青い月にサヨナラは言わない

Cerezo

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EP2 卵に潜む悪意9 プライドファイト

瑞雪VS朝陽3

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「瑞雪」

 走る速度は緩めずにトツカが口を開く。

「なんなんだ?真っ暗だ」

 すぐに闇へと突入する。入ったところでスマホの画面を確認するが、マナ及びイオの反応すらもまともに感知しなくなっていた。
 この場所一帯に闇の帳が下りたことが理由だろう。

「朝陽は闇魔法を使う。ただ、使っているところを俺は見たことがないから詳細は不明だ」
「なるほど。立ちふさがる相手は斬るだけだ。行くぞ」

 一切怯まず、臆することもなくトツカは闇の中をひた走る。上下左右に揺れるため、お世辞にも抱えられ心地はよくはない。
 
「む」
「うぉ!?」

 走っている途中でトツカが反応。瑞雪を抱えながら片手で刀を構え、襲撃者を迎撃しながら進軍する。
 漆のような闇の中、ぎらぎらと光る眼がいくつか。どうやら今度は有象無象ではなくそこそこ強力な個体たちのようだった。
 巨大な蝙蝠が複数体と、人型の影。殆ど視認することは瑞雪からすれば出来なかったが、トツカはそうではないらしい。
 襲ってくる蝙蝠に対しトツカは瑞雪を庇いつつ翼をばっさばっさと切り落としていく。

「あは、やっぱり猟犬におんぶにだっこなんだねえ」

 不意に聞こえてくる朝陽の声。癇に障る甲高い声だ。
 朝陽の詳細な位置は闇のせいで不明だが、近い。

「っは、お前からこっちに来るとは気分が変わったのか?猟犬の背中に隠れてるしか出来ない癖に」
「それでボロ雑巾みたいにズタボロになってちゃ世話ないよね。雑魚瑞雪」

 罵倒のレベルは低レベル。しかしそれでも互いに言い合わなければ気が済まない。わかってはいても口から出る言葉を瑞雪は止められなかった。

「トツカ、降ろせ!俺を持ったままだと片手しか使えないだろう!」

 どうせ近くにいるし襲われているのだ。これ以上進軍するよりも殴り返す方が賢明だと判断した瑞雪はトツカに向かって言葉をかける。
 トツカはその言葉に一瞬だけ逡巡してから瑞雪を抱える腕の力を緩める。瑞雪はそれを感じ脇から転がり出る。

「一切何も見えないな……。お前はどうやって蝙蝠を迎撃してるんだ?」
「音だ。視力は増強しても意味がなかったのでな聴覚強化を発動した」

 そう言っている間にも襲ってくる蝙蝠たち。

「瑞雪、人型の影は恐らくここまでの猟犬とは一線を画す。……戦うのが楽しそうだ」

 トツカの声が一層低くなる。声には期待や喜悦が入り混じっている。
 今日はとにかく冷静で大人しいが、そもそもトツカは戦闘狂と言って差し支えがないのだ。

「戦うのはいい、だが使いすぎるな。朝陽の用意している手札が後どれほどあるのかわからない」
「ああ」

 トツカはしっかりと瑞雪と視線を合わせ頷く。

(今日のこいつなら信じられる、背中を預けられる……気がする)

 自身も歩み寄らなければ。否定から入ってはならない。そう自らを戒める。そしてしっかりとコンクリートの地面を踏みしめ、弓を構えなおす。
 先程泥人形に掴まれた足首は折れてはいないがヒビは入っていそうだ。ずきりずきりと痛みを主張してくる。身体もあちこちぶつけ、トツカに抱えられて失踪したせいで髪も酷い乱れ方だ。
 それに対し朝陽は殆ど動いていないだろう。ああ、ムカつく。

「今回のは結構強いよ。ぐちゃぐちゃにしちゃえ!」

 まるっきり子供のような命令の仕方だが、その実猟犬の動きは緻密で戦略的だ。それは朝陽が猟犬達の全権を握っているからに他ならない。
 余裕を表すかのように、闇の中からぼんやりと輪郭が目視できる程度に露わになる。
 朝陽と、もう三体ほどの猟犬。その中の一体は二本の美しい装飾の施された曲剣、カタールを持った角の生えた漆黒の竜人だった。こいつがトツカの言っていた強い猟犬なのだろう。
 残りの二体は頭からローブを被った人型。ローブのせいで一体どの種族なのかわからない。

「つまんないし、そろそろ終わりにしてあげないとね。そのくだらないプライドとか諸々全部へし折ってあげないと」

 その言葉と同時にローブの猟犬二体が魔法を詠唱し始める。瑞雪が雷を打ち込もうとするが、再び闇が濃くなりすべてを飲み込む。そして。

(ん?耳がおかしい?)

 きぃんと強い耳鳴りがしてつきりと後頭部に鋭い痛みが走る。

「瑞雪」
「どうしたトツカ」
「聴力強化が打ち消された」

 悪いニュースだ。小さく息をつく。

「打消し(ディスペル)の魔法か。本当に幅広く取り揃えているなくそったれめ」

 打消しは治癒の魔法の一種だ。つまり、相手は回復が可能ということだ。
 確実に相手のフィールドでの戦いを強いられている。瑞雪達が泥やらなにやらを対処している間に戦場を整えたのだ。わかってはいたが後手後手に回っている。
 こういう器用な立ち回りは瑞雪、トツカ共に全くと言っていいほど得意としていなかった。根っこの部分はトツカと瑞雪は間違いなく似ている。
 彼らは脳筋なのだ。
 トツカは聴力強化が解除されても何とか瑞雪を守りつつ攻撃を防いでいた。動きを最小限に、神経を研ぎ澄ませ瑞雪にぴったりと張り付いている。
 一瞬でも気を抜けば瑞雪の身体はあの影の剣士に間違いなくなます切りにされている。
 
「トツカ!」

 相手の手の内がどれだけあるかはわからないが、今必要なのは盤面を覆す一手だ。

「周囲一帯を薙ぎ払う。時間を稼げ!カマイタチは魔法の演算に全リソースを集中しろ!」
「わかった」
『ぎゅい!』

 下手に小賢しいことを考えるより、瑞雪の一番得意なものでごり押す方がいい。時間を与えれば与えるほど朝陽の手札を展開する時間を与えてしまう。
 
「させると思うの?馬鹿だね!」

 しかし、それを朝陽が許してくれるはずもない。残っている蝙蝠たちが一斉に瑞雪に向かって襲い掛かる。しかし、瑞雪は動かない。
 動かずに魔法の詠唱を始める。自身が行使可能な最大級の破壊魔法を。

「なかなか楽しくなってきた」

 トツカはと言えばなかなかに無理難題を押し付けられたにもかかわらず酷く楽しそうだった。口元が自然と吊り上がり、身体強化魔法も使えないのに蝙蝠たちの翼を狙って切り落とす。
 どぶみたいな色の血を吸い、刀が怪しく輝く。刀の付喪神は伊達ではないらしい。

「っぐ……」

 しかし、トツカ一人で一切の痕跡のない感知困難な敵を無傷でさばききることは不可能だ。死角からの攻撃に加えお荷物である瑞雪を庇っている。
 竜人の剣が瑞雪の喉元を抉る寸前でトツカが間に割り込み剣の軌道を逸らす。肩を上下にざっくりと切り裂かれ、思わず呻きが喉から零れる。
 しかし、イオを練ることも魔法を詠唱することも決してやめない。
 
「広範囲を一掃する事に俺は適さない。頼むぞ」
「ああ」

 トツカの言葉に瑞雪は深く頷く。強く思い浮かべる。大規模な破壊を。トツカと瑞雪以外の全てを一掃する雷を。
 弓の握を強く握りしめる。

「チッ……急に仲良しごっこを始めやがって。うざいんだよ!」

 朝陽の怒号。それと同時に巨大な火球と氷柱がこちらへと向かって降り注ぐ。残り二体の猟犬によるものだろう。

「瑞雪」
「広範囲魔法の迎撃は俺が同時に行う。ぶつけて相殺するだけだ。お前は近寄ってくる奴を頼む」

 トツカが瑞雪の指示を仰ぐ。
 瑞雪は即座に判断。トツカには竜人および蝙蝠の迎撃の継続を指示。遠距離魔法は瑞雪が打ち合う方針に決める。

(今回ばかりはあのくそ爺に感謝しなきゃならなそうだ。いや……?そもそもあいつがまともな武器を支給させなかったせいだろうが!)

 一瞬トチ狂って國雪に感謝しそうになり慌ててその考えを否定する。
 炎と雷、氷と氷のぶつかり合い。相殺が起こるたびに周囲が一瞬だけ明るく照らされる。
 
「っげほ、ぐ」

 トツカの腕の関節が変な方向へ曲がり、無理やり治す。瑞雪の足や腕も切り傷が増え、血が地面へとぱたぱたと滴り落ちていた。
 トツカの身体も瑞雪の身体も少しずつ少しずつぼろぼろになっていく。追い詰められていく。
 戦いは数だよとは誰が言ったか。まさにその通りだ。それこそが朝陽にとっての一番の強みでもあるのだから。
 それでも倒れるには至らず、何とかやり過ごしながら時間を稼いでいた。

「……そろそろ本気でぶっ潰す」
 
 朝陽もその危険性を十分に理解している。地を這うような低い声と共に、朝陽の持つ指揮棒型の杖が怪しく紫紺色に輝き、猟犬達の首輪から機械音が響いた。
 
 

 
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