【完結】不誠実な旦那様、目が覚めたのでさよならです。

完菜

文字の大きさ
8 / 51

008 手当

しおりを挟む
 二人は、右足を引きずりながら歩く男性に合わせてゆっくりと歩いていた。三人が歩く道は、木の葉の隙間から陽が差し込んでいる。昨夜の雨の雫がキラキラして綺麗だった。
 肩を貸している男性は、背が高く細身に見えていた体はしっかり鍛えられているのか重い。リリーの体から汗が噴き出し、額から汗が流れて頬を伝う。
 男性も、相当体に痛みが伴うのか表情は険しく顔からポタポタと汗が流れていた。

「大丈夫ですか? 少し休憩しますか?」

 リリーは心配で声をかける。

「いや、一度座ったらもう立てないかもしれない。申し訳ないが、このまま行きたい」

 足を止めることなく、男性は返答した。

「おじさん、あとちょっとだから頑張って!」

 アレンは、辛そうな男性を心配して後ろを振り返る。

「ああ。ありがとう。優しい子だな」

 男性は、無理やりにアレンに向かって微笑む。リリーはそんな光景を横目に見ながら、悪い人ではなさそうだと少し安心していた。
 でも、どういう人なのかわからないうちは警戒を怠ってはいけない。こうやって歩いている今、本当だったら根掘り葉掘り質問したい。
 だけど、痛みに堪えて一生懸命歩いている姿を見て話しかけるのを躊躇していた。

(このまま家に、この男性を連れて行ったらバーバラに叱られるだろうな……)

 どうしよう? と考えているうちにリリーたちが暮らすログハウスが見えて来た。

「おじさん、あのお家だよ」

 アレンが、家を指さして教えている。

「ああ、あと少しだな」

 男性は、一瞬足を止めたがすぐに歩き出す。きっと、本当だったら歩くのなんて無理なのかだろう。強い人だとリリーは思った。
 やっと家の玄関まで来ると、アレンが扉を開けてくれた。リリーと男性は、先に家の中に入る。とにかくすぐに横にさせなくてはと、リビングのソファーまで連れていった。

 ソファーの上に、ドシンと腰を降ろすとそのまま横になる。腕を頭の上に乗せて辛そうだ。男性は、半袖シャツにズボンという軽装だったが、全身びしょびしょで気持ち悪そうだった。

 音を聞きつけたバーバラが、台所からリビングに姿を現す。

「お嬢様、どうかなさいまし――。一体、誰ですか?」

 バーバラは、リビングに入って来て男性を見とめると目を見開いて驚いている。

「森で、倒れているのを見つけたのよ。足と腕をケガしているみたいで……」

 リリーは、状況を説明するしかない。バーバラがどう出るか、予想がつかなかった。

「そんな……。お嬢様! 危険な人だったらどうするんですか!」

 バーバラは、大きな声を上げてリリーを叱責する。

「バーバラ、ケガをしているんだよ。手当してあげて」

 アレンは、バーバラの足にしがみ付いて必死にお願いしている。そんなアレンに、バーバラは困惑していた。

「すまない。……絶対に危害を加えないと誓う……。少しだけ、滞在させてくれ……」

 男性は、やっとというような調子で声を出している。

「もう、全く……。私は知りませんよ! お嬢様、まずは着替えさせます。お湯と体を拭くタオルと着替えを用意して下さい。あと何か飲むものも」

 そうバーバラが言うので、リリーは急いで台所にかけて行く。バーバラも、手当するための救急セットを取りに行った。アレンは、男性の傍に付いていて様子を窺っていた。

 手当の準備を整えると、バーバラが男性を起こしてTシャツを脱がせ体を拭いて、血を流していた腕も綺麗に洗い流す。

 リリーは、バーバラが手当し始めたのを確認すると着替えを取りに二階に上がった。グレンが泊りに来た時用に、着替えが一式用意してあるのだ。
 グレンが、袖を通したことはない軽装を選ぶ。グレンのティーシャツと紺のズボンを持って階下に降りた。

 リリーが着替えを持って行くと、既にバーバラが腕に包帯を巻いている。さすがバーバラ仕事が早い。問題は足の方だが、どうするのだろうか? とリリーは、心配そうに見ていた。

「できれば一回立って欲しいのだけど……。無理かしら?」

 バーバラは、男性に訊ねる。

「……はぁ……はぁ。すまない。もう足に力が入らない」

 男性は、熱が出てきたのか息が上がっている。バーバラは少し考えて、リビングの棚からハサミを取り出す。
 すると男性の元に戻ると躊躇なくズボンを切り裂いた。痛そうにしている足は、すねの部分が大きく腫れている。
 多少は擦り傷があり、血が滲んでいるが外傷は大したことなさそうだ。多分、この腫れを見る限り折れている感じがする。

「多分、折れていますね……。添え木をして動かさないでいるしかないけれど……」

 バーバラは、これ以上どうすることもできないと渋い顔をしている。

「ちょっと、丁度良さそうな枝を探して来ます」

 バーバラはそう言うと、リビングを出て外に行ってしまった。

「お母様、足って折れても死なないの?」

 アレンが、痛そうな顔をして聞いてくる。きっと想像してしまって、怖いのだろう。リリーだって想像してしまうと怖い。アレンをギュっと抱きしめて言った。

「だっ、大丈夫よ。バーバラが何とかしてくれるから」

 リリーは、流石にこんな大怪我をした人を見たことがないし手当なんてしたことがない。でも家に引き入れてしまった以上、死んで欲しくない。
 バーバラを頼るほか、何も思いつかない自分がもどかしい。

 暫くするとバーバラが戻って来てくれて、拾ってきた枝に足をしっかり固定して包帯を巻いた。そして、男性にお水を飲ませて水分を取らせた後は、ソファーに横にならせて休ませた。
 ソファーから動かせそうになかったので、バーバラに頼む。静かにした方がいいだろうと、リリーはアレンを連れて台所に行った。

 昼食がまだだったので、リリーはアレンと一緒にサンドイッチを作って食べる。アレンもリリーも、男性が気になって仕方がなかったが回復するのを待つしかないと我慢した。
しおりを挟む
感想 40

あなたにおすすめの小説

牢で死ぬはずだった公爵令嬢

鈴元 香奈
恋愛
婚約していた王子に裏切られ無実の罪で牢に入れられてしまった公爵令嬢リーゼは、牢番に助け出されて見知らぬ男に託された。 表紙女性イラストはしろ様(SKIMA)、背景はくらうど職人様(イラストAC)、馬上の人物はシルエットACさんよりお借りしています。 小説家になろうさんにも投稿しています。

どうして私にこだわるんですか!?

風見ゆうみ
恋愛
「手柄をたてて君に似合う男になって帰ってくる」そう言って旅立って行った婚約者は三年後、伯爵の爵位をいただくのですが、それと同時に旅先で出会った令嬢との結婚が決まったそうです。 それを知った伯爵令嬢である私、リノア・ブルーミングは悲しい気持ちなんて全くわいてきませんでした。だって、そんな事になるだろうなってわかってましたから! 婚約破棄されて捨てられたという噂が広まり、もう結婚は無理かな、と諦めていたら、なんと辺境伯から結婚の申し出が! その方は冷酷、無口で有名な方。おっとりした私なんて、すぐに捨てられてしまう、そう思ったので、うまーくお断りして田舎でゆっくり過ごそうと思ったら、なぜか結婚のお断りを断られてしまう。 え!? そんな事ってあるんですか? しかもなぜか、元婚約者とその彼女が田舎に引っ越した私を追いかけてきて!? おっとりマイペースなヒロインとヒロインに恋をしている辺境伯とのラブコメです。ざまぁは後半です。 ※独自の世界観ですので、設定はゆるめ、ご都合主義です。

今日結婚した夫から2年経ったら出ていけと言われました

四折 柊
恋愛
 子爵令嬢であるコーデリアは高位貴族である公爵家から是非にと望まれ結婚した。美しくもなく身分の低い自分が何故? 理由は分からないが自分にひどい扱いをする実家を出て幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱く。ところがそこには思惑があり……。公爵は本当に愛する女性を妻にするためにコーデリアを利用したのだ。夫となった男は言った。「お前と本当の夫婦になるつもりはない。2年後には公爵邸から国外へ出ていってもらう。そして二度と戻ってくるな」と。(いいんですか? それは私にとって……ご褒美です!)

再会の約束の場所に彼は現れなかった

四折 柊
恋愛
 ロジェはジゼルに言った。「ジゼル。三年後にここに来てほしい。僕は君に正式に婚約を申し込みたい」と。平民のロジェは男爵令嬢であるジゼルにプロポーズするために博士号を得たいと考えていた。彼は能力を見込まれ、隣国の研究室に招待されたのだ。  そして三年後、ジゼルは約束の場所でロジェを待った。ところが彼は現れない。代わりにそこに来たのは見知らぬ美しい女性だった。彼女はジゼルに残酷な言葉を放つ。「彼は私と結婚することになりました」とーーーー。(全5話)

婚約者から「君のことを好きになれなかった」と婚約解消されました。えっ、あなたから告白してきたのに? 

四折 柊
恋愛
 結婚式を三か月後に控えたある日、婚約者である侯爵子息スコットに「セシル……君のことを好きになれなかった」と言われた。私は驚きそして耳を疑った。(だってあなたが私に告白をして婚約を申し込んだのですよ?)  スコットに理由を問えば告白は人違いだったらしい。ショックを受けながらも新しい婚約者を探そうと気持ちを切り替えたセシルに、美貌の公爵子息から縁談の申し込みが来た。引く手数多な人がなぜ私にと思いながら会ってみると、どうやら彼はシスコンのようだ。でも嫌な感じはしない。セシルは彼と婚約することにした――。全40話。

数多の令嬢を弄んだ公爵令息が夫となりましたが、溺愛することにいたしました

鈴元 香奈
恋愛
伯爵家の一人娘エルナは第三王子の婚約者だったが、王子の病気療養を理由に婚約解消となった。そして、次の婚約者に選ばれたのは公爵家長男のリクハルド。何人もの女性を誑かせ弄び、ぼろ布のように捨てた女性の一人に背中を刺され殺されそうになった。そんな醜聞にまみれた男だった。 エルナが最も軽蔑する男。それでも、夫となったリクハルドを妻として支えていく決意をしたエルナだったが。 小説家になろうさんにも投稿しています。

あなたへの想いを終わりにします

四折 柊
恋愛
 シエナは王太子アドリアンの婚約者として体の弱い彼を支えてきた。だがある日彼は視察先で倒れそこで男爵令嬢に看病される。彼女の献身的な看病で医者に見放されていた病が治りアドリアンは健康を手に入れた。男爵令嬢は殿下を治癒した聖女と呼ばれ王城に招かれることになった。いつしかアドリアンは男爵令嬢に夢中になり彼女を正妃に迎えたいと言い出す。男爵令嬢では妃としての能力に問題がある。だからシエナには側室として彼女を支えてほしいと言われた。シエナは今までの献身と恋心を踏み躙られた絶望で彼らの目の前で自身の胸を短剣で刺した…………。(全13話)

婚約者に「ブス」と言われた私の黒歴史は新しい幸せで塗り替えました

四折 柊
恋愛
 私は十歳の時に天使のように可愛い婚約者に「ブス」と言われ己の価値を知りました。その瞬間の悲しみはまさに黒歴史! 思い出すと叫んで走り出したくなる。でも幸せを手に入れてそれを塗り替えることが出来ました。全四話。

処理中です...