追放された元・最強魔導士、辺境でスローライフを始めたらなぜか国ができました

黒川ねこ

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1章

第38話:境界に座す者と、リリアの選択

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 夜が深くなるほど、村の空気は静まり返っていた。

 村の中心――精霊の門の前。
 リリアは一人で立っていた。
 門は、彼女の呼吸に合わせるように淡く脈動している。

 ユリウス、セラ、カレン、そしてヴィエラも、遠巻きに見守っていた。

「……本当に行くんだな」
 セラがぽつりとつぶやく。

 ユリウスは小さく頷いた。

「こればかりは、誰にも代われない。
 だが、だからこそ……誰よりも傍にいなければならない」

 リリアが門に手を伸ばす。
 その瞬間、空間がひび割れ、周囲の風景が淡く歪んだ。

 光と影が交錯する空間――**“境界界”**が開かれる。

〈境界界:精霊の門 内部〉

 そこは、現実と幻想の間。
 空も大地もなく、ただ意志だけが形を成す、純粋な「問い」の世界。

 その中央に、一体の存在が座していた。

 人にも獣にも似ぬ、“意志そのもの”といえる存在。
 名もなき存在。だが、その気配は間違いなく、世界の均衡そのものだった。

『問う。リリア=フェンリース。
 なぜ、そなたはこの門を開いた』

「……私の中の記憶が導いたからです。
 けれどそれだけではない。私は、今ここに生きて、確かに“知りたい”と思った」

『何を知りたい』

「精霊の怒り。世界の痛み。過去の罪。
 そして、それでも“人と精霊が共に歩む未来”はあり得るのか――」

 沈黙。
 それは思考の時間であり、試練でもあった。

 やがて、存在は口を開く。

『ならば、我が記憶を継承せよ。
 そなたに“門の継承者”たる資格があるか――それを、そなた自身の意志で選べ』

 その瞬間、リリアの頭の中に、“無数の記憶”が流れ込んでくる。

 炎に焼かれる森。
 水に沈んだ街。
 精霊に討たれた王。
 人に封じられた精霊たち。

 この世界が、どれほど多くの“対話の失敗”を繰り返してきたか。

 しかし、リリアは目を閉じ、なおも立ち続ける。

「それでも、私はこの門を継ぎます。
 過去が失敗に満ちていたなら、私はそれを“つなぐ声”になる」

 門の奥で、何かが震えた。
 そして――

『承認。そなたは“座す者”の継承者。
 今より、精霊と人の境界に立つ“第二の巫女”とならん』

 その言葉と共に、リリアの身体に刻まれる新たな紋章。
 それは精霊すらもひれ伏す、調停者の印。

 現実の世界へと戻ったリリアは、静かに目を開けた。

 その瞳には、かつての優しさに、強さと責任が宿っていた。

「私は……もう、逃げません。
 ここで、“世界を守る者”になります」
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