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第6話
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アンディの涼しげな笑みには、私に嘘をつかれた不快感など、微塵もなかった。
……私は少し迷ったが、忙しくもないのに、彼の誘いを断るために『忙しい』と嘘をついた負い目もあり、小さく頷いた。そして私たちは、近場にある、アンディ行きつけの酒場に向かったのだった。
・
・
・
「……それでね! そいつが言うのよ! 『あんたはもう用済みだ』って! 『国から出てけ』って! ああああああ! ふざけんじゃないわよ! 出てってやるわよ! あんな薄情者だらけの国! こっちから願い下げよ!」
私は、酔っぱらっていた。
自分でも信じられないくらい、酔っぱらっていた。
お酒を飲むのは、人生で初めてのことだった。
それほど美味しいとは思わなかったが、頭がふらりとし、心を包んでいた檻が壊れていくような感覚が気に入り、私は運ばれてきたお酒を、二杯、三杯と、一気に飲み干したのだ。
結果、酔った。
それはもう、滅茶苦茶に酔った。
その、強烈な酔いにまかせて、この半年間溜まっていた鬱積を、全部言葉にして吐き出した。普段は必要最低限のことしか喋らない私の、あまりの変貌ぶりに、アンディは苦笑しながらも、「そうなんだ」「大変だったね」「つらかっただろう」と、優しい相槌を打ってくれた。
う、嬉しい……
溢れ出す感情のままに悩みや苦しさをぶちまけて、それにただ、静かに相槌を打ってもらうだけで、こんなに心が救われるだなんて、思ってもいなかった。私はずっと、誰かに話を聞いてもらいたいと思っていたのかもしれない。
やがて、私の愚痴が一段落すると、アンディは一口お酒を飲み、尋ねてくる。
「ちょっと気になったんだけど、ラスティーナさんと、その、えっと、バグマルス王国の王子様……ウルナイト殿下って、婚約してたの?」
アンディが一口飲む間に、私は、その三倍の量を飲み、ジョッキをドンとテーブルに置きながら、答える。
「そう! そうなのよ! 第一王子と、国を守護する聖女が婚約を結ぶのが、バグマルス王国の慣習なの! ……私ね、昔は、あのウルナイト殿下……いや、『殿下』だなんて、敬称で呼ばなくてもいいわよね。私、もう、バグマルス王国の国民でも何でもないんだし」
そこでさらに一口お酒を飲み、私は改めて言葉を続ける。
「私ね、昔は、あのウルナイトが、あんなに嫌な奴だなんて知らなかったから、『孤児の私が、王子様と結婚できるなんて、夢みたい~』って、喜んでたの、馬鹿みたいでしょ? 今にして思えば、王子と聖女を婚約させるのは、そうすることで、聖女が役目を放り出して逃げないようにするためだったんでしょうね」
……私は少し迷ったが、忙しくもないのに、彼の誘いを断るために『忙しい』と嘘をついた負い目もあり、小さく頷いた。そして私たちは、近場にある、アンディ行きつけの酒場に向かったのだった。
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「……それでね! そいつが言うのよ! 『あんたはもう用済みだ』って! 『国から出てけ』って! ああああああ! ふざけんじゃないわよ! 出てってやるわよ! あんな薄情者だらけの国! こっちから願い下げよ!」
私は、酔っぱらっていた。
自分でも信じられないくらい、酔っぱらっていた。
お酒を飲むのは、人生で初めてのことだった。
それほど美味しいとは思わなかったが、頭がふらりとし、心を包んでいた檻が壊れていくような感覚が気に入り、私は運ばれてきたお酒を、二杯、三杯と、一気に飲み干したのだ。
結果、酔った。
それはもう、滅茶苦茶に酔った。
その、強烈な酔いにまかせて、この半年間溜まっていた鬱積を、全部言葉にして吐き出した。普段は必要最低限のことしか喋らない私の、あまりの変貌ぶりに、アンディは苦笑しながらも、「そうなんだ」「大変だったね」「つらかっただろう」と、優しい相槌を打ってくれた。
う、嬉しい……
溢れ出す感情のままに悩みや苦しさをぶちまけて、それにただ、静かに相槌を打ってもらうだけで、こんなに心が救われるだなんて、思ってもいなかった。私はずっと、誰かに話を聞いてもらいたいと思っていたのかもしれない。
やがて、私の愚痴が一段落すると、アンディは一口お酒を飲み、尋ねてくる。
「ちょっと気になったんだけど、ラスティーナさんと、その、えっと、バグマルス王国の王子様……ウルナイト殿下って、婚約してたの?」
アンディが一口飲む間に、私は、その三倍の量を飲み、ジョッキをドンとテーブルに置きながら、答える。
「そう! そうなのよ! 第一王子と、国を守護する聖女が婚約を結ぶのが、バグマルス王国の慣習なの! ……私ね、昔は、あのウルナイト殿下……いや、『殿下』だなんて、敬称で呼ばなくてもいいわよね。私、もう、バグマルス王国の国民でも何でもないんだし」
そこでさらに一口お酒を飲み、私は改めて言葉を続ける。
「私ね、昔は、あのウルナイトが、あんなに嫌な奴だなんて知らなかったから、『孤児の私が、王子様と結婚できるなんて、夢みたい~』って、喜んでたの、馬鹿みたいでしょ? 今にして思えば、王子と聖女を婚約させるのは、そうすることで、聖女が役目を放り出して逃げないようにするためだったんでしょうね」
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