この村の悪霊を封印してたのは、実は私でした。その私がいけにえに選ばれたので、村はもうおしまいです【完結】

小平ニコ

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第10話

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 私は困惑しつつも、思った通りのことを素直に答える。

「は、はい。見えますけど……」

 その何の変哲もない言葉で、山の神はさらに驚いたようだった。

「僕の声を聞くこともできるのか。凄いな、こんなのは何百年ぶりだろう。きみに触れることができたから、もしかしてとは思っていたけど、本当にまた、人と話せる日が来るなんて……」

 山の神は屈託のない笑顔を浮かべ、感慨深げにそう言った。その姿は、荘厳な神のそれではなく、十代の少年のようだった。彼の外見年齢は17~18歳程度なので、ある意味年相応の反応と言えるのかもしれない。

 それにしても、『こんなのは何百年ぶりだ』とはどういうことだろう。15年に一度、この祠に送り込まれていた哀れな『いけにえの少女』たちは、彼と話すことができなかったのだろうか。無意識に首をひねる私に、山の神はややはしゃいだ様子で言葉をかけた。

「僕の名はクォール。きみの名前を伺ってもいいかな?」

『伺ってもいいかな』とは。
 神様なのに、なんて謙虚な言い方をするんだろう。
 私は頷いて答える。

「カレンといいます」

 そっけなく、面白みのない自己紹介だった。仕方ないだろう。面白い人生を送ってこなかったのだから。だが、山の神――クォール様は、私のつまらない自己紹介をお気に召したらしく、さらにはしゃいだ様子を見せる。

「そうか、カレンか。いい名前だね。体の調子はどうかな? 一週間かけて僕の気をめぐらせたから、かなり回復したと思うんだけど」

『気をめぐらせる』という行為が具体的にどういうものなのかは分からないが、すっかり元気になったのは間違いない。私は深々と頭を下げた。

「とても元気になりました。こんなに調子がいいのは、生まれて初めてかもしれません。骨と皮だけだった腕も、ふっくらしてますし。これが神様の御力なのですね」

「僕は、きみたちの言うところの『神様』とは全然違うんだけどね。それでも、僕の力できみが元気になってくれたなら良かったよ」

 神様とは全然違う?
 それってどういうこと?

 そんな疑問が、ありありと表情に浮かんでいたのだろう。
 クォール様は、何も聞かなくても問いに答えてくれた。

「僕はこの辺りの土地を守護する精霊。だから、きみたちが思っているほど強い力を持っているわけじゃないんだよ。人とのかかわりがなければ、些細な奇跡すら起こすことができないほど、ちっぽけな存在なんだ」

 私たち人間にとっては、『土地を守護する精霊』も『神様』も、超常的な存在であり、大差はない。それに『人とのかかわり』とやらさえあれば、些細ながらも奇跡を起こすことができるのなら、それはもう、ほとんど神様に匹敵する力と言っていい気がする。
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