「ちょ、今日のアタシのネイル見て~!“婚約破棄記念ネイル”ってやつ?ウケるでしょ?」

黒川ねこ

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第十七話 「王子とレティシアのてぇてぇ」

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レティシア・ヴェルディは今日、ひとつ決めていた。

(殿下と、ちゃんと“仲良く”なる)

このあいだの婚約の承諾は、あくまで“入口”にすぎない。
本当に求めているのは、形式じゃない。
あの日見た“ミレリーナ”のように――心から笑う、素のクラウス。

「……本当に、これで良かったのか?」

そんな王子の問いかけから、今日のティータイムは始まった。



「良いも悪いも、ございませんわ。婚約者として、当然の関係ですもの」

「君は、怖くないのか。“私”が、ああいう姿で生きているのが」

「“怖い”などと。……むしろ、羨ましかったです」

クラウスは少し眉を寄せた。

「……羨ましい?」

「はい。だって、“あの姿”は、あなたが“誰にも見せない顔”だと……気づいてしまいましたもの」

レティシアは、ふんわりと紅茶を口に運ぶ。

「わたくしは、あれを“美しい”と思いました」

「……君は、どこまで見えているのだろうな」

クラウスは視線を落としたまま、つぶやく。

「……自分が王族でいる限り、自由などないと思っていた。だが、君と話していると……ほんの少し、息ができる気がする」

「それなら、わたくしの“役割”は、そこにあるのかもしれませんわね」

「役割?」

「はい。“誰にも見せられないあなた”を、そっと包んで守ること。……それが、婚約者の特権でしょう?」

彼女は、クラウスの手元にそっと手を伸ばした。

触れはしない。けれど、確かにそこにある“ぬくもり”。

クラウスは静かに、目を細めた。

「……レティシア」

「はい」

「君が、もしあのとき“ミレリーナ”に惚れていなければ……我々は、こんな風になれていただろうか」

「なれませんわ」

レティシアは、きっぱりと笑う。

「だから、あの姿に恋したわたくしは、間違っていなかったのです」

しん、とした空気のなか。
ふたりだけが、同じ温度で息をしていた。



「……少しだけ、頼っても良いか?」

「もちろんですわ。殿下の前では、わたくし“お姉様”キャラでも構いませんのよ?」

「……それはやめてくれ……!」

顔を赤らめる王子に、レティシアはくすりと笑った。

――その笑顔は、あの日見た“ギャル”のように、まっすぐで。
でも、もっと静かで、深くて、尊いものだった。

てぇてぇ。
それはこういう瞬間に、静かに降りてくるのだ。
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