夫より強い妻は邪魔だそうです【第一部完】

小平ニコ

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第31話

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 ……しかしまあ、シエルの言う通りだ。たとえば、カールが貧しい家の子なら、怪我をしてまで助けなかったか? そんなことはない。私たちのしたことは同じだ。

 そして貧しい家の子に、旅費に使えるような大金を要求するはずがない。だから、これでいいのだ。そうよ。本当よ。本当にそう思ってるの。本当よ。いや、本当に。

 口を開くと、何か余計なことを言ってしまいそうな気がするので、私は徹底的に黙り、置物のような微笑だけを浮かべておくことにした。目尻に光るのは涙ではなく、ただの汗だ。

 カールのお父さんは、心から感服したと言った感じで、もう一度頭を下げる。

「なんという素晴らしい心意気でしょう。わかりました。そういうお気持ちであれば、これ以上礼を押し付けるのは無粋。もう何も言いますまい」

 もうちょっと何か言ってくれてもいいのよ。
 ……と言いたい気持ちをグッとこらえ、張り付いた微笑を懸命に維持する私。

 カールが、お父さんの袖を引いて言う。

「お父さん、お二人は僕を助ける時に手首や肩を痛めてしまったんです。その治療をしていただけませんか?」

「おお、そうかそうか。では、メイラを呼ぼう。すぐに完全回復とまではいかないが、治りはずっと早くなるはずだからな」

 カールのお父さんがパンパンと手を叩き、お手伝いさんに何かを言いつけると、司祭のような恰好をした、三十代前半くらいの女の人がやって来た。

「旦那様、お待たせいたしました」

「メイラ、来てくれたか。用件は聞いているね。このお客人の怪我を、治療してくれ」

「かしこまりました。では、お客様。失礼いたします」

 メイラさんはそう言うと、私の手首、それからシエルの手首肘肩に、トントントンと軽く触れていく。すると、触れられた部分の痛みがスゥっと引いて、怪我の熱ではなく、優しい温かさで満たされていくのがわかった。

 シエルが微笑して言う。

「これは治癒魔法ですね。僕の故郷のものとは、かなり系統の違う術式ですが……」

 メイラさんは、恐縮したように頷いた。

「拙い魔法で、人様に披露するようなレベルではなく、お恥ずかしい限りです」

 それをカールのお父さんが、大きく笑い飛ばす。

「何を言う! お前のその治癒魔法で、私や部下たちがどれだけ救われてきたことか! 自信を持て! お前は、私にとってかけがえのない女なのだからな!」

「だ、旦那様。お客様の前で何をおっしゃっているのですか……っ」

「ん? あ、ああ、これは失礼。はは、はははははは」

 そう言って真っ赤になってしまう二人を見て、私もシエルも、カールも笑顔になった。どうやらこの二人は、単なる主人と使用人という関係ではなさそうだ。
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