追放された元・最強魔導士、辺境でスローライフを始めたらなぜか国ができました

黒川ねこ

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1章

第59話:揺れる信念と、降り積もる決意

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夜のヴァレムは、静かだった。街の修復作業は一時中断され、広場の片隅には簡易の慰霊碑が立てられている。その前に、リリアはひとり膝をついていた。

「私が、もっと早く動けていれば――」

誰に語るでもなく、ただ静かに言葉が落ちていく。風の精霊がそっと肩に触れるように吹きつけるが、彼女の目は沈んだままだった。

そのとき、足音が近づいた。カレンだった。彼女は何も言わず、隣に立ち、夜空を見上げる。

「ねえ、リリア。あんた、何か勘違いしてない?」

「……え?」

「守る力があるから、誰も死なせちゃいけない。そう思ってるんでしょ。……でも、現実は違う。守りたいって気持ちと、守れるって結果は、いつだってイコールじゃない」

リリアは俯き、手を強く握った。

「それでも……巫女なのに。力があるのに。誰かを救えなかったって、それが――怖くて」

カレンは小さくため息をついた。

「怖くて当然。でも、だからあんたは“人間”なんだよ。感情を失って、犠牲を数値で数えるようになったら、それはもうリリアじゃない」

「……でも、どうすれば……」

そのとき、別の声が割って入った。

「立ち止まることも、戦うことの一つです」

ユリウスだった。彼はゆっくりとリリアの前にひざをつく。

「自分を責める時間も、無駄じゃない。けれど、誰かのために泣けるなら――あなたは、まだ“希望を灯す側”にいられる」

「ユリウス……」

「次に誰かを守れるように、過去を抱いて進む。それが“巫女”という象徴の、本当の意味です」

リリアはようやく、目にたまっていた涙を一粒だけ流した。

そして、そっと立ち上がる。

「……私は、立ち止まりません。この手をもう一度、“守るため”に伸ばします」

「それでいい。あんたは、そうやって前を向ける子なんだから」

カレンが肩を軽く叩き、ユリウスが静かに頷く。

空に浮かぶ星のひとつが、風に流された。

リリアの決意が、再び確かに刻まれていく。
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