青い月にサヨナラは言わない

Cerezo

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EP2 卵に潜む悪夢3 高校生活開幕

3-14

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「先シャワー浴びて来いよ。お前は明日も学校なんだし」
「ん。ありがとうラテア。そうさせてもらうよ」

 帰宅して電気をつける。夏輝の部屋だ。瑞雪の部屋に比べてそりゃあ狭いけど、小奇麗に整頓されているし、掃除も行き届いている。
 俺の匂いと夏輝の匂いが混ざり合い、今ではすっかり馴染んでいた。

『瑞雪とトツカ、仲良くできているかしら』

 夏輝と分担して持ったスーパーの買い物袋をキッチンにおいて仕分けする。流し台の横に置かれたスマホの画面にはトロンがふよふよと飛んでいる。
 トロンはどこか物憂げな表情を浮かべていた。

「無理じゃね?」

 トロンの問いに対し、俺はばっさりと言い切った。

『あんた……希望も何もないわけ?」
「あるわけないだろ。一朝一夕であれは無理だって。瑞雪ってそんな順応性高くなさそうだし。どうせ今頃頭抱えてるぜ。間違いない。明日の夕飯一品賭けたっていい」

 そうすぐに溝は埋まらないし、相互理解も進まない。トツカに家事を勧め、少しでも瑞雪にとって益になるようにと仕込んでもそれが花開くのは正直暫く先だろうと俺は思っていた。
 トロンの入ったスマホを持ち、キッチンからリビング兼寝室へと移動する。

『きゃっ!もっと丁寧に扱いなさいよね!』

 スマホをベッドの上に軽く放るとぶぅぶぅととトロンが文句を言ってくる。

「悪い悪い。でもちゃんと柔らかいベッドの上だし壊れたりしねえって」

 自分の根城と言わんばかりの布団に大の字に寝っ転がる。耳と尾っぽを出してリラックスモードを取る。
 ぼんやりと今日あったことを思い出す。
 カフェの手伝いをしたこと、トツカにいろいろ教えたこと、スーパーの帰り道での事件。そしてカフェでロセに言われた事。

(……夏輝の為に一人の時間を作った方がいいんだろうか。それとも余計なお世話なのか?確かにオナニーする時間がないっつうのもなあ)

 少なくともここに転がり込んでから俺は夏輝がそれっぽいコトをしているところを目撃したことがない。
 精液の匂いは鼻につくからイヌ科の俺にはまるわかりだし。風呂とかで処理している可能性はあるが。

「なあ」
『なによ』

 俺一人で勝手に判断するよりかはそれとなくトロンに相談した方がいい。そう判断し、俺はまだぷりぷりしているトロンへ声をかけた。
 やや不機嫌そうにしつつもトロンはそれでも答えてくれた。

「俺たちが来てから夏輝ってあんまり一人の時間取れてないだろ?そういう時間をちゃんと作ってやったほうがいいのかなあって」

 ロセに言われたことが頭から離れない。自分が居候の身分と言うのが余計に心に引っかかっている。

『うーん。どうかしら。一人の時間が欲しかったら夏輝も言うだろうし……』

 暫し考えたらしいトロンは言葉を紡ぐ。

「でも夏輝だぜ?遠慮して言えないとかあるかも」
『はぁ~。そこまで深刻に考える必要はないともうわよ?夏輝だもの。瑞雪じゃないし。瑞雪だったらそもそも言ってくるタイプだろうけれど。そんなに気になるなら一度聞いてみたら?』

 あからさまに面倒くさそうなため息をつかれる。画面上のトロンは見えないが多分ジト目でこっちを見ていることだろう。

「まあ、そうだよな。聞いてみるか……」

 もだもだと考えていると、ガチャリと扉が開き、夏輝が戻ってくる。

「お風呂出たよ」
「お、おう」

 何となく気まずくて、言葉を濁す。そんな俺を夏輝は不思議そうに見ている。

「どうしたの?何かあった?」

 夏輝は案外目ざとい。気づいてほしくないときに限って的確に気づきやがる。

『せっかくだから話しちゃいなさいよ。うだうだやってるの見ててイライラするから!別に隠しておくことでもないでしょー』
「……おま、トロン!まあ、いいけどさあ」

 言うか言うまいか迷っていると上から余計な言葉が降ってくる。余計かどうかは諸説あるが。
 腹筋に力を籠め布団から起き上がり胡坐をかく。夏輝は訳が分からないといった様子で首を傾げこちらを見下ろしていた。

「こー、あれだ!俺がここに来てからお前と大体一緒にいるから一人の時間を作ったほうがいいのかなって思ったんだよ」

 ベッドの上のスマホに手を伸ばし、電源を切る。トロンに聞かせるのもアレだし……うん。

『ちょ、何ででんげ』

 トロンにはあとで謝っておこう。

「え?別に気にすることないと思うけど。俺はラテアと一緒に居られて楽しいし。全然遠慮とか必要ないからね?」

 まあ、こういうだろうなとは思った。なのでもう少しだけ突っ込んで聞くことにする。
 スマホを再びベッドに放り、一つ呼吸を置いて俺は口を開いた。

「あー、その。ほら。男だし溜まるもん溜まるだろ?だから、その……自慰とかできてないのかなって。余計なお世話かもしれないけど、年頃の男子にそれはキツいんじゃないかって。このアパートの広さだと一人になれる空間ってあんまりないし」

 言いにくいと戸惑っていては多分結局言えずに終える。意を決して一息に全部言いたいことを言ってしまう。

「えっ」

 さっきまで風呂上がりでホカホカ。かいた汗を首に巻いたタオルで拭いていた夏輝の動きが固まる。

「えっ????」

 暫く固まってからもう一度。それはそれは間抜けな声を出す夏輝。そんな反応をされると逆に恥ずかしくなってくる。

「え?じゃないだろ。生理現象の処理は別にヒトとして当然の事だろうが!俺が気を使って聞いてるのに!」
「え、あ、う、うん」

 夏輝の顔を見上げれば、顔が熟れたトマトみたいに真っ赤になっていた。そ、そこまで恥ずかしがることか?いたたまれなくなり、耳と尾っぽをへなりと下げる。

「ご、ごめん。そ、そんなこと他の人に聞かれたことなくて……。そ、そうだよね。まあ、えっと……ら、ラテアは気にしなくてもだ、大丈夫だよ!」

 声が死ぬほど裏返っている。そして動きがぎこちない。

「気にしなくていいって……」

 気になることはあるが、これ以上詮索するのはよくないだろう。誰にだってプライベートはあるし、踏み込まれたくない話題なんだろう。

(いらん気を回したかもな……この年頃の子供ってデリケートだし)

 自分のことを棚上げして、俺は一人心の中で考える。

「っていうか、ラテアこそどうなの?そういうのさ。俺に気を使ってない?」
「え?俺」
「そう」

 今度は俺の喉の奥から裏返った声が出る。ぱちぱちと何度か瞬きをしてから夏輝を見ると、顔を真っ赤にしつつも扱く真面目な顔をしていた。

「ラテアだって俺と同じ男でしょ?不自由してないのかな、って。その、思って」

 語気がどんどん元気がなくなり消え入るような声になる。夏輝にしては非常に珍しい声音だった。

「俺は研究所のせいかな、わかんねえけど……。性欲とかそういうのは今のところさっぱり。だから気にしなくていいぜ」

 立ち上がり、夏輝の頭をぽんぽんと撫でる。顔はやっぱり茹でタコみたいに真っ赤なまま。

「のぼせたのか?いや、シャワーだしそれはないか……なら風邪?休んだ方がいいんじゃないか?顔真っ赤だぜ?」

 熱がないかと手を夏輝の額に乗せ、顔を近づけ顔色を確認する。
 顔の表面はかっかとしているが、熱自体はないようだ。少し安心する。

「らららららラテア、近いよぉ!」
「ん?ああ、わりぃ。風邪かと思ってちょっと心配した。っていうかなんだよ。別に顔近づけるくらいよく……はないけど初めてじゃないだろ?」

 半ば悲鳴じみたか細い声を出す夏輝。
 嫌だったのか?と思いとりあえず顔を離す。まあ風邪じゃないなら何でもいいか。

「うう……。ラテアもお風呂入ってきなよ」

 何故か酷く疲れたように夏輝はがっくりと肩を落とした。適当に尻尾でぺしぺしと足をはたいておく。肯定の意だ。
 いつまでもこうしているわけにはいかないし、さっさと風呂入ってテレビでも見て休もう。
 俺はすっかりトロンのスマホの電源をつけなおすのを忘れ、そのまま風呂場へと向かう。後でトロンにしこたま文句を言われたのは内緒である。

 
 
 

 
 
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