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034 大切な確認
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リリーは、かなりの間ダニエルの胸で泣いていた。ずっと我慢していたからか、一度溢れた感情を正常に戻すのが難しかったのだ。
一頻り泣いて我に返ると急に恥ずかしくなる。言いたい放題、泣き叫んでしまった。しかも、ダニエルの言おうとした言葉を遮り勝手なことを訴えた。
ゆっくりとダニエルから距離をとると、彼の胸元はリリーの涙で濡れていた。
「申し訳ありません……。私……」
リリーは、ダニエルの告白を遮ったばかりではなく子供みたいに泣きじゃくって、グレンへの非難をぶつけてしまった。穴があったら入りたいとはこのことだ……。
「大丈夫だ。泣いて少しはスッキリしたか?」
ダニエルは、俯いて顔を上げられないリリーを覗き込む。
「みっ見ないで下さい。私、酷い顔です」
リリーは、自分の顔を手で覆って隠す。何だか、ダニエルには自分の酷いところばかり知られている気がした。
「あのっ、私、ダニエル様の言葉を遮ってしまってごめんない」
リリーが思った通りの言葉を言おうとしたのなら、これからダニエルとどう関わっていけばいいのかわからない。戸惑いが押し寄せる。
「あー、あれは忘れてくれ。今じゃなかった……。それよりも、リリーの話を聞こう。アレンが連れて行かれたのは調べられたけれど、経緯まではわからなかったから。アレンのことは、前もって決められていたことではなかったの?」
ダニエルが、さっきのことはなかったように話を仕切り直す。リリーもその方が有難かったので、きれいさっぱりさっきのことは聞かなかったことにした。
「はい……。奥様にアレンの存在を気づかれたと言われて……。それで、自分の息子として育てたいからと言われたら従うしかなくて……。王都の自分の屋敷に連れて行ってしまいました」
リリーは、あの時のことが蘇ってしまう。
「なるほど……。それで一緒に、バーバラも連れて行かれたのか?」
ダニエルが、リリーに訊ねる。
「はい。でもそれは、私がお願いしました。アレンが、いきなり知らない人に囲まれて暮らすなんて余りにもかわいそうで……。生まれた時から一緒のバーバラがいれば、私も安心でしたし。それに……」
リリーは、最後の言葉を言おうかどうしようか迷う。
「それに?」
ダニエルが、首を傾げる。
「それに……アレンたちがあの森を出たら、私もあの屋敷から逃げよう、グレン様の元から逃げようって考えて……。でも、そうしたらアレンと連絡を取る手段が無くなってしまうから……」
リリーの言葉は、どんどんか細くなっていった。
「そうか、そのためにもバーバラがアレンの傍にいたら連絡が取りやすいと考えたんだね?」
ダニエルが、納得したように呟いた。
「はい……」
リリーも小さな声で返事をした。
「咄嗟のことだっただろうに、よく考えたね。それで……一応の確認なんだが……」
今度はダニエルが、口ごもっている。
「なんでしょう?」
リリーは、不思議そうに聞いた。
「リリーは、その……グレンとやらのことがまだ好きなのかな?」
ダニエルは、言いづらかったのか目が泳いでいる。
「いえ……。もうグレン様に気持ちはありません……。アレンのことだけは、どうしても許すことができなくて……」
リリーの瞳は、悲しみの色に染まっていた。
「わかった。では、どうしてご両親のところではなくうちに?」
ダニエルは、さっきよりも明るいトーンで聞く。
「きっと両親の所には、すぐに探しにくると思ったんです。グレン様には、何も言わずに黙って姿を消したので……。もう私のことは、忘れて欲しいんです」
リリーが、切実な声で訴える。ダニエルはリリーを見て、胸が締め付けられる思いだった。全てを捨てて愛した男性だったはずなのに……。
ここまで傷つけられてしまうだなんて……。なんて嫌な男なのだと憤る。
「うん。そうだね。リリーもその男のことは綺麗さっぱり忘れよう。ここにいれば見つかる心配はゼロだしな。俺が、変わりにバーバラや両親と連絡を取ろう」
ダニエルが、笑顔でリリーにそう提案した。やっとリリーの為にしてあげることが見つかったと喜ぶ。
「本当ですか? でも、ご迷惑ですよね……。ダニエル様には何の関係もないのに……」
リリーは、思ってもいない申し出に心が弾むが、やはり自分の我儘ではないかと申し訳なさが襲う。
「リリー、関係ないなんて寂しいこと言うな。君は、俺の大切な人だ。それに、ヴォリック国には伝手があるからそれほど難しいことじゃないんだ」
ダニエルが、自信満々な顔をする。ダニエルと目を合わせると、彼の青いラピスラズリのような瞳が何やら企んでいるようだった。
「そう言えば、ダニエル様はどうしてヴォリック国にいらしたのですか?」
リリーは、最初に疑問だったことを今更聞いてみる。ずっと聞けずにいたので、やっと聞けてもやもやがすっきりする。
「あー、理由は言えないのだが……。実は、ヴォリック国で男爵位を持っているんだよ。向こうでは、ダニエル・ミラーって名乗っている」
ダニエルが、びっくりすることを教えてくれた。
(それって、ダニエル様はヴォリック国の人間でもあるってこと?)
リリーは、初めて聞くことに唯々びっくりする。
「だから安心して欲しい。向こうの国のことが分かったら、すぐにリリーに教えるよ。今日は、色々話してくれてありがとう」
ダニエルが、ふわっと表情を崩して微笑んだ。ダニエルの笑顔を見ると、リリーはいつも安心する。
「ダニエル様、こちらこそお話を聞いて頂きありがとうございました。申し訳ありませんが、バーバラやアレンのことご無理のない範囲で宜しくお願いします」
リリーは、ソファーから立って深々と頭を下げた。
一頻り泣いて我に返ると急に恥ずかしくなる。言いたい放題、泣き叫んでしまった。しかも、ダニエルの言おうとした言葉を遮り勝手なことを訴えた。
ゆっくりとダニエルから距離をとると、彼の胸元はリリーの涙で濡れていた。
「申し訳ありません……。私……」
リリーは、ダニエルの告白を遮ったばかりではなく子供みたいに泣きじゃくって、グレンへの非難をぶつけてしまった。穴があったら入りたいとはこのことだ……。
「大丈夫だ。泣いて少しはスッキリしたか?」
ダニエルは、俯いて顔を上げられないリリーを覗き込む。
「みっ見ないで下さい。私、酷い顔です」
リリーは、自分の顔を手で覆って隠す。何だか、ダニエルには自分の酷いところばかり知られている気がした。
「あのっ、私、ダニエル様の言葉を遮ってしまってごめんない」
リリーが思った通りの言葉を言おうとしたのなら、これからダニエルとどう関わっていけばいいのかわからない。戸惑いが押し寄せる。
「あー、あれは忘れてくれ。今じゃなかった……。それよりも、リリーの話を聞こう。アレンが連れて行かれたのは調べられたけれど、経緯まではわからなかったから。アレンのことは、前もって決められていたことではなかったの?」
ダニエルが、さっきのことはなかったように話を仕切り直す。リリーもその方が有難かったので、きれいさっぱりさっきのことは聞かなかったことにした。
「はい……。奥様にアレンの存在を気づかれたと言われて……。それで、自分の息子として育てたいからと言われたら従うしかなくて……。王都の自分の屋敷に連れて行ってしまいました」
リリーは、あの時のことが蘇ってしまう。
「なるほど……。それで一緒に、バーバラも連れて行かれたのか?」
ダニエルが、リリーに訊ねる。
「はい。でもそれは、私がお願いしました。アレンが、いきなり知らない人に囲まれて暮らすなんて余りにもかわいそうで……。生まれた時から一緒のバーバラがいれば、私も安心でしたし。それに……」
リリーは、最後の言葉を言おうかどうしようか迷う。
「それに?」
ダニエルが、首を傾げる。
「それに……アレンたちがあの森を出たら、私もあの屋敷から逃げよう、グレン様の元から逃げようって考えて……。でも、そうしたらアレンと連絡を取る手段が無くなってしまうから……」
リリーの言葉は、どんどんか細くなっていった。
「そうか、そのためにもバーバラがアレンの傍にいたら連絡が取りやすいと考えたんだね?」
ダニエルが、納得したように呟いた。
「はい……」
リリーも小さな声で返事をした。
「咄嗟のことだっただろうに、よく考えたね。それで……一応の確認なんだが……」
今度はダニエルが、口ごもっている。
「なんでしょう?」
リリーは、不思議そうに聞いた。
「リリーは、その……グレンとやらのことがまだ好きなのかな?」
ダニエルは、言いづらかったのか目が泳いでいる。
「いえ……。もうグレン様に気持ちはありません……。アレンのことだけは、どうしても許すことができなくて……」
リリーの瞳は、悲しみの色に染まっていた。
「わかった。では、どうしてご両親のところではなくうちに?」
ダニエルは、さっきよりも明るいトーンで聞く。
「きっと両親の所には、すぐに探しにくると思ったんです。グレン様には、何も言わずに黙って姿を消したので……。もう私のことは、忘れて欲しいんです」
リリーが、切実な声で訴える。ダニエルはリリーを見て、胸が締め付けられる思いだった。全てを捨てて愛した男性だったはずなのに……。
ここまで傷つけられてしまうだなんて……。なんて嫌な男なのだと憤る。
「うん。そうだね。リリーもその男のことは綺麗さっぱり忘れよう。ここにいれば見つかる心配はゼロだしな。俺が、変わりにバーバラや両親と連絡を取ろう」
ダニエルが、笑顔でリリーにそう提案した。やっとリリーの為にしてあげることが見つかったと喜ぶ。
「本当ですか? でも、ご迷惑ですよね……。ダニエル様には何の関係もないのに……」
リリーは、思ってもいない申し出に心が弾むが、やはり自分の我儘ではないかと申し訳なさが襲う。
「リリー、関係ないなんて寂しいこと言うな。君は、俺の大切な人だ。それに、ヴォリック国には伝手があるからそれほど難しいことじゃないんだ」
ダニエルが、自信満々な顔をする。ダニエルと目を合わせると、彼の青いラピスラズリのような瞳が何やら企んでいるようだった。
「そう言えば、ダニエル様はどうしてヴォリック国にいらしたのですか?」
リリーは、最初に疑問だったことを今更聞いてみる。ずっと聞けずにいたので、やっと聞けてもやもやがすっきりする。
「あー、理由は言えないのだが……。実は、ヴォリック国で男爵位を持っているんだよ。向こうでは、ダニエル・ミラーって名乗っている」
ダニエルが、びっくりすることを教えてくれた。
(それって、ダニエル様はヴォリック国の人間でもあるってこと?)
リリーは、初めて聞くことに唯々びっくりする。
「だから安心して欲しい。向こうの国のことが分かったら、すぐにリリーに教えるよ。今日は、色々話してくれてありがとう」
ダニエルが、ふわっと表情を崩して微笑んだ。ダニエルの笑顔を見ると、リリーはいつも安心する。
「ダニエル様、こちらこそお話を聞いて頂きありがとうございました。申し訳ありませんが、バーバラやアレンのことご無理のない範囲で宜しくお願いします」
リリーは、ソファーから立って深々と頭を下げた。
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