【完結】不誠実な旦那様、目が覚めたのでさよならです。

完菜

文字の大きさ
41 / 51

041 試験結果

しおりを挟む
 それから毎日、時間が許す限りリリーは勉強をしていた。ダニエルから、家庭教師を雇ってもいいと言われたが、それは丁重に断った。
 ただでさえ、自分を滞在させてくれているだけでもお金がかかっているはずだ。その上、家庭教師までなんてとてもじゃないが受け入れられない。

 だからリリーは、マーティン家の図書室で一人で勉強をした。ある程度は、自分もフローレス家にいた時に家庭教師から習っている。
 学問を今まで使ったことがなかったので、すっかり忘れているが本を読みながら復習していけば何とかわかる。
 ただ、リリーが狙うのは学費の無料枠に入ること。それを狙う為には、良い成績で合格しなければいけない。

 バーバラやアレンのことが常に頭の片隅にはあったが、ダニエルが心配することはないと言ってくれた。試験が終わって落ち着いたら、バーバラに手紙を書けばいいと。
 バーバラにもリリーの状況は報告しているので、彼女も安心しているそう。バーバラとこんなに長いこと離れて暮らすのは初めてだから、そのことが聞けてとてもホッとした。

 リリーは試験までの数週間、がむしゃらに勉強をした。どうしても分からないところはダニエルに聞いた。ダニエルは、伯爵家の子息だけあってどの教科も熟知している。
 学園に通っていた時の成績を聞くと、いつも上位20番内にはいたらしい。勉強は昔から嫌いではなく苦ではなかったのだそう。それを聞いてとても羨ましく思った。

 リリーは、学園に行くこともなく領地で家庭教師に習っていたので、自分に学問が必要になることがあるのか疑問だった。だからか、やる気になれず全く身に入らなかったのだ。
 最低限のことだけ理解すればいいとその程度の感覚だった。今になって、あの時にもっと真剣に勉強しておけば良かったと後悔する。

 それでもリリーは、自分の今までを取り戻すように必死に頑張った。人生で、こんなに一生懸命取り組んだのは初めてだ。
 いつも自分はどっかで、どうせ何をやっても仕方がないと諦めていたことに気づく。

 リリーは、両親にも兄姉にも可愛がられていたし、何かに苦労したこともなかったが毎日が平坦だった。
 自分には何か特別なことが起こる訳でも、何かを成し得ることもないと勝手に決めつけていた。今まで、自分のことを振り返ることなんてしてこなかったが……。グレンに嵌ってしまった原因は、こんなところにもあるのかもしれないと反省した。


◇◇◇

 そして迎えた試験当日、ダニエルを始めとするマーティン家のみんなに見送られて会場へと足を運んだ。
 リリーにとって、初めてのチャレンジだったこともありとても緊張した。試験会場には、身分に関係なくどの人も平等に扱われている。
 ヴォリック国には、こういった施設は存在しない。学びたいと思う人に、平等に機会を与えるこの国は素晴らしい。

 リリーは、マーティン家の応援があり万全の体制で試験に挑むことができた。準備期間は短かったけれど、試験の手ごたえもよくリリーが初めて充実感を得られた体験だった。
 試験を終えて、マーティン家に戻るとダニエルが心配していたのか屋敷でリリーの帰りを待っていてくれた。

「ダニエル様、ただいま帰りました」

 リリーは、なんだか家族にでもなったかのような錯覚を覚える。すっかり、マーティン家にいることが当たり前になってしまった。

「ああ、おかえり。試験の手ごたえはどうだった?」

 ダニエルは、待ちきれないかのように訊ねる。

「一生懸命、勉強した甲斐あって自分でもかなり良くできたと思います。でも、油断しちゃ駄目なのでまだわかりません」

 リリーは、正直な自分の感想を述べる。大丈夫だとは思うけれど、でも絶対なんてことは言えない。

「そうか。手ごたえがあったなら良かった。本当に頑張っていたから」

 ダニエルが、笑顔で安心したように言う。そんな顔を見ていると、応援してくれるダニエルの為にも、絶対に合格したいとリリーは思った。

 そして合格発表の日、リリーに付いてダニエルも一緒に来てくれた。学園の門を通ってすぐの掲示板に、自分の受験番号を確認する。
 リリーの胸は、はち切れそうなほどドキドキしていた。もし、落ちていたらヴォリック国に帰る約束を両親としている。自分は何も変わらにまま、自国に戻りたくはなかった。

(どうか合格していますように……)

 リリーは、心の中で祈る。隣を歩く、ダニエルも緊張しているようだった。二人で、掲示板まで並んで歩いた。ダニエルにも、リリーの受験番号は教えている。
 掲示板の前には、人が群がっていて涙を流して喜ぶ人や表情を失くして落ち込んでいる人と様々だった。

 リリーは、人の群れの一番後ろから掲示板を見る。少し距離があり、人の頭が邪魔でよく見えない。すると、隣で立って見ていたダニエルが突然大きな声を上げた。

「あった!! リリー、あったよ!」

 ダニエルが、自分のことのように喜んでガッツポーズをしている。リリーは、自分の目で確かめるまではと人波を押しのけて掲示板が見える場所に移動した。
 そして、自分の番号を確認する。ダニエルに言われたように、本当に自分の番号があった。

「あった! 良かったー」

 リリーは、ホッとして力が抜ける。ダニエルも、リリーの隣まで人波を押しのけて来てくれた。

「ダニエル様、ありました! 私、合格していました!」

 リリーは、満面の笑みでダニエルに報告する。

「うん。良かった。本当に良かった! さあ、早く帰ってみんなに報告しよう。リリーの両親もうちの両親も、あと姉も心配していたから」

 ダニエルが、ニカっと歯を見せて笑う。

(クリスタル様まで、心配してくれていたなんて……)

 リリーは、胸がじーんと温かくなる。こんな風にみんなに心配して貰えて物凄く嬉しい。自分には何もないと思っていたけれど、頑張ればちゃんと合格できた。リリーの中で、小さな若葉が芽生えた瞬間だった。
しおりを挟む
感想 40

あなたにおすすめの小説

牢で死ぬはずだった公爵令嬢

鈴元 香奈
恋愛
婚約していた王子に裏切られ無実の罪で牢に入れられてしまった公爵令嬢リーゼは、牢番に助け出されて見知らぬ男に託された。 表紙女性イラストはしろ様(SKIMA)、背景はくらうど職人様(イラストAC)、馬上の人物はシルエットACさんよりお借りしています。 小説家になろうさんにも投稿しています。

どうして私にこだわるんですか!?

風見ゆうみ
恋愛
「手柄をたてて君に似合う男になって帰ってくる」そう言って旅立って行った婚約者は三年後、伯爵の爵位をいただくのですが、それと同時に旅先で出会った令嬢との結婚が決まったそうです。 それを知った伯爵令嬢である私、リノア・ブルーミングは悲しい気持ちなんて全くわいてきませんでした。だって、そんな事になるだろうなってわかってましたから! 婚約破棄されて捨てられたという噂が広まり、もう結婚は無理かな、と諦めていたら、なんと辺境伯から結婚の申し出が! その方は冷酷、無口で有名な方。おっとりした私なんて、すぐに捨てられてしまう、そう思ったので、うまーくお断りして田舎でゆっくり過ごそうと思ったら、なぜか結婚のお断りを断られてしまう。 え!? そんな事ってあるんですか? しかもなぜか、元婚約者とその彼女が田舎に引っ越した私を追いかけてきて!? おっとりマイペースなヒロインとヒロインに恋をしている辺境伯とのラブコメです。ざまぁは後半です。 ※独自の世界観ですので、設定はゆるめ、ご都合主義です。

今日結婚した夫から2年経ったら出ていけと言われました

四折 柊
恋愛
 子爵令嬢であるコーデリアは高位貴族である公爵家から是非にと望まれ結婚した。美しくもなく身分の低い自分が何故? 理由は分からないが自分にひどい扱いをする実家を出て幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱く。ところがそこには思惑があり……。公爵は本当に愛する女性を妻にするためにコーデリアを利用したのだ。夫となった男は言った。「お前と本当の夫婦になるつもりはない。2年後には公爵邸から国外へ出ていってもらう。そして二度と戻ってくるな」と。(いいんですか? それは私にとって……ご褒美です!)

再会の約束の場所に彼は現れなかった

四折 柊
恋愛
 ロジェはジゼルに言った。「ジゼル。三年後にここに来てほしい。僕は君に正式に婚約を申し込みたい」と。平民のロジェは男爵令嬢であるジゼルにプロポーズするために博士号を得たいと考えていた。彼は能力を見込まれ、隣国の研究室に招待されたのだ。  そして三年後、ジゼルは約束の場所でロジェを待った。ところが彼は現れない。代わりにそこに来たのは見知らぬ美しい女性だった。彼女はジゼルに残酷な言葉を放つ。「彼は私と結婚することになりました」とーーーー。(全5話)

婚約者から「君のことを好きになれなかった」と婚約解消されました。えっ、あなたから告白してきたのに? 

四折 柊
恋愛
 結婚式を三か月後に控えたある日、婚約者である侯爵子息スコットに「セシル……君のことを好きになれなかった」と言われた。私は驚きそして耳を疑った。(だってあなたが私に告白をして婚約を申し込んだのですよ?)  スコットに理由を問えば告白は人違いだったらしい。ショックを受けながらも新しい婚約者を探そうと気持ちを切り替えたセシルに、美貌の公爵子息から縁談の申し込みが来た。引く手数多な人がなぜ私にと思いながら会ってみると、どうやら彼はシスコンのようだ。でも嫌な感じはしない。セシルは彼と婚約することにした――。全40話。

数多の令嬢を弄んだ公爵令息が夫となりましたが、溺愛することにいたしました

鈴元 香奈
恋愛
伯爵家の一人娘エルナは第三王子の婚約者だったが、王子の病気療養を理由に婚約解消となった。そして、次の婚約者に選ばれたのは公爵家長男のリクハルド。何人もの女性を誑かせ弄び、ぼろ布のように捨てた女性の一人に背中を刺され殺されそうになった。そんな醜聞にまみれた男だった。 エルナが最も軽蔑する男。それでも、夫となったリクハルドを妻として支えていく決意をしたエルナだったが。 小説家になろうさんにも投稿しています。

あなたへの想いを終わりにします

四折 柊
恋愛
 シエナは王太子アドリアンの婚約者として体の弱い彼を支えてきた。だがある日彼は視察先で倒れそこで男爵令嬢に看病される。彼女の献身的な看病で医者に見放されていた病が治りアドリアンは健康を手に入れた。男爵令嬢は殿下を治癒した聖女と呼ばれ王城に招かれることになった。いつしかアドリアンは男爵令嬢に夢中になり彼女を正妃に迎えたいと言い出す。男爵令嬢では妃としての能力に問題がある。だからシエナには側室として彼女を支えてほしいと言われた。シエナは今までの献身と恋心を踏み躙られた絶望で彼らの目の前で自身の胸を短剣で刺した…………。(全13話)

婚約者に「ブス」と言われた私の黒歴史は新しい幸せで塗り替えました

四折 柊
恋愛
 私は十歳の時に天使のように可愛い婚約者に「ブス」と言われ己の価値を知りました。その瞬間の悲しみはまさに黒歴史! 思い出すと叫んで走り出したくなる。でも幸せを手に入れてそれを塗り替えることが出来ました。全四話。

処理中です...