追放された元・最強魔導士、辺境でスローライフを始めたらなぜか国ができました

黒川ねこ

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1章

第32話:侵入者ヴィエラと、知識の牙

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 午後のフェンリース。
 穏やかな時間の中、村の結界が“やわらかく”触れられた。

 攻撃ではない。
 だが、術式構成が精緻すぎる。まるで医師が患者の肌に触れるように、違和感のない“解析の触手”が潜り込んでいた。

「……これは――来たな」

 ユリウスが結界を調整するより早く、一人の女が結界の前に姿を現す。

 漆黒のドレスに白金の刺繍。微笑を浮かべる知性の女。
 魔力を一切放たず、ただ立っているだけなのに、その存在は異様な圧を持っていた。

「ごきげんよう、フェンリースの皆さま。
 ご招待いただかずに来てしまって申し訳ないわ。私は――ヴィエラ=クロイス」

 彼女は“帝国魔導研究局”の人間であることを明かし、手に持った公式文書を差し出す。

「帝国上層部より、“観測目的の滞在”を許可されております。
 私はあくまで、“あなた方を知るため”に来ただけ。敵意はありませんのよ?」

 言葉遣いも笑顔も完璧。
 だが、カレンとユリウスは即座に理解していた。

 この女こそが、帝国でも最も理性と狂気が隣り合った存在。

 リリアが一歩前に出る。
 ヴィエラの視線が、まるで宝石を測定する鑑定士のように彼女を舐める。

「初めまして、リリア=フェンリース。あなたが“鍵”なのね。……美しいわ」

「鍵?」

「ええ。精霊の門を開いた血。その力をどうしているのか、記録の中だけでは物足りなかったの」

 ユリウスが一歩、ヴィエラとリリアの間に割って入る。

「観測目的というのなら、こちらの定めた“接触制限”と“滞在条件”に従ってもらう。
 それが守れないのなら、帰ってもらう」

「……やっぱり、あなた、好きだわ。言葉も構築も、完璧すぎて不気味なくらい」

 ヴィエラはくすりと笑い、優雅に一礼する。

「では、しばらく“お邪魔”させていただきますわ。
 私が“知るに値する存在”かどうか……じっくり拝見させてもらいます」

 その夜、ユリウスは焚き火の前でつぶやいた。

「……戦う相手が、剣を持っていない分、一番厄介だな」

 カレンが仮面を横に置き、静かに答える。

「でも――守る理由があるなら、手段なんて関係ないでしょ?」
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