「ちょ、今日のアタシのネイル見て~!“婚約破棄記念ネイル”ってやつ?ウケるでしょ?」

黒川ねこ

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第十六話 「婚約にて攻勢に出る」(レティシア視点)

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あれは数日前のこと。

中庭の噴水前で出会った“少女”――

キラキラとした瞳、やや高めの声、どこかミレイア様に似た言葉選び。

(ミレリーナ様……と名乗っていたけれど、気づいていましたわ)

その細い手首の動き。
上品な所作に、ところどころ垣間見える“ぎこちなさ”。

あれは“演じていた”。

そしてその演じた先にいたのが、クラウス殿下――王子その人。

(あの姿は、きっと“本当の彼”に近い)

翌日、王宮の庭園。

「……この度の件、殿下の意志も、きちんとお聞きしておきたいのです」

紅茶を一口飲み、レティシアは静かに問いかけた。

クラウスは少し驚いたように、目を丸くする。

「……私の意志、か」

「はい。まさか王家が勝手に決めたなどとは言わせませんわ。王子としてのご決意を、きちんとお聞きしたくて」

クラウスはうろたえた気配を隠しながら、言葉を選ぶ。

「……私は、君に申し訳ないとすら思っている」

「まぁ、それはご丁寧に」

「……え?」

「でも、ご安心ください。わたくし、嫌ではありませんの。むしろ――」

レティシアは、すっと笑った。

「“ミレリーナ様”に恋してしまいましたもの。女装したあなたが、誰よりも正直で美しかったから」

「っ……!」

クラウスがわずかに身じろぎする。

レティシアは、それを逃さない。

「ですから、殿下。“あの姿”を、また見せてくださるのなら……わたくし、婚約者として全力で応援しますわ」

「そ、それは……っ」

「ちなみに、衣装のスタイリングについても、少々アドバイスがございますの。靴の合わせ方、少々惜しかったですわよ?」

「……追い詰めていないか、君は……?」

「まさかぁ。わたくし、ただの“控えめな令嬢”ですもの?」

にっこりと笑うレティシアに、
クラウスは背筋を冷たい汗が伝うのを感じていた。

(この婚約、完全に主導権を握られている……!?)
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