19 / 185
第四章
5
しおりを挟む(今年も一緒に見たかったな……)
(ずっとずっと、これからも見たかった……)
越してきた翌年の春前に、桜好きの両親は河津桜を植えた。
その年は咲かず、翌年も咲かず、その次の年にやっと花をつけた。
それから、毎年樹と一緒に濃いピンクの花を見ていた。
木は成長して、毎年毎年花の数を増やしていった。今年も見事な花をつけ、通りすがりの人も立ち止まって見ていたが、樹だけはいなかった。
桜葉の間から透かして、樹の家を見ても、今日も誰もいないようにしんとしていた。
体育館の中央に置かれた臨時の壇上で、卒業証書が一人一人授与される。
卒業生の通り道には、僕らが育てた花がプランターに植え替えられ、今日を祝福するように飾られていた。
児童たちは、壇を挟んで向かい合うように、二組ずつ座っている。
僕のクラスと樹のクラスは向かい合っていた。
黒のスーツに薄青のワイシャツ、それに濃い青色のネクタイ。
ぐっと大人っぽく見える。
一番後ろの席だけど、前列の子よりも頭一つ分くらい大きい樹は、誰よりも目立っていた。
僕がこんなに見ていても、少しも視線が合わさらない。
もう、僕のことなんて、忘れてしまったみたいに。
最後の姿かも知れない。
この目に焼きつけておこう。
二組の樹は、四組の僕より全て先に進行している。
卒業証書の授与も、退場も。舞台に上がっての写真撮影も。
ずっと、樹だけを目で追う。
僕にこんな格好良い友だちがいたんだと。
大好きな友だちがいたんだと心の中にしまっておく為に。
そう、奥底にしまっておくんだ。
綺麗な宝物のように。
一旦退場してから体育館に戻ってのクラス写真の撮影。それを終えた順から自由に行動できる。
友だち同士で写真を撮り合ったり、教師と別れの挨拶をしたり。
体育館から外へ出て写真を撮る者もいる。
僕はそうやって写真を取り合う程仲の良い友だちは、樹以外にはいなかった。
その樹も……。
僕らは早々に帰ることにしたが、樹もクラス写真の後にすぐに出て行ったのを見た。友だちの多い樹もその賑やかな中に残ると思っていたのに。
そう言えば、舞台での撮影の中には、樹の母親も父親もいなかった。
ふたクラス前なので、もう帰ってしまったかも知れない。
そう思っていた。
だから、吃驚した。
正門の方へ歩いて行くと、門の向こう側に樹が立っていた。
表情がわかる位置で立ち止まった。
33
あなたにおすすめの小説
【完結済】俺のモノだと言わない彼氏
竹柏凪紗
BL
「俺と付き合ってみねぇ?…まぁ、俺、彼氏いるけど」彼女に罵倒されフラれるのを寮部屋が隣のイケメン&遊び人・水島大和に目撃されてしまう。それだけでもショックなのに壁ドン状態で付き合ってみないかと迫られてしまった東山和馬。「ははは。いいねぇ。お前と付き合ったら、教室中の女子に刺されそう」と軽く受け流した。…つもりだったのに、翌日からグイグイと迫られるうえ束縛まではじまってしまい──?!
■青春BLに限定した「第1回青春×BL小説カップ」最終21位まで残ることができ感謝しかありません。応援してくださった皆様、本当にありがとうございました。
嫌いなあいつが気になって
水ノ瀬 あおい
BL
今しかない青春だから思いっきり楽しみたいだろ!?
なのに、あいつはいつも勉強ばかりして教室でもどこでも常に教科書を開いている。
目に入るだけでムカつくあいつ。
そんなあいつが勉強ばかりをする理由は……。
同じクラスの優等生にイラつきを止められない貞操観念緩々に見えるチャラ男×真面目で人とも群れずいつも一人で勉強ばかりする優等生。
正反対な二人の初めての恋愛。
【完結】君を上手に振る方法
社菘
BL
「んー、じゃあ俺と付き合う?」
「………はいっ?」
ひょんなことから、入学して早々距離感バグな見知らぬ先輩にそう言われた。
スクールカーストの上位というより、もはや王座にいるような学園のアイドルは『告白を断る理由が面倒だから、付き合っている人がほしい』のだそう。
お互いに利害が一致していたので、付き合ってみたのだが――
「……だめだ。僕、先輩のことを本気で……」
偽物の恋人から始まった不思議な関係。
デートはしたことないのに、キスだけが上手くなる。
この関係って、一体なに?
「……宇佐美くん。俺のこと、上手に振ってね」
年下うさぎ顔純粋男子(高1)×精神的優位美人男子(高3)の甘酸っぱくじれったい、少しだけ切ない恋の話。
✧毎日2回更新中!ボーナスタイムに更新予定✧
✧お気に入り登録・各話♡・エール📣作者大歓喜します✧
キミがいる
hosimure
BL
ボクは学校でイジメを受けていた。
何が原因でイジメられていたかなんて分からない。
けれどずっと続いているイジメ。
だけどボクには親友の彼がいた。
明るく、優しい彼がいたからこそ、ボクは学校へ行けた。
彼のことを心から信じていたけれど…。
あなたのいちばんすきなひと
名衛 澄
BL
亜食有誠(あじきゆうせい)は幼なじみの与木実晴(よぎみはる)に好意を寄せている。
ある日、有誠が冗談のつもりで実晴に付き合おうかと提案したところ、まさかのOKをもらってしまった。
有誠が混乱している間にお付き合いが始まってしまうが、実晴の態度はいつもと変わらない。
俺のことを好きでもないくせに、なぜ付き合う気になったんだ。
実晴の考えていることがわからず、不安に苛まれる有誠。
そんなとき、実晴の元カノから実晴との復縁に協力してほしいと相談を受ける。
また友人に、幼なじみに戻ったとしても、実晴のとなりにいたい。
自分の気持ちを隠して実晴との"恋人ごっこ"の関係を続ける有誠は――
隠れ執着攻め×不器用一生懸命受けの、学園青春ストーリー。
【完】君に届かない声
未希かずは(Miki)
BL
内気で友達の少ない高校生・花森眞琴は、優しくて完璧な幼なじみの長谷川匠海に密かな恋心を抱いていた。
ある日、匠海が誰かを「そばで守りたい」と話すのを耳にした眞琴。匠海の幸せのために身を引こうと、クラスの人気者・和馬に偽の恋人役を頼むが…。
すれ違う高校生二人の不器用な恋のお話です。
執着囲い込み☓健気。ハピエンです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる