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第13章:ミュンヘルンの街
第2話:遷都
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アルピオーネ山脈を越えたアンドレイ=ラプソティ一行が目指した先は、神聖マケドナルド帝国の首都であった。しかし、アルピオーネ山脈を越えたと言っても、その首都はこの地点から約200キュロミャートル北にある。
神聖ローマニアン帝国の首都はウィープラハンという都市にあった。しかしながら、レオン=アレクサンダーが神聖ローマニアン帝国を滅ぼし、神聖マケドナルド帝国を建国した際に、他の都市へと遷都しようとしていた。だが、それをストップさせたのは、他でもないアンドレイ=ラプソティである。
当然、レオン=アレクサンダーは激怒した。しかし、アンドレイ=ラプソティの次に続く言葉で、レオン=アレクサンダーはおおいにアンドレイ=ラプソティの先見の明に拍手を送ったのであった。
「なるほどな……。俺の野望がこんな古ぼけた神聖ローマニアン帝国で収まるわけがないと。さすがは俺のレイだ」
「はい。レオンはエイコー大陸の東海岸まで行きたいのでしょう? ならば、遷都で金を浪費してはなりません。西のフランクリン帝国を滅ぼし、後顧の憂いを失くす。さらに東征するのであれば、神聖ローマニアン帝国の首都はそのまま残しておくべきです」
「さっきは怒鳴ってすまなかった。よし、ならば遷都の話は俺がフランクリン帝国を滅ぼした後だっ!」
結局のところ、フランクリン帝国を滅ぼし、さらには東へ東へ、レオン=アレクサンダー帝が軍を進めても、アンドレイ=ラプソティは遷都の話をそれとなく握りつぶしていた。帝国や王国をひとつ潰すごとに、レオン=アレクサンダーは立地的に良い場所がここだと言っていた。
しかしながら、神聖ローマニアン帝国の首都であるウィープラハンは、歴史ある古めかしい都市なことは事実である。ほぼ無傷で手にいれた首都として素晴らしい機能が整っているウィープラハンから他の都市へと遷都し、このウィープラハンよりも機能美だけでなく、歴史的に価値ある首都を創るのは国庫の観点から見ても、非常に厳しいものであった。
通常、帝国や王国を滅ぼしたならば、数年はその国々の人心を改め、政治を一新するといった地盤固めが必要であった。しかし、レオン=アレクサンダー帝の野望はそこで留まるどころか、日に日に膨れ上がったのだ。そして、レオン=アレクサンダー帝に付き従う兵士たちも、立身出世のために、レオン=アレクサンダー帝に戦争を起こしてほしくて仕方がなかった。
征服する国が増えるということは、その国を治めるための人員が必要となってくる。文官、武官が増えるということは、その地位に収まることが出来る人数も増えるということだ。庶民が兵士となり、武官として採用されれば、立身出世は成ったも同然である。そして、庶民が武官に成れるということは、同じ庶民上がりの下級兵も、そうなれるという『夢』が持てる。
レオン=アレクサンダー帝の出現により、『夢』はニンゲンたちにとって、『夢見る』ためのものではなくなったのだ。努力さえすれば、夢は『現実』となるのだ。神聖マケドナルド帝国の領地が増えれば増えるほど、その『夢の現実化』を享受できるニンゲンが増えるのである。
これほど、庶民にとって、ありがたい存在は居なかったと言えよう。身体ひとつで士爵になれる時代の到来である。生まれながらの貴族とは言えない士爵ではあるが、土地と従者を与えられるのだ。一国一城の主とまではいかないが、庶民の出としては、立派すぎる出世である。
そういう意味でも、庶民たちは熱狂的なレオン=アレクサンダー帝の信奉者であった。滅ぼされた国の国民であったとしても、レオン=アレクサンダー帝は、その国民を奴隷扱いしなかったのが大きい。マケドナルド王国時代からの兵士たちはさすがに優遇したが、レオン=アレクサンダー帝は、その他の国の兵士たちを平等に扱ったのである。
どこの国の兵士たちも、懲役された者たちがほとんどであり、無給で軍に従属させられた時代である。それを嫌った集団は『傭兵』という職業を創るに至る。退役した将官が直々に傭兵集団を組織することで、傭兵たちはそれぞれの国の徴兵された兵士たちよりも、遥かに質の良い戦闘集団であった。
そして、神聖ローマニアン帝国もマケドナルド王国の侵攻に対して、傭兵集団を雇い入れた。しかし、神聖ローマニアン帝国の間違いがここにある。マケドナルド王国のレオン=アレクサンダー国王は国民たちに『夢』を与えた。神聖ローマニアン帝国は傭兵集団に『金』だけを与えたのである。
アンドレイ=ラプソティが愛しのレオンを護るために組織した『七忍の御使い』において、アンドレイ=ラプソティが反面教師として見習ったのは、まさに神聖ローマニアン帝国なのである。金で雇われた連中は、所詮、金でどちらにも転ぶのだ。そんな連中に、国の一大事を任せたことで、神聖ローマニアン帝国は滅びてしまったのだ。
金は生きている限り、稼ぐことが出来る。だが、命を落とせば、そこまでなのだ。だからこそ、神聖ローマニアン帝国は滅ぶべきして滅んだのである。そして、神聖マケドナルド帝国が興隆していく中で、破綻しなかったのは、ヒトは『夢に生きる』部分があるからだ。
夢を叶えるためなら、ヒトは命を惜しまない時がある。そして、その夢が実現可能であればあるほど、その夢に乗っかるのだ。皆はレオン=アレクサンダーの野望に酔いしれると同時に、自分の夢も叶えたくてしかたなかったのだ。
話がおおいに脱線したので戻そう。レオン=アレクサンダーは遷都したくて仕方が無かったが、かさむ戦費の都合上、ついにアンドレイ=ラプソティは首級を縦には降らなかった。その代わり、神聖ローマニアン帝国から神聖マケドナルド帝国と国名を変えたように、首都名も変えたのであった。
「さてと……。ここからさらに200キュロミャートル北上すれば、目的地である『ヴァルハラント』に着くのか。って、誰だよ、こんな首都名にしたのはよっ!」
ベリアルは文句を言いつつ、ニヤニヤとした顔つきで、アンドレイ=ラプソティの左肩に寄りかかる。アンドレイ=ラプソティはゴホン……と気恥ずかしさをごまかす咳払いをする。
「天界の楽園をもじってみたんですよっ! 遷都は新しい主が君臨したと帝国民に示せますが、金も時間もかかります。しかしながら、改名は無料なんです」
アンドレイ=ラプソティはもたれかかってきたベリアルを押しのけつつ、自分のやったことは意味のあることだと主張してみせる。ベリアルは木製のジョッキに口をつけながら、ニヤニヤしぱなしであった。
「国だけじゃなくて、首都まで改名してしまうと、元神聖ローマニアン帝国の方々は困惑したのではありまセンカ?」
神聖ローマニアン帝国の首都はウィープラハンという都市にあった。しかしながら、レオン=アレクサンダーが神聖ローマニアン帝国を滅ぼし、神聖マケドナルド帝国を建国した際に、他の都市へと遷都しようとしていた。だが、それをストップさせたのは、他でもないアンドレイ=ラプソティである。
当然、レオン=アレクサンダーは激怒した。しかし、アンドレイ=ラプソティの次に続く言葉で、レオン=アレクサンダーはおおいにアンドレイ=ラプソティの先見の明に拍手を送ったのであった。
「なるほどな……。俺の野望がこんな古ぼけた神聖ローマニアン帝国で収まるわけがないと。さすがは俺のレイだ」
「はい。レオンはエイコー大陸の東海岸まで行きたいのでしょう? ならば、遷都で金を浪費してはなりません。西のフランクリン帝国を滅ぼし、後顧の憂いを失くす。さらに東征するのであれば、神聖ローマニアン帝国の首都はそのまま残しておくべきです」
「さっきは怒鳴ってすまなかった。よし、ならば遷都の話は俺がフランクリン帝国を滅ぼした後だっ!」
結局のところ、フランクリン帝国を滅ぼし、さらには東へ東へ、レオン=アレクサンダー帝が軍を進めても、アンドレイ=ラプソティは遷都の話をそれとなく握りつぶしていた。帝国や王国をひとつ潰すごとに、レオン=アレクサンダーは立地的に良い場所がここだと言っていた。
しかしながら、神聖ローマニアン帝国の首都であるウィープラハンは、歴史ある古めかしい都市なことは事実である。ほぼ無傷で手にいれた首都として素晴らしい機能が整っているウィープラハンから他の都市へと遷都し、このウィープラハンよりも機能美だけでなく、歴史的に価値ある首都を創るのは国庫の観点から見ても、非常に厳しいものであった。
通常、帝国や王国を滅ぼしたならば、数年はその国々の人心を改め、政治を一新するといった地盤固めが必要であった。しかし、レオン=アレクサンダー帝の野望はそこで留まるどころか、日に日に膨れ上がったのだ。そして、レオン=アレクサンダー帝に付き従う兵士たちも、立身出世のために、レオン=アレクサンダー帝に戦争を起こしてほしくて仕方がなかった。
征服する国が増えるということは、その国を治めるための人員が必要となってくる。文官、武官が増えるということは、その地位に収まることが出来る人数も増えるということだ。庶民が兵士となり、武官として採用されれば、立身出世は成ったも同然である。そして、庶民が武官に成れるということは、同じ庶民上がりの下級兵も、そうなれるという『夢』が持てる。
レオン=アレクサンダー帝の出現により、『夢』はニンゲンたちにとって、『夢見る』ためのものではなくなったのだ。努力さえすれば、夢は『現実』となるのだ。神聖マケドナルド帝国の領地が増えれば増えるほど、その『夢の現実化』を享受できるニンゲンが増えるのである。
これほど、庶民にとって、ありがたい存在は居なかったと言えよう。身体ひとつで士爵になれる時代の到来である。生まれながらの貴族とは言えない士爵ではあるが、土地と従者を与えられるのだ。一国一城の主とまではいかないが、庶民の出としては、立派すぎる出世である。
そういう意味でも、庶民たちは熱狂的なレオン=アレクサンダー帝の信奉者であった。滅ぼされた国の国民であったとしても、レオン=アレクサンダー帝は、その国民を奴隷扱いしなかったのが大きい。マケドナルド王国時代からの兵士たちはさすがに優遇したが、レオン=アレクサンダー帝は、その他の国の兵士たちを平等に扱ったのである。
どこの国の兵士たちも、懲役された者たちがほとんどであり、無給で軍に従属させられた時代である。それを嫌った集団は『傭兵』という職業を創るに至る。退役した将官が直々に傭兵集団を組織することで、傭兵たちはそれぞれの国の徴兵された兵士たちよりも、遥かに質の良い戦闘集団であった。
そして、神聖ローマニアン帝国もマケドナルド王国の侵攻に対して、傭兵集団を雇い入れた。しかし、神聖ローマニアン帝国の間違いがここにある。マケドナルド王国のレオン=アレクサンダー国王は国民たちに『夢』を与えた。神聖ローマニアン帝国は傭兵集団に『金』だけを与えたのである。
アンドレイ=ラプソティが愛しのレオンを護るために組織した『七忍の御使い』において、アンドレイ=ラプソティが反面教師として見習ったのは、まさに神聖ローマニアン帝国なのである。金で雇われた連中は、所詮、金でどちらにも転ぶのだ。そんな連中に、国の一大事を任せたことで、神聖ローマニアン帝国は滅びてしまったのだ。
金は生きている限り、稼ぐことが出来る。だが、命を落とせば、そこまでなのだ。だからこそ、神聖ローマニアン帝国は滅ぶべきして滅んだのである。そして、神聖マケドナルド帝国が興隆していく中で、破綻しなかったのは、ヒトは『夢に生きる』部分があるからだ。
夢を叶えるためなら、ヒトは命を惜しまない時がある。そして、その夢が実現可能であればあるほど、その夢に乗っかるのだ。皆はレオン=アレクサンダーの野望に酔いしれると同時に、自分の夢も叶えたくてしかたなかったのだ。
話がおおいに脱線したので戻そう。レオン=アレクサンダーは遷都したくて仕方が無かったが、かさむ戦費の都合上、ついにアンドレイ=ラプソティは首級を縦には降らなかった。その代わり、神聖ローマニアン帝国から神聖マケドナルド帝国と国名を変えたように、首都名も変えたのであった。
「さてと……。ここからさらに200キュロミャートル北上すれば、目的地である『ヴァルハラント』に着くのか。って、誰だよ、こんな首都名にしたのはよっ!」
ベリアルは文句を言いつつ、ニヤニヤとした顔つきで、アンドレイ=ラプソティの左肩に寄りかかる。アンドレイ=ラプソティはゴホン……と気恥ずかしさをごまかす咳払いをする。
「天界の楽園をもじってみたんですよっ! 遷都は新しい主が君臨したと帝国民に示せますが、金も時間もかかります。しかしながら、改名は無料なんです」
アンドレイ=ラプソティはもたれかかってきたベリアルを押しのけつつ、自分のやったことは意味のあることだと主張してみせる。ベリアルは木製のジョッキに口をつけながら、ニヤニヤしぱなしであった。
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