37 / 202
第4章:酒と天使
第6話:ソーセージと麦酒
しおりを挟む
この街の熱気に一番当てられたのは、意外なことにアリス=アンジェラであった。彼女はこの世に産まれてから16年ほどしか経っておらず、救世主を一度も見たことが無いからだ。アンドレイ=ラプソティは一度であるが、本当の意味での救世主と出会っている。それゆえに、救世主がどんな人物かを知っているために、アリス=アンジェラのように情熱的にはなれない。
「アリス殿に言っておきますけど、救世主は所詮、ニンゲンです。救世主は救世主であり、それ以上でもそれ以下でもありません」
「そうなんデス? でも、創造主:Y.O.N.N様がお選びになるほどの御方なのデスヨ? 地上界のアイドル的存在なのデハ?」
「真の救世主であれば、天使すらも『魅了』してしまうほどの人物であることは間違いありません。そのアイドル性はとんでもなく恐ろしいモノを持っています」
アンドレイ=ラプソティは『第3次天魔大戦』において、天界軍の1将校として従軍していた経歴持ちである。そして、地上界のニンゲンたちをまとめあげていたのは救世主であった。それゆえにその当時の救世主とは知己の仲であった、アンドレイ=ラプソティは。しかし、やはり救世主はニンゲンということもあり、いくら創造主:Y.O.N.Nに選ばれた人物だとしても、ニンゲンの感情でモノを発言していた。
それこそ、アンドレイ=ラプソティの心を鷲掴みにして、グワングワンと揺らすほどの『魅力』を持っていた人物であった。だが、あの『第3次天魔大戦』を終えた後に、彼が取った数々の行動を振り返ってみれば、守護天使を務めたレオン=アレクサンダーの方が優れた人物であったとしか言いようがない。
その当時の救世主は軍才など、欠片も持ち合わせていなかった。ただただ、ひとびとを『魅了』する才には長けていた。それがどれほどのニンゲンたちを死地へと追いやったかと言えば、レオン=アレクサンダーがやったことのほうが1億倍マシだといわざるをえないほどである。そして、天界に残されている救世主に関する文献を読み漁ったことで、アンドレイ=ラプソティは救世主に共通する才能を発見し、さらに確信に至る。
アンドレイ=ラプソティが救世主に見出した才とはすなわち『ひとたらし』なのである。鐘が響き渡るような声で、人々の鼓膜と心臓を打ち鳴らし、脳の回線と回路を焼く。これで救世主は地上界のひとびとを悪魔専用の殺戮兵器へと変えるのだ。救世主を通じて、創造主:Y.O.N.N様を神聖視し、救世主の言葉で、死を恐れぬ兵士へと変える。
救世主の存在は天界にとっては、非常にありがたい存在になるが、それでも無辜の民たちが悪魔との戦いでいたずらに命を落としてほしいとは思わない天界の住人たちであった。そういう想いがあるにも関わらず、救世主たちは女子供たちすらも兵士へと変貌させたのである。その事実を知っているし、体験もしているアンドレイ=ラプソティはむやみやたらに救世主を歓迎する態度を取れないのであった。
「今のうちに言っておきます。その救世主が本物であろうが、偽物であろうが、アリス殿は『魅了耐性』をフルに上げておいてください」
アンドレイ=ラプソティはテーブルに運ばれてきた料理にフォークをぶっ刺しながら、アリス=アンジェラにそう忠告する。まるで父親が悪い男に引っかからないようにと注意するようでもあった。そして、それに便乗するようにとある人物がテーブルの開いた席にドカリと座り、この人物もまたアリス=アンジェラに忠告をし始める。
「そうだぞ。アンドレイもたまには良いことを言う。救世主は『色欲』のアスモウデスも裸足で逃げ出すレベルの『ひとたらし』だからなっ! 我輩もアンドレイも冷や冷やしてるんだぞっ!」
「えっと……。ベリアル? いつのまに?」
アンドレイ=ラプソティたちが陣取るテーブルの席に乱入してきたのは、『怠惰』の権現様であるベリアルであった。彼はアンドレイ=ラプソティたちが注文した料理だというのに、構うことなく、それらに箸をつけていく。それだけでは無く、追加でアルコール類を注文し始めたのだ。
「くはぁ! やっぱり昼間から飲む麦酒は最高だなっ! アリス嬢ちゃんも思わず喉を鳴らしているのがたまらねぇっ!」
「こいつ、悪魔なのデス! アンドレイ様が見ているから、アルコール類を飲むのを我慢しているのに、これ見よがしにゴクゴクと麦酒を飲んでいるのデス!」
「ソーセージとくれば麦酒だろっ! 茶をすするほうが間違ってんだよっ!」
酒は長寿の薬と呼ばれるように、天使と言えども戒律的に一切飲んではいけないというルールは無い。しかし、飲む時間帯や飲む場所というマナーは存在する。救世主誕生で昼間から宴会場になっているこの食堂で、天使ともあろうものがニンゲンたちと一緒に酔いしれるのはどうなのだろうか? という天使としてのマナーから、アリス=アンジェラはソーセージのお供に麦酒を飲むことをためらっていたのである。
アンドレイ=ラプソティは悔しがるアリス=アンジェラを見て、はぁぁぁ……と深いため息をつかざるをえなくなる。そして、忙しそうにあちこちのテーブルで注文を取っている女性店員を呼び寄せて、冷えた生チュウを3つ注文するのであった。
「創造主:Y.O.N.N様なら、多少のお目こぼしをしてくれます。アリス殿に我慢させる方が見ていて忍びなくなりました」
「チュッチュッチュ。さすがは紳士のアンドレイ様なのでッチュウ。でも、アリスちゃんは1杯だけに留めるでッチュウよ?」
「うっ! 大事に大事に飲ませていただき……マス!」
ベリアルは終始、ニヤニヤとしぱなしであった。女性店員が両手で運んできた3つの木製のジョッキになみなみと注がれた冷えた麦酒をゴクリと喉を鳴らしているアリス=アンジェラを見ているだけで、背中にゾワゾワとした快感が昇ってきてしょうがない。
アリス=アンジェラは眼をキラキラさせながら、泡が吹きこぼれそうな麦酒ジョッキを見つめている。そして、アンドレイ=ラプソティがどうぞと言うや否や、アリス=アンジェラは太すぎるソーセージの中ほどを歯で食いちぎり、さらにはそれを麦酒で流し込む。
「ぷはぁ! 最高なのデス! 一気飲みは創造主:Y.O.N.N様に強く止められていますけど、こればかりは手が止まらないのデス!」
アリス=アンジェラは太すぎるソーセージ1本を消費するのに、生チュウ1杯を空にしてしまったのだ。そうなることはこのテーブルの誰しもが予想通りと言えば予想通りであった。そして、アリス=アンジェラは捨てられた子犬のようなウルウルとした眼でアンドレイ=ラプソティに訴えかけてくる……。
「アリス殿に言っておきますけど、救世主は所詮、ニンゲンです。救世主は救世主であり、それ以上でもそれ以下でもありません」
「そうなんデス? でも、創造主:Y.O.N.N様がお選びになるほどの御方なのデスヨ? 地上界のアイドル的存在なのデハ?」
「真の救世主であれば、天使すらも『魅了』してしまうほどの人物であることは間違いありません。そのアイドル性はとんでもなく恐ろしいモノを持っています」
アンドレイ=ラプソティは『第3次天魔大戦』において、天界軍の1将校として従軍していた経歴持ちである。そして、地上界のニンゲンたちをまとめあげていたのは救世主であった。それゆえにその当時の救世主とは知己の仲であった、アンドレイ=ラプソティは。しかし、やはり救世主はニンゲンということもあり、いくら創造主:Y.O.N.Nに選ばれた人物だとしても、ニンゲンの感情でモノを発言していた。
それこそ、アンドレイ=ラプソティの心を鷲掴みにして、グワングワンと揺らすほどの『魅力』を持っていた人物であった。だが、あの『第3次天魔大戦』を終えた後に、彼が取った数々の行動を振り返ってみれば、守護天使を務めたレオン=アレクサンダーの方が優れた人物であったとしか言いようがない。
その当時の救世主は軍才など、欠片も持ち合わせていなかった。ただただ、ひとびとを『魅了』する才には長けていた。それがどれほどのニンゲンたちを死地へと追いやったかと言えば、レオン=アレクサンダーがやったことのほうが1億倍マシだといわざるをえないほどである。そして、天界に残されている救世主に関する文献を読み漁ったことで、アンドレイ=ラプソティは救世主に共通する才能を発見し、さらに確信に至る。
アンドレイ=ラプソティが救世主に見出した才とはすなわち『ひとたらし』なのである。鐘が響き渡るような声で、人々の鼓膜と心臓を打ち鳴らし、脳の回線と回路を焼く。これで救世主は地上界のひとびとを悪魔専用の殺戮兵器へと変えるのだ。救世主を通じて、創造主:Y.O.N.N様を神聖視し、救世主の言葉で、死を恐れぬ兵士へと変える。
救世主の存在は天界にとっては、非常にありがたい存在になるが、それでも無辜の民たちが悪魔との戦いでいたずらに命を落としてほしいとは思わない天界の住人たちであった。そういう想いがあるにも関わらず、救世主たちは女子供たちすらも兵士へと変貌させたのである。その事実を知っているし、体験もしているアンドレイ=ラプソティはむやみやたらに救世主を歓迎する態度を取れないのであった。
「今のうちに言っておきます。その救世主が本物であろうが、偽物であろうが、アリス殿は『魅了耐性』をフルに上げておいてください」
アンドレイ=ラプソティはテーブルに運ばれてきた料理にフォークをぶっ刺しながら、アリス=アンジェラにそう忠告する。まるで父親が悪い男に引っかからないようにと注意するようでもあった。そして、それに便乗するようにとある人物がテーブルの開いた席にドカリと座り、この人物もまたアリス=アンジェラに忠告をし始める。
「そうだぞ。アンドレイもたまには良いことを言う。救世主は『色欲』のアスモウデスも裸足で逃げ出すレベルの『ひとたらし』だからなっ! 我輩もアンドレイも冷や冷やしてるんだぞっ!」
「えっと……。ベリアル? いつのまに?」
アンドレイ=ラプソティたちが陣取るテーブルの席に乱入してきたのは、『怠惰』の権現様であるベリアルであった。彼はアンドレイ=ラプソティたちが注文した料理だというのに、構うことなく、それらに箸をつけていく。それだけでは無く、追加でアルコール類を注文し始めたのだ。
「くはぁ! やっぱり昼間から飲む麦酒は最高だなっ! アリス嬢ちゃんも思わず喉を鳴らしているのがたまらねぇっ!」
「こいつ、悪魔なのデス! アンドレイ様が見ているから、アルコール類を飲むのを我慢しているのに、これ見よがしにゴクゴクと麦酒を飲んでいるのデス!」
「ソーセージとくれば麦酒だろっ! 茶をすするほうが間違ってんだよっ!」
酒は長寿の薬と呼ばれるように、天使と言えども戒律的に一切飲んではいけないというルールは無い。しかし、飲む時間帯や飲む場所というマナーは存在する。救世主誕生で昼間から宴会場になっているこの食堂で、天使ともあろうものがニンゲンたちと一緒に酔いしれるのはどうなのだろうか? という天使としてのマナーから、アリス=アンジェラはソーセージのお供に麦酒を飲むことをためらっていたのである。
アンドレイ=ラプソティは悔しがるアリス=アンジェラを見て、はぁぁぁ……と深いため息をつかざるをえなくなる。そして、忙しそうにあちこちのテーブルで注文を取っている女性店員を呼び寄せて、冷えた生チュウを3つ注文するのであった。
「創造主:Y.O.N.N様なら、多少のお目こぼしをしてくれます。アリス殿に我慢させる方が見ていて忍びなくなりました」
「チュッチュッチュ。さすがは紳士のアンドレイ様なのでッチュウ。でも、アリスちゃんは1杯だけに留めるでッチュウよ?」
「うっ! 大事に大事に飲ませていただき……マス!」
ベリアルは終始、ニヤニヤとしぱなしであった。女性店員が両手で運んできた3つの木製のジョッキになみなみと注がれた冷えた麦酒をゴクリと喉を鳴らしているアリス=アンジェラを見ているだけで、背中にゾワゾワとした快感が昇ってきてしょうがない。
アリス=アンジェラは眼をキラキラさせながら、泡が吹きこぼれそうな麦酒ジョッキを見つめている。そして、アンドレイ=ラプソティがどうぞと言うや否や、アリス=アンジェラは太すぎるソーセージの中ほどを歯で食いちぎり、さらにはそれを麦酒で流し込む。
「ぷはぁ! 最高なのデス! 一気飲みは創造主:Y.O.N.N様に強く止められていますけど、こればかりは手が止まらないのデス!」
アリス=アンジェラは太すぎるソーセージ1本を消費するのに、生チュウ1杯を空にしてしまったのだ。そうなることはこのテーブルの誰しもが予想通りと言えば予想通りであった。そして、アリス=アンジェラは捨てられた子犬のようなウルウルとした眼でアンドレイ=ラプソティに訴えかけてくる……。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました
大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――
ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~
桂
ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。
そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。
そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる