はじまりの朝

さくら乃

文字の大きさ
177 / 185
番外編〜はじまりの裏側で〜

エピソード14―②

しおりを挟む
「ひ・る・ご・ろ・ごう・りゅう・す・る・こ・と・に・し・た」

 周りが煩さすぎるせいで声が通らず、七星の耳元に口を寄せてそう伝えた。
(あれ?)
 言い終わってから七星を見ると何故か顔を赤くしていた。
(やべっ近すぎたか)
 自分のしたことにやっと気づく。俺の心臓も跳ね上がった。
(まぁ……ナナの場合、俺なんかにこんなことされていやだったのかも知れないけど……)
 そう思うと跳ね上がった心臓も落ち着いてしまう。


 それから二人で見て回った。
 昔水族館の来た時のように自然な形で隣に並んでいられている……それがすごく嬉しかった。
 小さな小窓を二人で頭を突き合わせるようにして覗く。昔と違うのはそんな時にはどきどきと心臓が煩い。いろいろ顔に出ないように気を引き締める。
 海月のブースに入ると、七星の顔が今まで以上に緩んだ。様々な種類の海月がふわふわ揺らいでいるのをうっとりとした目で見つめている。
(相変わらず海月が好きなんだ……俺の存在忘れてるみたいだな)
 ふっと溜息が零れてしまう。自分に振り向かせたくて。
「……海月好きは相変わらずか」
「えっ」
 吃驚したように俺を見る。
(やっぱ俺のこと忘れてたな)
「……覚えてた……?」
 ちょっと恥ずかしげな顔。しかし、そこで思わぬ反撃が。
「僕も覚えてるよ。動物園に行っても水族館に行っても、いつも一番はしゃいでた」
 それはここに来る道すがら自分でも思っていたことだが、七星と一緒なのが嬉しかったからだということは本人は知らないし、今更知られても恥ずかしいだけだ。
「忘れろ」
 そんな気持ちを悟られないようにそう言ったが、なんとなく顔に出てしまっていたような気がする。
(ナナの顔が~~)


 もう少し二人で眺めていたかったがタイムリミットがきてしまった。 
 そろそろ合流しようという明からの連絡。
(正直忘れてたわ~二人で来ているような気になってた)
 俺は心の中で盛大にがっくりきていた。
 待ち合わせ場所の三階売店に向かう。明と日下部はまだ来ていなかった。
 なんとなく売店を眺めていて海月のストラップが目についた。
(これあげたら喜ぶかな……いやいや、海月のストラップ彼奴らがつけてたろ)
 俺はその隣にぶらぶらしているイルカのストラップを手に取った。
 会計を済ませたそれを七星の目の前にぶら下げる。
「え? なに?」
 と七星に言われて俺も。
(なんでだ!)
 心の中で自問自答していた。自然と選んで手にとって会計まで済ませている! 七星に渡す理由まで考えてなかった!
 俺は、誕生日プレゼントだのクリスマスプレゼントでもいいなど、頭をフル回転させた割にはお粗末な言い訳しか言えなかった。
「俺の誕生日プレゼントのお礼でもいい――」
 最後に言った言葉がかなり地雷だった。口の中に苦いものを感じる。
 あの時は一晩過ごした女もいて、七星には知られたくなかったんだ。誤魔化すようにキツイ態度も取った
「あの時は悪かったな」
「僕こそ突然押しかけてごめん。彼女いたみたいなのに」
 七星まで地雷を踏みつける。
「彼女なんかじゃ……」
 その女は『彼女』ではなかった。『彼女』であったほうがよほど良かったのかも知れない。
「いや、ナナはわからなくていい」
 乱れた自分を知られたくなくてざくっと話を打ち切り、なかなか受け取らない七星の手にイルカのストラップを握り込ませた。
 
 
しおりを挟む
感想 39

あなたにおすすめの小説

ショコラとレモネード

鈴川真白
BL
幼なじみの拗らせラブ クールな幼なじみ × 不器用な鈍感男子

【完結済】俺のモノだと言わない彼氏

竹柏凪紗
BL
「俺と付き合ってみねぇ?…まぁ、俺、彼氏いるけど」彼女に罵倒されフラれるのを寮部屋が隣のイケメン&遊び人・水島大和に目撃されてしまう。それだけでもショックなのに壁ドン状態で付き合ってみないかと迫られてしまった東山和馬。「ははは。いいねぇ。お前と付き合ったら、教室中の女子に刺されそう」と軽く受け流した。…つもりだったのに、翌日からグイグイと迫られるうえ束縛まではじまってしまい──?! ■青春BLに限定した「第1回青春×BL小説カップ」最終21位まで残ることができ感謝しかありません。応援してくださった皆様、本当にありがとうございました。

嫌いなあいつが気になって

水ノ瀬 あおい
BL
今しかない青春だから思いっきり楽しみたいだろ!? なのに、あいつはいつも勉強ばかりして教室でもどこでも常に教科書を開いている。 目に入るだけでムカつくあいつ。 そんなあいつが勉強ばかりをする理由は……。 同じクラスの優等生にイラつきを止められない貞操観念緩々に見えるチャラ男×真面目で人とも群れずいつも一人で勉強ばかりする優等生。 正反対な二人の初めての恋愛。

【完結】君を上手に振る方法

社菘
BL
「んー、じゃあ俺と付き合う?」 「………はいっ?」 ひょんなことから、入学して早々距離感バグな見知らぬ先輩にそう言われた。 スクールカーストの上位というより、もはや王座にいるような学園のアイドルは『告白を断る理由が面倒だから、付き合っている人がほしい』のだそう。 お互いに利害が一致していたので、付き合ってみたのだが―― 「……だめだ。僕、先輩のことを本気で……」 偽物の恋人から始まった不思議な関係。 デートはしたことないのに、キスだけが上手くなる。 この関係って、一体なに? 「……宇佐美くん。俺のこと、上手に振ってね」 年下うさぎ顔純粋男子(高1)×精神的優位美人男子(高3)の甘酸っぱくじれったい、少しだけ切ない恋の話。 ✧毎日2回更新中!ボーナスタイムに更新予定✧ ✧お気に入り登録・各話♡・エール📣作者大歓喜します✧

キミがいる

hosimure
BL
ボクは学校でイジメを受けていた。 何が原因でイジメられていたかなんて分からない。 けれどずっと続いているイジメ。 だけどボクには親友の彼がいた。 明るく、優しい彼がいたからこそ、ボクは学校へ行けた。 彼のことを心から信じていたけれど…。

あなたのいちばんすきなひと

名衛 澄
BL
亜食有誠(あじきゆうせい)は幼なじみの与木実晴(よぎみはる)に好意を寄せている。 ある日、有誠が冗談のつもりで実晴に付き合おうかと提案したところ、まさかのOKをもらってしまった。 有誠が混乱している間にお付き合いが始まってしまうが、実晴の態度はいつもと変わらない。 俺のことを好きでもないくせに、なぜ付き合う気になったんだ。 実晴の考えていることがわからず、不安に苛まれる有誠。 そんなとき、実晴の元カノから実晴との復縁に協力してほしいと相談を受ける。 また友人に、幼なじみに戻ったとしても、実晴のとなりにいたい。 自分の気持ちを隠して実晴との"恋人ごっこ"の関係を続ける有誠は―― 隠れ執着攻め×不器用一生懸命受けの、学園青春ストーリー。

【完】君に届かない声

未希かずは(Miki)
BL
 内気で友達の少ない高校生・花森眞琴は、優しくて完璧な幼なじみの長谷川匠海に密かな恋心を抱いていた。  ある日、匠海が誰かを「そばで守りたい」と話すのを耳にした眞琴。匠海の幸せのために身を引こうと、クラスの人気者・和馬に偽の恋人役を頼むが…。 すれ違う高校生二人の不器用な恋のお話です。 執着囲い込み☓健気。ハピエンです。

逃げるが勝ち

うりぼう
BL
美形強面×眼鏡地味 ひょんなことがきっかけで知り合った二人。 全力で追いかける強面春日と全力で逃げる地味眼鏡秋吉の攻防。

処理中です...