『ごきげんよう、私が悪役令嬢でございます。でも中身はオカマですの』

黒川ねこ

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第6話「王子が見てる、あらやだ……」

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 《魔法演習》のあと――
 私は学園内の花壇前でひと休みしていた。風に揺れるラベンダーの香りが心地よく、紅茶でも欲しくなるような午後。

(ふう、やれやれ。今日はなかなか疲れたわ……精神的に)

 セシリアちゃんとのバチバチ魔法バトル。
 あの子、根は善良なのに負けず嫌いなんやろね。顔に出すのは下手やけど、目が完全に“戦う女の目”になってた。

 でも、それでええのよ。

(主役になりたいなら、それくらいの覇気がなきゃ)

 ただし、この私に勝てるかどうかは……別問題やけどな!

 

 「――ヴィオレッタ」

 その声に、肩がビクリと反応した。
 振り返ると、そこには金髪碧眼、完璧な王子スタイルのルーク様が。
 学園内でその姿を見るたびにざわめきが起こるのに、今回は……まっすぐ、私のところに。

(おや? これは……)

「ごきげんよう、ルーク様。こんな場所でお会いするなんて……もしかして、偶然ですの?」

「いや、君を探していたんだ」

「――は?」

 一瞬、素で声が裏返った。
 やばい、オカマの本性が出そうになる。

「そ、そうですの? 何かご用でしょうか?」

「今日の魔法演習、君とセシリアの魔法は見事だった。特に君のリード、見ていて感心したよ」

「まぁ……光栄ですわ」

 優雅に微笑みながらも、内心では警報が鳴り響いていた。

(おかしい……この王子、完全に“予定ルート”を外れてる)

 本来ならこの時期、彼はセシリアの献身に心を打たれ始める頃。
 なのに、なぜか“ヴィオレッタ”を称賛しに来てるとか、どういうバグ?

「それに、昨日のお茶会も……君の振る舞いは、以前の君とは違っていた。穏やかで、柔らかくなったような……」

「まぁ……変わりましたかしら、私?」

「変わった。……良い方に、ね」

 

 その瞬間――
 空気が少し、甘くなる。

 言葉じゃなく、雰囲気で分かる。
 この男、“私に興味を持ち始めてる”。

(いや、ちょっと待って!? これ、マズない!?)

 こっちは“破滅回避”と“ヒロイン潰し”が目標であって、
 王子ルート入るつもりなんて……一切無いんですけど!?

「……ルーク様。お気持ちは嬉しいですけれど、どうかご注意くださいませ」

「え?」

「周囲の目が、ございますわ」

 とびきりの微笑みでそう釘を刺すと、王子は一瞬ポカンとしたあと――

「……君は、本当に変わったな」

 ふ、と笑って立ち去った。

 

 王子が去ったあと、私は手のひらで頬を扇いだ。

「……あっつ。なんやこの状況……!」

 乙女ゲームの悪役令嬢として、“ルート変更”は大成功。
 でもこのままだと、本気で王子を惚れさせてしまう可能性が出てきてしまった。

(あかん……フラグ回避どころか、“新しいフラグ”立っとるがな!)

 

 遠くから、セシリアが王子の背中を目で追っているのが見える。
 その視線の意味も、もう分かっている。

(あの子……気づいたわね)

 私が“王子の視界の中心”に入り込みつつあることに。

「――あらあら。これはちょっと、波乱が来るかしら?」

 ドレスの裾を摘まんで一礼。
 さあ、“中身オカマの悪役令嬢”に、まだまだ翻弄されなさいな。
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