秘密の多い令嬢は幸せになりたい

完菜

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第四章 幸せにつながる道

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 キャスティナは、アルヴィンの兄であるクリフォードと会場に入る扉の前で待機していた。今日のお披露目はクリフォードのたっての希望で、エスコートしてもらう事になっている。何でも折角可愛い妹が出来たのに、一度もエスコートしないまま嫁に行くなんて許せないと言う事らしい。昨日初めてお会いしたのに、キャスティナの事を幼児と勘違いしているが如く可愛がられた。キャスティナは、優しい兄が沢山出来て嬉しかった。

「緊張してる?」

 クリフォードが、キャスティナの顔を覗き込む。緊張はしていたが、クリフォードを始め家族のみんなが何かあったら頼りなさいと言ってくれたのでいい具合に力が抜けた。今日は、お披露目だけあって親族関係の招待客が多い。頑張って顔と名前を、覚えなければと気合を入れる。

「クリフォードお兄様を始め、みんながいてくれるから大丈夫です。頑張ります」

 気になる事が無いと言えば嘘になる。実は今日は、エジャートン家の両親が来ている。養子になるにあたり、特にもめる事もなかったと聞いているので接触してくる事はないと思っている。気にし始めるときりがないし、考えない様にしていた。

 会場内では、シェラード公爵家に新しい娘が出来たと説明が行われている。理由としては、シャルリーヌがどうしても娘が欲しいと言う我儘でいくと言われた。もちろん貴族的な、オブラートに包んだ言い回しで説明されているが。なぜキャスティナなのかは、偶々縁があったで押し通すらしい。キャスティナは驚いたが、それが一番角が立たないと言う事でしぶしぶ納得した。

 扉が開き、クリフォードのエスコートでキャスティナは入場する。招待客の視線が降り注ぐ。今までの淑女教育を思い出し、視線に臆する事無くキャスティナは入場した。

 入場してからは、シェラード公爵夫妻と共にひたすら挨拶に回った。あらかた挨拶周りが終わり、一息つこうとクリフォードが提案する。エヴァンの元に連れて行くと言ってくれた。エヴァンを探すと、今いる位置からホールの反対側にいて人の波を縫って歩く事になる。

 ホールを移動していると、何人かの令嬢とぶつかりそうになり、すれすれですれ違う。すれ違う度に、扇子で口元を隠しキャスティナにしか聞こえない声で呟かれた。

「エヴァン様の腕の中を知ってるのは、貴方だけではなくてよ」

「エヴァンって、キスが上手なのよね」

「エヴァンって、甘え上手ではなくて?」

 キャスティナが、驚いて振り返ると扇子から覗く目が笑っている。その目を向けた後は、進行方向に向き直り人ごみの中に紛れて行った。一瞬の出来事だった。キャスティナの怒りが湧く。立て続けに三人の令嬢に、言葉をぶつけられた。地味な嫌がらせだが、後に残らず敵ながらなかなかだなと思う心もあった。

 三人とも確認したが。顔良し、スタイル良し、性格悪しだった。

 キャスティナは、眉間に皺が寄る。どんどんイライラが募っていく。淑女たるもの、如何なる時も笑顔を忘れてはいけないと言われている。これではいけないとわかっているのに、イライラが吹っ切れない。

「キャスティナ、どうかした?」

 クリフォードが、一度止まりキャスティナの顔を覗き込む。表情に出たままで、クリフォードお兄様に気づかれてしまった。一瞬、お兄様に相談する?と考えが過るがこれは違うよねと考え直す。

「大丈夫です。ちょっと疲れただけです」

 そう言っても、クリフォードは不思議そうにしている。焦れてキャスティナは、早く行こうと頼んだ。その後は、何事もなくエヴァンの元にたどり着けた。

「キャスティナ、挨拶回り終わったんだね。お疲れ様」

 エヴァンが、キャスティナを引き寄せてクリフォードからエスコートを代わってくれる。キャスティナは、エヴァンの手を取り複雑な表情をする。その表情を見て、おやとエヴァンは何かを感じ取る。

「クリフォード様、すみません。少しキャスティナと庭園に出てきます」

 クリフォードも何か察する事があったのか、黙って頷いてくれた。エヴァンが、キャスティナの手を取り歩き出す。キャスティナも黙って付いて行った。

 庭園に出ると、薔薇がライトアップされていて綺麗だ。昼間は、だいぶ温かくなってきたが夜はまだまだ冷え込む。少し寒いかなと思っていると、エヴァンが自分の上着をキャスティナに掛けてくれた。庭園の道を歩いて行くと、奥まった所にベンチがありそこに腰をかけた。エヴァンが隙間を空けずに座って来たので、キャスティナは咄嗟にベンチの端に座り直す。二人きりになり、イライラがまた再燃してしまった。

「キャスティナ、何か怒ってるの?」

 エヴァンが、折角空けた隙間を塞ぐ。キャスティナは、体勢を変えエヴァンに対して背中を向けて座った。すると今度は、エヴァンが後ろからキャスティナを抱きしめてくる。キャスティナの肩に顔を乗せ、エヴァンが囁く。

「キャスティナ、ごめん。何があったか教えて下さい」

 キャスティナは、ぼそりと零す。

「一人目の方に、エヴァン様の腕の中を知ってるのは、貴方だけではなくてよって言われました」

「二人目の方に、エヴァンって、キスが上手なのよねって言われました」

「三人目の方に、エヴァンって、甘え上手ではなくて?って言われました」

 聞いたエヴァンは、肩に乗せていた顔を俯ける。静寂が辺りを包む。

 しばらくしてエヴァンは、肩に乗っけていた顔を背中に移動させた。

「嫌な思いをさせて、ごめんなさい。どうしたら許してくれる?」

 エヴァンが、力なく囁く。

「エヴァン様、こんなの仕方ないってわかってます。私と会う前の事なんて、わざわざ怒る事じゃないのも。でも、私イライラするんです。立て続けに、綺麗なお姉様方に言われたんですよ!私が聞きたいです。どうしたらイライラなくなりますか?」

 キャスティナは、自分の気持ちなのにどうしたらいいかわからない。こんな感情初めてで戸惑う。

「キャスティナ、こっち向いて」

 エヴァンが、抱きしめていた腕を離す。キャスティナは、しぶしぶ向きを変えエヴァンと目を合わせる。エヴァンは、すまなそうな表情だ。

「キャスティナがスッキリするなら、思い切り叩いて」

 そう言って、目を瞑って頬を差し出す。キャスティナは、頬と自分の右手の手のひらを交互に見る。小さく溜息を吐いた。キャスティナは、両手でエヴァンの頬を包み込み正面を向かせる。

 チュッと、自分の唇を重ねた。

 エヴァンが、驚いて目を開ける。目に飛び込んで来たのは、しょうがないなと笑うキャスティナの顔だった。

「キャスティナ?」

「だって仕方ないじゃないですか。これでもかってほど、反省してるし……。でも、これからのエヴァン様は全部私のです。そこは、ゆずれません!」

 キャスティナが、可愛らしく睨む。エヴァンが、キャスティナを力強く抱きしめる。

「うん。絶対約束する。キャスティナ以外に触らない」

 エヴァンは腕を離すと、キャスティナの額にコツンと自分の額を合わせる。

「許してくれなかったら、どうしようかと思った」

「エヴァン様のシュンとした顔に弱いみたいです」

「良かった」

 エヴァンが、チュッとキスする。キャスティナが笑うから、チュッチュッと何度も重ねる。

「エっ…」

 キャスティナが、名前を呼ぼうと口を開けた瞬間エヴァンに深く踏み込まれる。激しさに、キャスティナは息が続かない。

「ん…はぁ…エ…ヴァン……んんさま……」

 エヴァンが唇を離すと、キャスティナはぽーっとしていた。

「はあ。可愛い」

 エヴァンが、もう一度ギュっと抱きしめる。

「もう、さっきまで怒ってたんですからね!」

 薔薇の香りが漂う庭園で、二人は仲直りをした。

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