はじまりの朝

さくら乃

文字の大きさ
110 / 185
第二十一章 

 5

しおりを挟む
『あんた、名前は?』
『冴木梨麻りま
『じゃあ、梨麻。あんた、今から俺の彼女な』
『え?』
『何かあったら俺に連絡しろ』


 その時二人の間にそんなやり取りがあり、その後連絡先の交換もした。バイト終わりが重なった日は駅周辺で待っていたり、樹のバイトが休みの日は梨麻のバイト先まで行って護衛してくれたのだと、彼女は言った。

「絡まれるのは怖かったけど、樹くんと急に親しい関係になったみたいでちょっと嬉しかった」
 ちょっとどころではない嬉しさが顔に現れている。
「ある日やっぱりバイトで遅くなった夜、樹くんに連絡してから家に向かったら、途中でまた数人の男たちが待ち構えていて、危ないところに樹くんが来たんだ。私を背に隠して『俺の女に用事か?』って。そしたらその中の一人が『樹……』った名前を呼んでた。その時気がついたんだ。私の話を聞いた時から、彼はその集団のことをわかってたんじゃないかって」
 ふっと梨麻の顔が陰りを帯びる。
「だから、護衛も買って出たんだって」
「そんなことないよ。いっくんは……あ、樹くんは」
 僕が言い直したのを聞いてふふっと笑った。
「別にいいよ、いっくん? すごく仲良しみたいね」


(そうだね、仲良しだった。
 今は違うけど)


 樹のことでは今はほんのちょっとのことでも哀しくなってくる。
 でも僕の話は梨麻に言ってもしょうがない。
「いっくんは、そうじゃなくても冴木さんを守ったと思います」
「そうかな。ありがとう。でもそれもひと月くらいで終わったの」
「え?」
「もう大丈夫だと思うからって。何か確信のあるような言葉だった。本当にその後は何もなくなったんだよ。私たちは普通にお客と店員に戻った」


(ん?
 ひと月くらい?
 でも、いっくんの『彼女説』が流れたのってもっとあとだったような)


 何故こんなに時差があるのか。
 それに。
「僕、BITTER SWEETで冴木さんに会った日、いっくんにあなたのこと『彼女』だって聞きましたけど」
「そうなのよね~」
 答える口調は明るいのに、にがくも、少し哀しげにも見える笑みを浮かべた。
「十一月の終わり頃だったかな。一週間くらい樹くんがバイト休んでて、久しぶりに顔を合わせた。
 十一月にバイトを休んだというのは、恐らく修学旅行の為だろう。
「その日はなんだか、物言いたげにちらちら私の顔を見てて、お会計終わった後外まで見送りに来て、吃驚したよ。『梨麻に頼みたいことがあるんだ』って──そんな感じで言われたらちょっと期待しちゃうよね」
 どう期待しちゃうのか、梨麻の気持ちを聞いた僕には聞かなくてもわかる。
「なのに。案外樹くんて鈍感かも──『しばらく彼女のフリをしてほしい』って言うのよ」 

しおりを挟む
感想 39

あなたにおすすめの小説

ショコラとレモネード

鈴川真白
BL
幼なじみの拗らせラブ クールな幼なじみ × 不器用な鈍感男子

【完結済】俺のモノだと言わない彼氏

竹柏凪紗
BL
「俺と付き合ってみねぇ?…まぁ、俺、彼氏いるけど」彼女に罵倒されフラれるのを寮部屋が隣のイケメン&遊び人・水島大和に目撃されてしまう。それだけでもショックなのに壁ドン状態で付き合ってみないかと迫られてしまった東山和馬。「ははは。いいねぇ。お前と付き合ったら、教室中の女子に刺されそう」と軽く受け流した。…つもりだったのに、翌日からグイグイと迫られるうえ束縛まではじまってしまい──?! ■青春BLに限定した「第1回青春×BL小説カップ」最終21位まで残ることができ感謝しかありません。応援してくださった皆様、本当にありがとうございました。

【完結】君を上手に振る方法

社菘
BL
「んー、じゃあ俺と付き合う?」 「………はいっ?」 ひょんなことから、入学して早々距離感バグな見知らぬ先輩にそう言われた。 スクールカーストの上位というより、もはや王座にいるような学園のアイドルは『告白を断る理由が面倒だから、付き合っている人がほしい』のだそう。 お互いに利害が一致していたので、付き合ってみたのだが―― 「……だめだ。僕、先輩のことを本気で……」 偽物の恋人から始まった不思議な関係。 デートはしたことないのに、キスだけが上手くなる。 この関係って、一体なに? 「……宇佐美くん。俺のこと、上手に振ってね」 年下うさぎ顔純粋男子(高1)×精神的優位美人男子(高3)の甘酸っぱくじれったい、少しだけ切ない恋の話。 ✧毎日2回更新中!ボーナスタイムに更新予定✧ ✧お気に入り登録・各話♡・エール📣作者大歓喜します✧

キミがいる

hosimure
BL
ボクは学校でイジメを受けていた。 何が原因でイジメられていたかなんて分からない。 けれどずっと続いているイジメ。 だけどボクには親友の彼がいた。 明るく、優しい彼がいたからこそ、ボクは学校へ行けた。 彼のことを心から信じていたけれど…。

あなたのいちばんすきなひと

名衛 澄
BL
亜食有誠(あじきゆうせい)は幼なじみの与木実晴(よぎみはる)に好意を寄せている。 ある日、有誠が冗談のつもりで実晴に付き合おうかと提案したところ、まさかのOKをもらってしまった。 有誠が混乱している間にお付き合いが始まってしまうが、実晴の態度はいつもと変わらない。 俺のことを好きでもないくせに、なぜ付き合う気になったんだ。 実晴の考えていることがわからず、不安に苛まれる有誠。 そんなとき、実晴の元カノから実晴との復縁に協力してほしいと相談を受ける。 また友人に、幼なじみに戻ったとしても、実晴のとなりにいたい。 自分の気持ちを隠して実晴との"恋人ごっこ"の関係を続ける有誠は―― 隠れ執着攻め×不器用一生懸命受けの、学園青春ストーリー。

【完】君に届かない声

未希かずは(Miki)
BL
 内気で友達の少ない高校生・花森眞琴は、優しくて完璧な幼なじみの長谷川匠海に密かな恋心を抱いていた。  ある日、匠海が誰かを「そばで守りたい」と話すのを耳にした眞琴。匠海の幸せのために身を引こうと、クラスの人気者・和馬に偽の恋人役を頼むが…。 すれ違う高校生二人の不器用な恋のお話です。 執着囲い込み☓健気。ハピエンです。

逃げるが勝ち

うりぼう
BL
美形強面×眼鏡地味 ひょんなことがきっかけで知り合った二人。 全力で追いかける強面春日と全力で逃げる地味眼鏡秋吉の攻防。

ただ愛されたいと願う

藤雪たすく
BL
自分の居場所を求めながら、劣等感に苛まれているオメガの清末 海里。 やっと側にいたいと思える人を見つけたけれど、その人は……

処理中です...