追放された元・最強魔導士、辺境でスローライフを始めたらなぜか国ができました

黒川ねこ

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1章

第28話:彼女の居場所と、もう一度灯る火

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 カレン=イシュタリアの滞在が始まって三日。
 フェンリース村の空気は、静かに“緊張と好奇心”でざわめいていた。

 黒のローブを纏い、常に表情の読めない彼女は、まるで“影”のように村の中を歩く。
 避難民たちは遠巻きに彼女を眺め、子どもたちは興味と警戒が入り混じった視線を送っていた。

「おい……あれが、ユリウス様の昔の弟子……?」

「魔導特務部隊って、暗殺とかする人たちでしょ? 怖くない?」

「でも、ユリウス様が黙認してるんだから……信用していい人、なんだよね……?」

 当の本人、カレンはというと。

 人の視線をまったく意に介さず、ひたすら無言で村の構造を観察し、魔力の流れを読み取り、結界の設計図を描いていた。

「結界の層構造は精密。だが弱点は……ここ」

 彼女が小さく呟いた先で、ひょいと現れた影が一つ。

「それ、あたしが修理したとこなんだけど」

 セラだった。肩に工具袋を下げ、ちょっと不機嫌そうな顔をしている。

「……あら。ごめんなさいね。手抜き工事とは思ってなかったわ」

「手抜きじゃないし! 初めてで手探りだっただけ!」

 カレンはその言葉を聞き、少しだけ驚いたように目を見開いた。

「……そう。なら、改善案を一緒に考える?」

「えっ?」

「“やり直せ”とは言ってない。“一緒に考えよう”と言ってるの」

 それは、カレンの口から出るとは思えない言葉だった。

 その後、セラとカレンは並んで防壁の構造を見直し、魔力の分配ルートを調整するという共同作業を行った。

 無駄口は少ないが、作業は正確で早い。
 セラは気づかぬうちに、少しずつカレンの横顔を見つめるようになっていた。

「……アンタ、本当は怖い人じゃないの?」

「怖いよ。任務になれば、何だってする。……でも」

「でも?」

「ここでは、“私自身”でいられる気がしたの。少しだけね」

 夜。
 ユリウスは焚き火のそばで、魔導書を読みながらカレンを見上げる。

「どうだ、村の暮らしは」

「……悪くないわ。
 なんだか、あの頃の訓練地を思い出す。皆で火を囲んで、バカみたいに喧嘩して、笑って、怒られて……」

「お前が一度も笑わなかった頃だな」

「……今も、そんなに笑えない」

「いや、さっきセラと作業してるとき、口元が少しだけ緩んでいた」

「……見てたのね。変なとこ、観察力あるんだから」

 火が揺れる。
 けれど、その光は以前よりも、ほんの少しだけ柔らかかった。
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