売れるんだ。おとなしく——」
言葉の途中、男の一人が地面に倒れた。
何が起きたか、誰も理解できなかった。
彼の足元には、血ではなく氷の棘が突き立っていた。
「……話は聞かせてもらった。だが、ここは私の“庭”だ。荒らす連中は、害獣とみなす」
ユリウスがゆっくりと杖を構える。フレアが背後で唸り、赤い炎を灯す。
「な、なんだコイツ……!」
「逃げ——」
逃がすつもりは、なかった。
風が渦巻き、炎が地を駆け、盗賊たちはあっという間に地面に伏していた。
死には至らせなかった。だが、二度と人を襲えぬよう、魔力で力の回路を封じた。
「お前……助けてくれたのか?」
「いや、追い払っただけだ。……それより、お前、行くあてはあるのか?」
「……ない。全部、焼かれた」
その答えに、ユリウスはしばらく黙った。
そして、焚き火のある村の広場を指差した。
「なら、しばらくここにいろ。食料と寝床くらいはある。働く気があるならな」
セラは数秒だけ警戒し、それから小さく頷いた。
「……分かった。あたし、セラ。あんたの名前は?」
「ユリウス。好きに呼べ。こいつはフレアだ」
こうして、辺境の村に“最初の人”が住みついた。
それがやがて、国となる“始まり”だとは、まだ誰も知らなかった。
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