笑顔が苦手な元公爵令嬢ですが、路地裏のパン屋さんで人生やり直し中です。~「悪役」なんて、もう言わせない!~

虹湖🌈

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第24話 お祭り騒ぎの博覧会準備!パンと情熱と変な看板

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「私、決めました! このアトリエ・フィオナで、王都大博覧会に出店いたします!」
 フィオナの力強い宣言に、店の小さなテーブルを囲んでいた三人の仲間たちは、一瞬きょとんとし、次の瞬間、それぞれのやり方で爆発的な反応を示した。
「やったー!お祭りだー!大博覧会!フィオナ様のパンが王都一になるんですね!」
 エリィは両手を挙げて飛び跳ねんばかりの喜びようだ。彼女の頭の中では、既にフィオナのパンが大行列を作り、人々がその美味しさに泣き崩れる(?)光景が繰り広げられているに違いない。
「よし、フィオナ!よくぞ言った! 俺が、道行く全ての人の度肝を抜くような、世界一イカした看板を作ってやるぜ! 任せとけ!」
 ルーカスは拳を突き上げ、早速看板のデザイン(おそらく彼の美的センスが爆発した、かなり前衛的なもの)を考え始めている。
「…王都大博覧会。なるほど、確かに『アトリエ・フィオナ』のブランド価値を飛躍的に高める絶好の機会ですな。まずは出店規約の確認と、ブースの抽選申し込みが急務です。過去の博覧会のデータから、人気ブースの傾向と対策を分析し、最適な戦略を…」
 マルセルは、いつもの冷静な口調で、しかしその目は確かな興奮に輝き、既に数冊の手帳を取り出して何かを猛烈な勢いで書き込み始めている。その姿は、もはや敏腕軍師だ。

 かくして、アトリエ・フィオナの「王都大博覧会・必勝プロジェクト(仮称)」が、怒涛の勢いで始動した。
 マルセルの超人的な手際の良さ(と、おそらく彼が持つ王都の裏情報ネットワーク)により、出店申し込みはあっさりと完了。しかも、なぜか会場の中でも比較的条件の良いブースを引き当てるという幸運までついてきた。
 しかし、問題はそこからだった。ブースのデザインはどうするか? 販売するパンの種類と数は? 限られた人員(主にフィオナとエリィ)でどうやって対応するのか? そして何よりも、「アトリエ・フィオナ」の個性を、この大舞台でどうやって輝かせるのか?

「コンセプトは、『路地裏からの挑戦!心温まる奇跡のパン』だ!どうだ、フィオナ、泣けるだろ!?」
 ルーカスが胸を張って提案する。
「ええと、それも素敵ですけど、もっと可愛く、『ふわふわパンと笑顔の魔法!キラキラ☆ベーカリー・フィオナ』っていうのはどうですか?」
 エリィが、頬を赤らめながら反論する。
 フィオナは、二人の熱意に苦笑しつつ、あの謎の老紳士から託された古びたレシピ帳を広げた。その中の一ページに、彼女の目は釘付けになる。
「……この、『月の雫のカンパーニュ』というパン……何か、特別なものを感じるの。このパンを、私たちの『顔』にできないかしら」
 そして再び始まった、フィオナの新作パン試作の日々。工房には、またしても紫色の煙が立ち込めたり(ルーカス曰く「新作・魔界の香りパンか?」)、虹色の物体X(エリィ曰く「ユニコーンの落とし物パンです!」)が出現したりと、悲鳴と爆笑が絶えない毎日だった。

 そんなフィオナの様子を、レオン親方も気にかけていないわけではなかった。
 ある日、試作品(比較的まともな形状を保っているもの)を手に相談に訪れたフィオナに、レオンはいつものように仏頂面で言った。
「…ふん、博覧会だと? どうせお祭り騒ぎにうつつを抜かして、ろくなパンも焼けねえんだろうが。まあ、せいぜい王都中の笑いものになって、俺の顔に泥を塗るようなことだけはするんじゃねえぞ」
 しかし、その言葉とは裏腹に、彼はフィオナの試作品をじっくりと味わい、「…このカンパーニュ、悪くはねえ。だがな、もっと発酵の見極めに神経を使え。それから、博覧会みてえな場所じゃあ、客の目を引く『何か』も必要だ。昔、俺が出た時はな…」と、いつになく饒舌に、自身の(主に苦労した)大博覧会での経験談を語り始めるのだった。その横で、マリーさんはニコニコしながら、「親方も、フィオナちゃんのことが心配でたまらないのよ。口は悪くても、応援してるんだから」と、そっとフィオナに耳打ちする。

 マルセルの進捗管理能力は、この大プロジェクトにおいて遺憾無く発揮された。
 大博覧会までの詳細なスケジュール表(なぜか秒単位で区切られている)、必要な資材のリストと調達ルート(王都中の問屋の価格比較表付き)、ブースの設計図(三面図と完成予想パース、さらには風水に基づいた最適な配置まで考慮済み)、当日の人員配置シミュレーション(休憩時間、水分補給のタイミング、さらには万が一の食中毒発生時の対応マニュアルまで完備)。その完璧すぎる仕事ぶりに、フィオナ、ルーカス、エリィの三人は、もはや「マルセル様」と崇め奉り、彼の指示には絶対服従を誓うしかなかった。

 もちろん、ライバルたちの影もちらついていた。
「なあ、フィオナ、聞いたか? あの王都一の老舗ベーカリー『金獅子のパン』も、今年は新作を引っ提げて出店するらしいぜ」
「地方からは、彗星の如く現れた天才パン職人、ジャン・ピエール・デュポン(自称)も参加するとか…」
 ルーカスが仕入れてくる情報に、フィオナは武者震いを覚えながらも、自分のパンへの想いを新たにする。

 そして、試行錯誤と、笑いと、ちょっぴりの涙(主にフィオナの失敗作を食べさせられたルーカスの)の末、フィオナはついに大博覧会で出すパンのラインナップを決定した。
 それは、老人から受け継いだ魂のパン「月の雫のカンパーニュ」をメインに、アトリエ・フィオナの人気商品である「太陽の恵みブレッド」「希望のプチ・コローヌ」、そして博覧会限定の新作として、エリィのアイデアも取り入れた見た目も華やかな「七色の果実のデニッシュタワー」。まさに、アトリエ・フィオナの全てを注ぎ込んだ渾身の布陣だった。
 ルーカスが(マルセルの監修のもと)作り上げたブースも、手作り感がありながらも温かく、道行く人の目を引くような、素朴で可愛らしいデザインに仕上がった。看板は…結局、ルーカスの「世界一イカした看板」は丁重に却下され、フィオナが描いたパンの絵と、エリィが書いた優しい文字の看板が採用された。

 大博覧会の前日。
 全ての準備を終えたフィオナ、エリィ、ルーカス、そしてマルセルは、完成したばかりの自分たちのブースの前に立っていた。ランタンの柔らかな光に照らされたパンたちが、まるで明日を待ちきれないかのようにキラキラと輝いて見える。
 緊張と期待、そしてほんの少しの不安。しかし、彼らの表情は、これまでの努力を称え合うような達成感と、明日への確かな決意で満ちていた。
「よし、やりましょう!」
 フィオナが、仲間たちの顔を見回して言った。
「私たちのパンで、王都中を、ううん、この国中を笑顔にするのよ!」
 その言葉に、エリィは力強く頷き、ルーカスはニヤリと笑い、マルセルは静かに、しかし確かな自信を込めて微笑んだ。
 アトリエ・フィオナの、最も華やかで、最も困難な挑戦が、いよいよ始まろうとしていた。
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