27 / 70
1章
第27話:交渉と刃と、火を囲む再会
しおりを挟む夜の風が、フェンリース村の外れを撫でる。
空には月も雲に隠れ、世界はまるで音を潜めていた。
その中に、仮面の女が立っていた。
黒のローブ。赤い魔眼。そして、ユリウスにとって最も因縁深い存在——
カレン=イシュタリア。
「……ご無沙汰ね、先生」
「仮面をつけたままでは、礼儀を欠くと思うが?」
「ふふっ、先生がそれを言うなんて。……でも、今日は“仕事”じゃないの。交渉のための訪問よ」
仮面の下から覗く唇が、冷えた笑みを浮かべていた。
「帝国からの正式な使者か?」
「形式上はそう。でも、実質的には——“私の提案”として聞いてほしいの」
二人は結界の中、村の外縁にある焚き火の前に座る。
セラもリリアも気づいていない。今夜の“話し合い”は、あくまで“裏”のものだ。
火を囲んで向かい合うのは、かつて師弟であり、今は敵同士の二人。
「帝国はまだ、あなたを“処分対象”として見てる。
でも、あのラグナの報告書を見た上層部は、別の考えも持ち始めたの。
つまり——“利用できるなら、利用したい”」
「……予想通りだな。腐敗した帝国らしい発想だ」
「ええ。でも私はそれを逆手に取った。“私が交渉するなら、引き伸ばせる”と」
カレンは仮面を外し、赤い瞳でユリウスをまっすぐ見た。
「私は、あなたに聞きたいの。どうして……帝国を去ったの?」
ユリウスの目が、わずかに揺れる。
「答えを聞いて、何になる」
「私の……過去の選択の、意味が変わるかもしれないから」
焚き火の音だけが、二人の間の空白を埋める。
「……お前が、特務に選ばれたあの日。
俺は気づいてしまった。“帝国が、お前の心を殺そうとしている”ことに」
「……!」
「お前は強く、賢かった。だが、感情を切り捨てすぎていた。俺が育てたのは、そういう魔導士じゃなかったはずだ」
「でも、それが“正しい強さ”だと思った。そう教えたのは、あなたじゃないの?」
「違う。“背負ったまま立て”と教えた。切り捨てるな、と。
お前はそれを……帝国に歪められた」
カレンは黙ったまま、焚き火を見つめる。
火が揺れ、彼女の影も揺れる。
「……一度だけ、聞かせて。もし、あの時……私が“あの任務”を拒んでいたら、どうしてた?」
「守った。たとえ帝国を敵に回してでも」
「……馬鹿ね」
「そうだな」
そしてカレンは立ち上がる。
「提案は三つ。
一、帝国との交戦を一時停止。
二、限定的な情報交換と境界共有。
三、一定期間の“交渉延長”」
「……見返りは?」
「私が、ここに“滞在”する。あなたの監視役として。
それで帝国も納得するし、私も……少しだけ、昔に戻れる気がしたの」
ユリウスはしばらく黙り、やがて小さく呟く。
「……勝手にしろ。ただし、俺の村で動くなら、“俺の規則”に従ってもらう」
「ふふっ。そういうところ、変わってないわね」
こうして、“影の女”は村に帰ってきた。
それは再会か、火種か、あるいは——和解の兆しか。
11
あなたにおすすめの小説
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)
転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。
不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。
14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
防御力ゼロと追放された盾使い、実は受けたダメージを100倍で反射する最強スキルを持ってました
黒崎隼人
ファンタジー
どんな攻撃も防げない【盾使い】のアッシュは、仲間から「歩く的」と罵られ、理不尽の限りを尽くされてパーティーを追放される。長年想いを寄せた少女にも裏切られ、全てを失った彼が死の淵で目覚めたのは、受けたダメージを百倍にして反射する攻防一体の最強スキルだった!
これは、無能と蔑まれた心優しき盾使いが、真の力に目覚め、最高の仲間と出会い、自分を虐げた者たちに鮮やかな鉄槌を下す、痛快な成り上がり英雄譚! 「もうお前たちの壁にはならない」――絶望の底から這い上がった男の、爽快な逆転劇が今、始まる。
戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに
千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」
「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」
許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。
許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。
上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。
言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。
絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、
「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」
何故か求婚されることに。
困りながらも巻き込まれる騒動を通じて
ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。
こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。
追放された無能鑑定士、実は世界最強の万物解析スキル持ち。パーティーと国が泣きついてももう遅い。辺境で美少女とスローライフ(?)を送る
夏見ナイ
ファンタジー
貴族の三男に転生したカイトは、【鑑定】スキルしか持てず家からも勇者パーティーからも無能扱いされ、ついには追放されてしまう。全てを失い辺境に流れ着いた彼だが、そこで自身のスキルが万物の情報を読み解く最強スキル【万物解析】だと覚醒する! 隠された才能を見抜いて助けた美少女エルフや獣人と共に、カイトは辺境の村を豊かにし、古代遺跡の謎を解き明かし、強力な魔物を従え、着実に力をつけていく。一方、カイトを切り捨てた元パーティーと王国は凋落の一途を辿り、彼の築いた豊かさに気づくが……もう遅い! 不遇から成り上がる、痛快な逆転劇と辺境スローライフ(?)が今、始まる!
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる