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第86話
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でもね。
私はこれだけに――剣だけに、命を費やしてきたのよ。
何でもできるあなたには、想像もつかないほどの時間を、費やしてきたのよ。世の中にはね、まねごとだけじゃ決して超えられないラインってのがあるのよ。
それを、思い知るといいわ。
といっても、結果は相打ちでしょうね。
まあ、桁違いの怪物と相打ちなら、悪くない結末か。
私の刃が、マルグリットの額に触れた。
マルグリットの刃が、私の肩口に触れた。
マルグリットの顔が、くしゃっと歪む。
それは、幼児の見せる屈託のない笑顔に似ていた。
次の瞬間、私たちは眩い光りに包まれた。
・
・
・
気がつくと、マルグリットの姿は消えていた。
振り下ろした剣に、手ごたえはない。
私は、自らの肩口を見る。傷はない。当然、痛みもない。てっきり、マルグリットの長剣によって切り裂かれたと思ったのだが。
先程の私たちの激突は、完全に相打ちのタイミングだった。本来なら、私がマルグリットの頭を割るのと同時に、私の体は肩から腰の斜めのラインで真っ二つにされているはず。
困惑する私に、シエルが言う。
いや、『言う』というよりかは、独り言のようだった。
「今のはまさか、テレポーテーション……?」
私は、オウムのように聞き返す。
「テレポーテーション?」
「簡単に言うと、瞬間移動です。トアイトンでも、古文書で存在のみが伝わっている幻の魔法で、多くの大魔導師が使用を試みましたが、全員が失敗。その結果、『あれはただのおとぎ話だ』と言われるようになりました」
「その『おとぎ話』を、今マルグリットが使ったってこと?」
「信じがたいことですが、そうだと思います」
「つまり、逃げられたってことね」
仕留めそこなった――
今日、ここで、必ず殺しておかなければならなかったのに。
私は悔しさに歯噛みし、唇までをも噛んだ。
「しかし、凄いことです。さすがはソフィア様。あの姉上が、敵に恐れを抱いて逃げ出すなんて。僕の知る限り、こんなことは初めてですよ」
「違うわね」
「えっ?」
「マルグリットは、私が怖くて逃げだしたんじゃないわ。相打ちで死ぬのを恐れて逃げたわけでもない。たぶん『今ここで終わらせちゃもったいない』って思ったから、いったん勝負なしにしたのよ」
「もったいないって、どういう意味ですか?」
「あいつは、私と遊ぶのを気に入ったのよ。だから、相打ちで『どっちも死んで早々におしまい』だなんて『悪くない結末』はお断りなのね。もっと長く遊んでから、ドラマチックな形で、あいつか私、どっちかが死ぬような『上等な結末』にしたいって思ってるのよ。きっと」
「どうして、そういうふうに思うのですか?」
「あいつが言ってたでしょ。私たちは同類だって。だから、なんとなくわかるの」
私はこれだけに――剣だけに、命を費やしてきたのよ。
何でもできるあなたには、想像もつかないほどの時間を、費やしてきたのよ。世の中にはね、まねごとだけじゃ決して超えられないラインってのがあるのよ。
それを、思い知るといいわ。
といっても、結果は相打ちでしょうね。
まあ、桁違いの怪物と相打ちなら、悪くない結末か。
私の刃が、マルグリットの額に触れた。
マルグリットの刃が、私の肩口に触れた。
マルグリットの顔が、くしゃっと歪む。
それは、幼児の見せる屈託のない笑顔に似ていた。
次の瞬間、私たちは眩い光りに包まれた。
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気がつくと、マルグリットの姿は消えていた。
振り下ろした剣に、手ごたえはない。
私は、自らの肩口を見る。傷はない。当然、痛みもない。てっきり、マルグリットの長剣によって切り裂かれたと思ったのだが。
先程の私たちの激突は、完全に相打ちのタイミングだった。本来なら、私がマルグリットの頭を割るのと同時に、私の体は肩から腰の斜めのラインで真っ二つにされているはず。
困惑する私に、シエルが言う。
いや、『言う』というよりかは、独り言のようだった。
「今のはまさか、テレポーテーション……?」
私は、オウムのように聞き返す。
「テレポーテーション?」
「簡単に言うと、瞬間移動です。トアイトンでも、古文書で存在のみが伝わっている幻の魔法で、多くの大魔導師が使用を試みましたが、全員が失敗。その結果、『あれはただのおとぎ話だ』と言われるようになりました」
「その『おとぎ話』を、今マルグリットが使ったってこと?」
「信じがたいことですが、そうだと思います」
「つまり、逃げられたってことね」
仕留めそこなった――
今日、ここで、必ず殺しておかなければならなかったのに。
私は悔しさに歯噛みし、唇までをも噛んだ。
「しかし、凄いことです。さすがはソフィア様。あの姉上が、敵に恐れを抱いて逃げ出すなんて。僕の知る限り、こんなことは初めてですよ」
「違うわね」
「えっ?」
「マルグリットは、私が怖くて逃げだしたんじゃないわ。相打ちで死ぬのを恐れて逃げたわけでもない。たぶん『今ここで終わらせちゃもったいない』って思ったから、いったん勝負なしにしたのよ」
「もったいないって、どういう意味ですか?」
「あいつは、私と遊ぶのを気に入ったのよ。だから、相打ちで『どっちも死んで早々におしまい』だなんて『悪くない結末』はお断りなのね。もっと長く遊んでから、ドラマチックな形で、あいつか私、どっちかが死ぬような『上等な結末』にしたいって思ってるのよ。きっと」
「どうして、そういうふうに思うのですか?」
「あいつが言ってたでしょ。私たちは同類だって。だから、なんとなくわかるの」
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