追放された元・最強魔導士、辺境でスローライフを始めたらなぜか国ができました

黒川ねこ

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1章

第55話:上書きされる巫女の座と、精霊の選択

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契約の間に響いたアルティナの声は、幻聴でも残響でもなかった。世界そのものに対して放たれた、“改変の起動宣言”だった。

「……始まるわね」

エルフィアが静かに言った。

「精霊の契約自体が、書き換えられるなら……私たちの存在は、“象徴”ではいられなくなる」

リリアは小さく頷き、契約陣の中央へと歩み出た。

「だから、先に示さなきゃいけない。“選ばせる”前に、“選ばれる理由”を」

その瞬間、空間の一部が歪んだ。火と雷、沈黙していたふたつの精霊座に、微細な異変が走る。

「これは……!」

ユリウスが叫ぶ。

「アルティナが独自に構築した“契約上書き術式”が侵入してきている……対象は、“精霊座”そのもの!」

精霊の座に干渉し、意思を封じたまま“強制契約”を上書きする。まさに“巫女”の座を強奪する術だった。

「そんなことさせない!」

リリアは強く地を踏み、両手を天へと掲げる。

「火の精霊王、ゼル=イグナス! あなたは私たちを試し続けてきた。それでも、私たちはこうして“選び直しに来た”。もう一度、あなたの意志で選んでほしい!」

火の座が震えた。しばらく沈黙が続き――

「……我は、焼き尽くすもの。だが、火は“灯す”こともできる。お前の中にその光があるなら、我は再び炎を預けよう」

赤い光がリリアの背に注がれ、契約が更新された。

続いて、雷の座。今もなお沈黙したまま、何も応じない。

「……このままでは、アルティナが“強制契約”を完成させる」

エルフィアが前に出た。

「雷の精霊王、アリスタ。あなたは“判断保留”を貫いてきた。けれど今は、世界が動いている。私たちはもう、対立していない。信じるものが重なってきた。ならば――その変化を見ていてくれた、あなたなら」

雷の座に、白い光が走る。そして静かに、青年の姿をとった精霊が現れた。

「……面白い。二柱がここまで変化を示すとは。ならば、今一度“我の判断”を下す」

「調停と封印、そして“抗い”の三柱。……選ぶのは、力ではなく、意志だ。――よかろう。我が雷もまた、“共に歩む者”に託す」

雷が轟いた。三つの座すべてが、再び巫女たちと繋がった。

その瞬間、アルティナの術式が揺らぎ、強制干渉が霧散する。

「やっぱり、あなたたちは面倒くさい。でも、それでいい。まだ全部壊れたわけじゃないもの。次は――“直接、力で”決めましょう」

幻のように響いた声とともに、空の彼方で赤黒い術式が収束する。次に来るのは、“思想”ではなく“力”による対決。

「……守れた。でも、ここからが本当の始まりかもしれない」

リリアが、空を見上げながら静かに呟いた。
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