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第八章
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しおりを挟む僕の代わりに怒ってくれる大地にほっこりしながら歩きだそうとしたその時。
少し先を行った集団から外れて、小走りに反対方向──僕らのほうにやってくる人影が目に映った。
(いっくん……)
何か忘れ物でもしたのだろうかと思って然り気なく見ていたが、彼は僕のすぐ傍で立ち止まった。
(え? なになに? また、僕何かした?)
僕を見下ろしている。
明が僕に話しかけている時にほぼ横顔を見るくらいで、樹のほうからこんなふうに見てくるのは、春以来か。
「ナナ」
「え……いっ……城河くん」
『いっくん』と呼びたかった。
でも嫌がるかも知れない。
せっかく声をかけて貰ったのに、ここで失敗しちゃいけないと思った。
(名前、呼ばれた……)
その名で樹に呼ばれるのは、何年振りだろう。
嬉しさもあり、変声期の掠れ声ではない大人の男の声に何故かどきどきもあった。
向かい合ったまま何も言わない。
「あの……城河くん?」
もう一度名前を呼んだ。
無表情だった彼の眉間にぐっと皺が寄る。
なんだか怒っているような顔だ。
(あれ……? なんか、僕間違えた……?)
「天野──お前、余り俺らの周りに近寄るな」
「え…………」
わざわざ『ナナ』から『天野』に言い直された。
そのことが胸に突き刺さる。
自分も『城河』と呼んだくせに。
でも、僕がそう呼んだのと、樹がそう呼んだのでは、全然意味が違うのだと思う。
『拒絶』
樹のはそれだ。
「僕は近寄ってなんかないよ……っ。メイさんが僕に話しかけてくるんだからっ」
『天野』呼びされたのとその後の言葉とダブルの拒絶で、頭がぐらぐらして、自分が思ってもみないくらい刺々しい口調になる。
事実だけど、明だけのせいにしてしまった。
「明」
そう、口の中で呟く。
「お前、それ──」
ぴんっと額にかかった髪に触れるか触れないかくらいに、指で弾かれる。
「他の奴に見せるなよ。カナになんか、触れさせるな……っ」
そう吐き捨てて、くるっと背を向けた。
(なんだよ、それっ……っ。なんなんだよ……っ)
たくさんの生徒が傍らを通って行くというのに、僕は泣きそうになってしまった。
★ ★
「あー」
「ん~」
大地と明がそれぞれ明後日の方向を見ながら唸っている。
「あの時ボクらから離れてそっちに行ったと思ったら、そんなこと言ってたのかぁ~」
こくっと頷いた拍子に、ぽろっと片目から涙が零れた。
「それって、アレだ~──嫉妬ってヤツだよね」
「嫉妬?」
「だね。俺、傍で見てたけど、アレは嫉妬だね」
「嫉妬? 僕に?」
(やっぱり……僕がメイさんと話すのやだったんだ……。いっくん、今は、メイさんのほうが大事なんだよね……。わかってたのに)
そんなふうに考えて、鼻の奥がつんと痛くなる。
本格的に泣きそうだ。
「違う違う」
二人同時に顔の前で手を振った。
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