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第24話
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小型と言っても、体長は1メートル以上あり、噛みつかれればただでは済まない。
今現在、私は武器を持っていないので、飛びかかって来たモンスターを魔法で撃退しようとしたが、それよりも早く、兄さんが剣を抜き、馬上からの一撃で難なく倒してしまった。
兄さんは剣に付着した青紫色の魔物の血を拭いながら、私に問う。
「大丈夫か、ローレッタ? 怪我はないか?」
不意に、過去の記憶がフラッシュバックする。
あれは、私が13歳と数ヶ月の頃。
太陽がまぶしい、夏の日だった。
暑さのせいか、馬の機嫌がどうにも悪く、乗馬していた私は、振り落とされてしまったのである。当時の兄さんは、私をすっかり避けるようになっていたけど、その時ばかりは、本当に、血相を変えて飛んできて、今みたいに『大丈夫か!? 怪我はないか!?』って、必死になって呼びかけてくれたっけ。
あの頃からずっと、兄さんは私のこと、変わらずに想い続けてくれているのかな……
ちょっ、私、何を考えているの、こんなときに。
ついさっき『私事は心のうちに沈めておく』って決めたばっかりじゃない。
私は頭を振って意識を切り替えると、なるべく平静を装って微笑んだ。
「大丈夫よ。兄さんが一瞬でやっつけてくれたから」
「そうか、良かった。ふふ、どうだ? 俺の素人剣術も、案外捨てたもんじゃないだろう?」
ちょっと誇らしげに剣を構える兄さんが可愛くて、私は頷きながら、口元を隠すようにして笑った。
今、兄さんがやっつけたモンスターは、小型だがそれなりに強力な個体だ。それを一撃で切り伏せたのだから、『案外捨てたもんじゃない』どころか、兄さんの腕前は、聖騎士団の剣術にも決して引けを取らないだろう。なんとも頼もしいナイト様である。
その時だった。
道の向こうから、馬のひづめの音が聞こえてくる。
忘れるはずもない、これは、聖騎士団の戦馬が駆ける音だ。
音はどんどんこちらに近づいてきて、巨大な黒い馬が、ぬぅっと姿を見せた。黒馬の上には、対照的に小柄な青年が跨っている。女性的な顔立ちだが、甲冑からのぞく首元は逞しく、精悍な騎士であることがよくわかる。
青年は、私の姿を視認すると、軽やかに黒馬から降り、地面に片膝をついた。
「ローレッタ様! 戻ってきてくださったのですね! お待ちしておりました!」
小さな体躯に見合わない、溌溂とした大きな声だった。
聖騎士団員であることは間違いないだろうが、私は彼に見覚えがない。……私が一方的に忘れているだけだとしたら、とても失礼だとは思うが、今はそんなことを言っている場合ではないので、私は素直に名前を聞くことにした。
今現在、私は武器を持っていないので、飛びかかって来たモンスターを魔法で撃退しようとしたが、それよりも早く、兄さんが剣を抜き、馬上からの一撃で難なく倒してしまった。
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「大丈夫か、ローレッタ? 怪我はないか?」
不意に、過去の記憶がフラッシュバックする。
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暑さのせいか、馬の機嫌がどうにも悪く、乗馬していた私は、振り落とされてしまったのである。当時の兄さんは、私をすっかり避けるようになっていたけど、その時ばかりは、本当に、血相を変えて飛んできて、今みたいに『大丈夫か!? 怪我はないか!?』って、必死になって呼びかけてくれたっけ。
あの頃からずっと、兄さんは私のこと、変わらずに想い続けてくれているのかな……
ちょっ、私、何を考えているの、こんなときに。
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私は頭を振って意識を切り替えると、なるべく平静を装って微笑んだ。
「大丈夫よ。兄さんが一瞬でやっつけてくれたから」
「そうか、良かった。ふふ、どうだ? 俺の素人剣術も、案外捨てたもんじゃないだろう?」
ちょっと誇らしげに剣を構える兄さんが可愛くて、私は頷きながら、口元を隠すようにして笑った。
今、兄さんがやっつけたモンスターは、小型だがそれなりに強力な個体だ。それを一撃で切り伏せたのだから、『案外捨てたもんじゃない』どころか、兄さんの腕前は、聖騎士団の剣術にも決して引けを取らないだろう。なんとも頼もしいナイト様である。
その時だった。
道の向こうから、馬のひづめの音が聞こえてくる。
忘れるはずもない、これは、聖騎士団の戦馬が駆ける音だ。
音はどんどんこちらに近づいてきて、巨大な黒い馬が、ぬぅっと姿を見せた。黒馬の上には、対照的に小柄な青年が跨っている。女性的な顔立ちだが、甲冑からのぞく首元は逞しく、精悍な騎士であることがよくわかる。
青年は、私の姿を視認すると、軽やかに黒馬から降り、地面に片膝をついた。
「ローレッタ様! 戻ってきてくださったのですね! お待ちしておりました!」
小さな体躯に見合わない、溌溂とした大きな声だった。
聖騎士団員であることは間違いないだろうが、私は彼に見覚えがない。……私が一方的に忘れているだけだとしたら、とても失礼だとは思うが、今はそんなことを言っている場合ではないので、私は素直に名前を聞くことにした。
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