はじまりの朝

さくら乃

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第九章

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 樹ともう一度話したいと思いながら行動に移せずにいたけれど、明の言葉に少しだけ勇気が湧いてくる。


 でも。あと一つ気になることがあった。

「そういえば……いっくん……彼女できたのかな……」
 以前この話題が出た時には明は『いない』と答えた。
 でも、あの時玄関に並んだ女物の靴は……。
 樹の母が戻ってきたのか聞いて、彼は『違う』と否定した。


(なら……あの靴は……彼女のもの?
 誕生日の日に来て泊まったとか……?)


 あの時感じた疑問と共に、またもやもやしたものが広がってきた。

「彼女? いないと思うよ~。ななちゃん、気になるの~?」
 明がにこにこしながら僕を見ていた。
 頭の中で考えてたつもりが口に出てしまっていたらしい。
「気になるわけじゃ……いえ……それはちょっとは……」
「なんかあった?」
「んー……」
 僕はさっきは話さなかった『玄関の靴』のことを明に話した。
「あー。うん。そっかー」
 明は一人納得している。
「でも、彼女じゃないと思うよ」
「そう……なんですか?」
「彼女じゃないけど、たまにあるんだよね。そういうこと」
「そういうことって?」
 さっきから明の言うことがまるでわからない。
「だから、いい寄ってくるその辺のオンナのコを喰っちゃうこと。大方誕プレでも渡しに来たコなんじゃない?」
「喰っちゃう……?」
「ん?──あー、わかんないかぁ。ななちゃん、やっぱかーいーなぁー」
 悪い笑みを浮かべて、僕の頭をなでなでする。
「だからさーセックス……ってーっっ」
 言いかけたところでバチンッと大地に口をた叩かれた。
「なにすんのーっ」
「もう、やめろーっ。七星にそんなこと吹き込むなー」
 大地がぎゅっと抱き締めてくる。
「俺の七星がけがれる~」
「ちょっと、どういうことよー。だいくん、まだ…………」

 傍で二人が騒いでいるけれど、僕は僕で自分の世界に入っていた。

『セックス』
 生々しい言葉に衝撃を受ける。大地は『けがれる』というが、僕も年相応にその言葉の意味は知っている。

 仮に樹が『友だち』だったとして、彼女がいるとかいないとか、気になるのは少しも可笑しなことではないと思う。セックスについても、僕らの年頃だったら興味津々だったとしても普通のことだろう。
 

(でも、この動揺は……。
 そういうのとも、ちょっと違うような気がする……)


 嫉妬とか独占欲とかそんな感じにも似た……。


(……気持ち悪い……よね? そんなの。
 絶対いっくんに知られたくない)


 何か恐ろしいものが潜んでいそうな心の奥底を、僕は見ないように蓋をした。

    
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