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第四話「レティシアギャルデビュー?!」
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令嬢育成講義のあと、レティシア・ヴェルディはいつもどおりの優雅な所作で廊下を歩いていた。
だが、その胸の奥には、小さなざわめきが残っていた。
あの講義でのミレイアの姿――
破天荒で、自由で、でもどこか眩しくて。
(……私は、なぜ彼女が気になるのかしら?)
これまで、彼女のような存在を“下品”だと感じていた。令嬢としてあるまじき態度、乱れた服装、騒がしい言動。
それらすべてを否定していたはずなのに――
(あの方のほうが、誰よりも自由に生きている)
それに比べて自分はどうだろう。
日々の礼儀作法、正しさ、静かさ……“完璧なヒロイン”であろうとするあまり、自分の心をごまかして生きてきた。
そして、その“ヒロイン”としての役割も、昨日の婚約破棄劇ですでに終わっている。
(王太子殿下は……もう、私を見ていない)
そんな事実にも、気づいてしまった。
だからこそ――彼女は、動いた。
⸻
「ねえ、ミレイア様」
放課後。中庭のベンチでソーダ味のキャンディをなめていたミレイアに、声がかかる。
「ん?あっ、レティシアちゃーん。どしたの?」
「その……ひとつ、お願いがあるのですが」
「おー?なになに?メイクのこと?」
レティシアは、一瞬ためらった。そして深く息を吸う。
「……私にも、ギャルメイクを教えていただけませんか?」
「……」
沈黙。
だが次の瞬間、ミレイアはぱあっと笑った。
「え~~~っ、マジ!?やっば!超うれし~~~!」
「ちょ、声が……!周囲に聞こえますわっ!」
「いいっていいって!これは“ギャル堕ち第一号”の瞬間でしょ!?もう記念日レベル~!」
ぐいっと手を引かれて、レティシアは気づけばミレイアの寮室にいた。
机にはカラフルなアイパレット、ラメ入りのグロス、香水、謎のストーンシール。
「さーて、レティシアちゃんの潜在能力、解き放っちゃおっか~!」
「こ、こんなにたくさん道具を使うのですか……?」
「これはねぇ、メイクってより、自己表現!文化!魂の主張ってやつよっ☆」
慣れない手つきで目元をいじられ、唇にグロスを塗られ、レティシアは必死に鏡を直視しないようにしていた。
(だ、だいじょうぶかしら、わたくし……?)
しかし――
「はい!完成☆」
鏡を差し出されて、意を決してのぞいた瞬間、レティシアは言葉を失った。
「……こ、これが……私?」
目の前には、ほんのりピンクのシャドウで柔らかく彩られた目元と、ふわりと香る甘いグロス。
清楚系から、“柔ギャル系”へとほんの一歩だけ踏み出した自分が、確かに映っていた。
「うんうん!レティシアちゃん、ギャル素質あったわコレ~。次はカラコン入れよっか!」
「ま、まだですわ……!」
「ふふっ、まーじ照れてるのウケる~」
ふたりの笑い声が、寮の部屋に弾ける。
その日、レティシア・ヴェルディは“正統派ヒロイン”から、“ギャル側”に軽く足を踏み入れた。
そして彼女は、初めて“自分が選んだ推し”を知った。
――それは、かつての婚約者でも、自分自身でもない。
まぎれもなく、“ギャル系悪役令嬢”ミレイアだった。
だが、その胸の奥には、小さなざわめきが残っていた。
あの講義でのミレイアの姿――
破天荒で、自由で、でもどこか眩しくて。
(……私は、なぜ彼女が気になるのかしら?)
これまで、彼女のような存在を“下品”だと感じていた。令嬢としてあるまじき態度、乱れた服装、騒がしい言動。
それらすべてを否定していたはずなのに――
(あの方のほうが、誰よりも自由に生きている)
それに比べて自分はどうだろう。
日々の礼儀作法、正しさ、静かさ……“完璧なヒロイン”であろうとするあまり、自分の心をごまかして生きてきた。
そして、その“ヒロイン”としての役割も、昨日の婚約破棄劇ですでに終わっている。
(王太子殿下は……もう、私を見ていない)
そんな事実にも、気づいてしまった。
だからこそ――彼女は、動いた。
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「ねえ、ミレイア様」
放課後。中庭のベンチでソーダ味のキャンディをなめていたミレイアに、声がかかる。
「ん?あっ、レティシアちゃーん。どしたの?」
「その……ひとつ、お願いがあるのですが」
「おー?なになに?メイクのこと?」
レティシアは、一瞬ためらった。そして深く息を吸う。
「……私にも、ギャルメイクを教えていただけませんか?」
「……」
沈黙。
だが次の瞬間、ミレイアはぱあっと笑った。
「え~~~っ、マジ!?やっば!超うれし~~~!」
「ちょ、声が……!周囲に聞こえますわっ!」
「いいっていいって!これは“ギャル堕ち第一号”の瞬間でしょ!?もう記念日レベル~!」
ぐいっと手を引かれて、レティシアは気づけばミレイアの寮室にいた。
机にはカラフルなアイパレット、ラメ入りのグロス、香水、謎のストーンシール。
「さーて、レティシアちゃんの潜在能力、解き放っちゃおっか~!」
「こ、こんなにたくさん道具を使うのですか……?」
「これはねぇ、メイクってより、自己表現!文化!魂の主張ってやつよっ☆」
慣れない手つきで目元をいじられ、唇にグロスを塗られ、レティシアは必死に鏡を直視しないようにしていた。
(だ、だいじょうぶかしら、わたくし……?)
しかし――
「はい!完成☆」
鏡を差し出されて、意を決してのぞいた瞬間、レティシアは言葉を失った。
「……こ、これが……私?」
目の前には、ほんのりピンクのシャドウで柔らかく彩られた目元と、ふわりと香る甘いグロス。
清楚系から、“柔ギャル系”へとほんの一歩だけ踏み出した自分が、確かに映っていた。
「うんうん!レティシアちゃん、ギャル素質あったわコレ~。次はカラコン入れよっか!」
「ま、まだですわ……!」
「ふふっ、まーじ照れてるのウケる~」
ふたりの笑い声が、寮の部屋に弾ける。
その日、レティシア・ヴェルディは“正統派ヒロイン”から、“ギャル側”に軽く足を踏み入れた。
そして彼女は、初めて“自分が選んだ推し”を知った。
――それは、かつての婚約者でも、自分自身でもない。
まぎれもなく、“ギャル系悪役令嬢”ミレイアだった。
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