下僕と美少女剣客~卑屈な美男剣客がお嬢様とともに悪を成敗する娯楽時代劇

CHIHARU

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十八     利之進どのの母上の危機?

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 翌日はお熊とともに探索することになった。
 二人して竹富の見張りを続けている。

(お熊どのの行く末を考えれば、何不自由ない奥さま暮らしも良いかもしれぬ)
 塗笠の下の横顔を見ているうちに、あれこれ悶々と考え始めた。

(利之進どのは良きお方ゆえ、利之進どのに合力すべきだろうが)
 考えれば考えるほど、心は嵐の中の小舟のごとく揺れるばかりで定まらなかった。




 午を過ぎても何ら得るものがなかった。

「お熊どの、家に戻って昼餉をとってから出直しましょう」
 二人して薬研堀あたりまで戻ったときだった。

 武家屋敷が立ち並んだ通りを曲がろうとすると、目の前の辻をお忍び駕籠らしき女物の駕籠が静々と通り過ぎた。
 ほのかにかぐわしい香りが鼻腔をくすぐった。

(あの紋所は、確か……)
 違い枝桔梗の紋に見覚えがあった。

「お熊どの、あれは利之進どののご実家の駕籠に相違ありませぬ」
 小声でお熊に告げた。

「え? それがどうかしたのですか」
 腑に落ちぬ顔のお熊に、
「先日、利之進どのから気になる子細を聞きましたもので……」
 言いかけてから言葉を濁した。

「けしからぬ道場破りがいかがいたしたというのです」
 お熊が顔色を変えた。
 目尻がきっとつり上がる。

「あの折、守り袋を落としていかれたゆえ、先日、届けに参ったのです」

「何と! 静馬どのの人の良さには、ほとほと感服いたします。わざわざ道場破りの住み処まで届けに参ったというのですか」
 お熊は呆れ顔を見せた。

「すっかり意気投合いたしまして、向後、友となると約しました」
 きっぱりと言い切ると、お熊は不満そうに口を尖らせ、
「静馬どのがわが蟻通家に迷惑をかけぬ限り、どこのどなたと仲良くしようが勝手ですが、よりにもよって道場破りと知己を結ぶとは呆れ果てました」
 憎々しげな顔つきで話題を断ち切った。

(このぶんなら、縁組みが持ち込まれてもきっぱり断るに相違ない。拙者があれこれ悩む必要もなさそうだ)
 拍子抜けした気がした。

(ともあれ……)
 駕籠には供が一人しか付いていなかった。
 余人に知られたくない微行である。
 利之進の母牧惠が、件の人物に会いに行くに違いなかった。

(もしも牧惠さまが逢い引きしておられるのなら、事が露見せぬうちに利之進どのから諫めていただこう。逆に、潔白であれば利之進どのを安心させられる)
 信頼して秘密を明かしてくれた利之進の心に報いたい。
 友として力になりたい。

「少々、気になるので跡を追ってみます。実は……」
 経緯を有り体に語った。

「分かりました。それは面白そうな話です。わたくしも参ります」
 お熊も首を突っ込みたくなったらしかった。


 駕籠の跡を追った。
 両国西小路のにぎわいを抜けて柳橋を渡ると、駕籠は『かわぐち』という料亭の前で止まった。
 
「お連れさまがお待ちでございます」
 美々しい立ち居振る舞いの女将と女中が現れ、牧惠は暖簾の内に入っていった。

「静馬どの、裏に回ってみましょう」
 料亭は川に面していて、小座敷が河原に突き出すように並んでいる。

「お熊どのはそこで待っていてください」
 袴の股立ちを大きく取って川に入ると、浅瀬伝いに近づいた。

「ささ、こちらです」
 案内の女中の声が聞こえ、牧惠は一番、西端の部屋に通された。
 静馬は、部屋の張り出し部分の真下に身を潜め、牧惠と相手の会話に耳を傾ける。

 牧惠を呼び出した相手は庄右衛門と名乗る男で、立派な身なりの町人だった。
 顔立ちも整って物言いも上品である。
 教養もあり落ち着いたお大尽といった風情だった。

(なるほど、利之進どのが二人の仲を危惧されるのも無理はない)
 牧惠はわずかに横顔を向けているものの、逆光で顔形が定かでなかった。

「先方さまもこの縁談に乗り気になっておられますゆえ、あと一押しでございます。今少々のご辛抱で大願が成就されましょう」
 肝心のところは要領を得ない言葉ではぐらかしながら、言葉巧みにおだて上げて金子を無心するさまが聞き取れた。

(もしや……。いや、言葉遣いはまったく違うものの間違いない)

 先日の虚無僧の声だと気づいた。
 さまざまなことがつながってくる。

(牧惠どのが操まで差し出すとあれば……)
 踏み込むべく機会をうかがっていると、牧惠がほんの少しこちらのほうに身体の向きを変えた。

(こ、これは……。庄右衛門がよほどの物好きか、女なら何でもよい好き者でない限りとても食指が動くまい)
 牧惠の目は金壺眼で、鼻はあぐらをかいていた。
 頬がこけて険のある顔立ちな上に色も黒く、女らしさのかけらも感じられない牛蒡のような女だった。
 気位の高さが嫌味となって顔に出ていて、あまりの取り得のなさに驚くしかなかった。

(利之進どのは身びいきもあろうし、見慣れておられるからだろうが、不貞を疑うなど、とんだ取り越し苦労だな)
 思わず噴き出しそうになるのを懸命にこらえた。

「では何とぞよしなに」
 牧惠は金子の包みを差し出すなり、あっさりと座敷を後にした。


 しばらくしてから庄右衛門が座敷を出る気配に、お熊とともに店の表に回った。

《かわぐち》が手配した町駕籠がすぐにやってきて庄右衛門は駕籠に乗り込んだ。

「静馬どの、跡を追いましょう」
 笠の縁を掲げて頷き合いながら、駕籠の跡をつけることにした。
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