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047 やってきたのは……
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リリーは、虚無感に苛まれていた。グレンがこの屋敷を出て行ってから、もう長い時間が経っている。
椅子の背もたれに体を凭れさせて、何もできないもどかしさを感じていた。脅されたとは言え、簡単にこんなところに閉じ込められる自分が情けない。
こんなのは、一年前の何もできなかった自分と変わらないと激しい怒りが沸く。
グレンは、アレンをここに連れてくると言っていた。ライラ様との生活に馴染み、やっとピーターソン家で笑顔を見せるようになってきたのだと、バーバラからの手紙に書いてあったのに……。
グレンは、一体何をしようとしているのか……。とにかく、アレンの身が無事であって欲しいと祈り続けた。
それから、その地下での生活が一週間続いた。陽のささない地下では、いつが朝でいつが夜なのかわからなくなる。
だけど、日付は部屋のテーブルに傷を付けてわかるようにし、時間はグレンの従者が日に三度ご飯を届けに来てくれたのでそれで大体を把握していた。
従者は、リリーを見張る為なのかずっと上に滞在している。頭上から、物音や足音が聞こえていたので恐らくそうなのだろう。
リリーは、何をするでもなく一日をぼんやりと過ごしていた。こんな時間ばかりが過ぎていくのなら、せめてイーストリー学園で勉強していた教科書やノートがあればと悔やむ。
こんなことになると思っていなかったので、何もここに持ってこなかったのだ。一度だけ、従者に馬車に置きっぱなしにした学園の鞄を持って来て欲しいと頼んだが却下されてしまった。
グレンから、ここ以外で手にした物は何も持ち込まないようにと指示されていた。
「はぁー」
リリーから、大きな溜息が零れる。一体いつまでこんな生活を続けていればいいのか……。従者に聞いても何も答えてくれない。
グレンが徹底して、リリーを外界からシャットアウトするつもりらしい。
何度目かの溜息を溢した時だった。にわかに階上が騒がしくなる。いつもとは違う、複数人の足音が聞こえ突然慌ただしくなった。
リリーは、何が起こるのかわからず胸騒ぎを覚える。
誰かが、地下の階段を降りて来る音がする。とても乱暴で雑な足音と、慎重な足音の二つだった。
「リリー、お待たせ。やっと連れて来たよ」
グレンの、場に似つかわしくない明るい声だった。リリーは、もう恐怖で顔が引きつっている。
どうして、何も聞いてくれない人になってしまったのだろう? それとも最初からリリーが気付かなかっただけで、グレンはこんな勝手な男だったのだろうか……。
リリーが何も返事をしないでいると、グレンは彼の後ろにいた男性が肩にしょっていた麻袋を指さす。
「ほら、リリー。アレンだよ。さっさと降ろして出してあげて」
グレンは、リリーに向けて笑顔を溢すと後ろにいる男性に指示を出した。男性は、グレンのマントを被り顔が見えない。
しかもリリーがよく見ると、マントがはだけた中の服はあちこちに赤い染みが飛んでいる。
(一体あの染みは何なの? それに、あの麻袋の中にアレンがいるってどういうこと?)
リリーは、もう何が何だから分からなくて頭を抱える。事態が恐ろし過ぎて、状況についていけなかった。
男性が、肩にしょっていた麻袋をゆっくりと床に降ろした。そして袋の口を開けると、中からアレンが顔を出した。
「お母様!」
アレンは、必死に麻袋から抜け出ると鉄柵の前まで走ってきてリリーに小さな手を精一杯伸ばす。
「アレン! 一体どうして。何があったの!」
リリーはびっくりして、椅子から立ち上がりアレンの所まで走って行く。柵越しに、アレンの手を握った。
「お母様ー。会いたかったよー」
アレンが、リリーの手を握って涙を零す。リリーは、床に膝を付いてアレンの顔に手を添えてよく見る。
久しぶりに見たアレンは、一回り大きくなっていてそしてどっからどう見ても貴族の子息だった。
「アレン、大きくなって……」
リリーの瞳にも涙が滲む。
「ほら、再会させてあげたからもういいよね? これで、また元通りのリリーに戻ってくれるでしょ?」
グレンが、リリーとアレンの会話を遮って勝ち誇ったような顔をしている。リリーに対して、褒めてと言っているような目だった。
リリーからしてみたら、もうそんな目をされても何とも思えない。一体なぜ、こんな事態になっているのかまずそれを説明して欲しかった。
「グレン様、これは一体どういうことなんですか? それにバーバラはどこですか?」
リリーは、床から立ち上がって毅然とした態度でグレンに向かった。もう前のように、目を潤ませて愛しい人を見る瞳で彼を見ることはできない。
「説明なんてどうでもいいだろ! それに、もうバーバラはここには来ない。君と一緒にして、また逃げられても困るからね!」
グレンが、自分の思い通りにならないからか口調が乱れ言葉が汚い。
「グレン様! どうでもよくありません。きちんと説明して頂かないと困ります。ライラ様は、何も言わなかったのですか?」
リリーは、グレンに負ける訳にはいかなかった。きちんと話をしなければ、有耶無耶のまま全てがなかったことにされる。それに、バーバラのことも心配だった。
「煩い! アレンは、誘拐事件に巻き込まれ死んだことにした。だからもう何もかも大丈夫なんだ!」
グレンの目は血走って、表情も段々と恐ろしいものに変わっていく。リリーは、グレンの話を聞いて息を飲む。
何てことを……。グレンのことが恐ろしくて、とにかくアレンを自分のもとに引き寄せたかった。
「わかりました……。アレンを、こちらに渡して下さい。これからは、ここで二人で生きていくということですよね……」
リリーは、これ以上グレンを刺激させないようにできるだけ平静を心掛けた。本当は、グレンが恐ろしくて心臓がドクドクと早鐘を打っている。
「わかればいいんだよ。全く、時間をかけさせないでくれよ」
グレンが、上着のポケットから鍵を出して鉄柵に近づく。錠前までくると、カチャリと鍵を鍵穴に入れて回した。すると、鍵が外れて鉄の扉が開く。
アレンが、すぐさま柵の中に入りリリーの元に駆けよる。リリーもアレンをギュっと抱きしめた。
するとそこにグレンを押しのけて、先ほどまで存在感を失くしていた男性が、突然リリーとアレンの前に立ち塞がった。
椅子の背もたれに体を凭れさせて、何もできないもどかしさを感じていた。脅されたとは言え、簡単にこんなところに閉じ込められる自分が情けない。
こんなのは、一年前の何もできなかった自分と変わらないと激しい怒りが沸く。
グレンは、アレンをここに連れてくると言っていた。ライラ様との生活に馴染み、やっとピーターソン家で笑顔を見せるようになってきたのだと、バーバラからの手紙に書いてあったのに……。
グレンは、一体何をしようとしているのか……。とにかく、アレンの身が無事であって欲しいと祈り続けた。
それから、その地下での生活が一週間続いた。陽のささない地下では、いつが朝でいつが夜なのかわからなくなる。
だけど、日付は部屋のテーブルに傷を付けてわかるようにし、時間はグレンの従者が日に三度ご飯を届けに来てくれたのでそれで大体を把握していた。
従者は、リリーを見張る為なのかずっと上に滞在している。頭上から、物音や足音が聞こえていたので恐らくそうなのだろう。
リリーは、何をするでもなく一日をぼんやりと過ごしていた。こんな時間ばかりが過ぎていくのなら、せめてイーストリー学園で勉強していた教科書やノートがあればと悔やむ。
こんなことになると思っていなかったので、何もここに持ってこなかったのだ。一度だけ、従者に馬車に置きっぱなしにした学園の鞄を持って来て欲しいと頼んだが却下されてしまった。
グレンから、ここ以外で手にした物は何も持ち込まないようにと指示されていた。
「はぁー」
リリーから、大きな溜息が零れる。一体いつまでこんな生活を続けていればいいのか……。従者に聞いても何も答えてくれない。
グレンが徹底して、リリーを外界からシャットアウトするつもりらしい。
何度目かの溜息を溢した時だった。にわかに階上が騒がしくなる。いつもとは違う、複数人の足音が聞こえ突然慌ただしくなった。
リリーは、何が起こるのかわからず胸騒ぎを覚える。
誰かが、地下の階段を降りて来る音がする。とても乱暴で雑な足音と、慎重な足音の二つだった。
「リリー、お待たせ。やっと連れて来たよ」
グレンの、場に似つかわしくない明るい声だった。リリーは、もう恐怖で顔が引きつっている。
どうして、何も聞いてくれない人になってしまったのだろう? それとも最初からリリーが気付かなかっただけで、グレンはこんな勝手な男だったのだろうか……。
リリーが何も返事をしないでいると、グレンは彼の後ろにいた男性が肩にしょっていた麻袋を指さす。
「ほら、リリー。アレンだよ。さっさと降ろして出してあげて」
グレンは、リリーに向けて笑顔を溢すと後ろにいる男性に指示を出した。男性は、グレンのマントを被り顔が見えない。
しかもリリーがよく見ると、マントがはだけた中の服はあちこちに赤い染みが飛んでいる。
(一体あの染みは何なの? それに、あの麻袋の中にアレンがいるってどういうこと?)
リリーは、もう何が何だから分からなくて頭を抱える。事態が恐ろし過ぎて、状況についていけなかった。
男性が、肩にしょっていた麻袋をゆっくりと床に降ろした。そして袋の口を開けると、中からアレンが顔を出した。
「お母様!」
アレンは、必死に麻袋から抜け出ると鉄柵の前まで走ってきてリリーに小さな手を精一杯伸ばす。
「アレン! 一体どうして。何があったの!」
リリーはびっくりして、椅子から立ち上がりアレンの所まで走って行く。柵越しに、アレンの手を握った。
「お母様ー。会いたかったよー」
アレンが、リリーの手を握って涙を零す。リリーは、床に膝を付いてアレンの顔に手を添えてよく見る。
久しぶりに見たアレンは、一回り大きくなっていてそしてどっからどう見ても貴族の子息だった。
「アレン、大きくなって……」
リリーの瞳にも涙が滲む。
「ほら、再会させてあげたからもういいよね? これで、また元通りのリリーに戻ってくれるでしょ?」
グレンが、リリーとアレンの会話を遮って勝ち誇ったような顔をしている。リリーに対して、褒めてと言っているような目だった。
リリーからしてみたら、もうそんな目をされても何とも思えない。一体なぜ、こんな事態になっているのかまずそれを説明して欲しかった。
「グレン様、これは一体どういうことなんですか? それにバーバラはどこですか?」
リリーは、床から立ち上がって毅然とした態度でグレンに向かった。もう前のように、目を潤ませて愛しい人を見る瞳で彼を見ることはできない。
「説明なんてどうでもいいだろ! それに、もうバーバラはここには来ない。君と一緒にして、また逃げられても困るからね!」
グレンが、自分の思い通りにならないからか口調が乱れ言葉が汚い。
「グレン様! どうでもよくありません。きちんと説明して頂かないと困ります。ライラ様は、何も言わなかったのですか?」
リリーは、グレンに負ける訳にはいかなかった。きちんと話をしなければ、有耶無耶のまま全てがなかったことにされる。それに、バーバラのことも心配だった。
「煩い! アレンは、誘拐事件に巻き込まれ死んだことにした。だからもう何もかも大丈夫なんだ!」
グレンの目は血走って、表情も段々と恐ろしいものに変わっていく。リリーは、グレンの話を聞いて息を飲む。
何てことを……。グレンのことが恐ろしくて、とにかくアレンを自分のもとに引き寄せたかった。
「わかりました……。アレンを、こちらに渡して下さい。これからは、ここで二人で生きていくということですよね……」
リリーは、これ以上グレンを刺激させないようにできるだけ平静を心掛けた。本当は、グレンが恐ろしくて心臓がドクドクと早鐘を打っている。
「わかればいいんだよ。全く、時間をかけさせないでくれよ」
グレンが、上着のポケットから鍵を出して鉄柵に近づく。錠前までくると、カチャリと鍵を鍵穴に入れて回した。すると、鍵が外れて鉄の扉が開く。
アレンが、すぐさま柵の中に入りリリーの元に駆けよる。リリーもアレンをギュっと抱きしめた。
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