「平民とでも結婚すれば?」と捨てられた令嬢、隣国の王太子に溺愛されてますが?

ゆっこ

文字の大きさ
6 / 6

6

しおりを挟む
 ヴァルディア王宮の大広間は、夜の祝宴に向けて豪華に飾り付けられていた。

 金糸の刺繍が施された赤い絨毯。天井からは無数のクリスタルシャンデリアが輝きを放ち、貴族たちは思い思いの衣装で会場を彩る。

 この夜は、王太子レオンハルトと、セレナ・エヴァレット嬢の“婚約発表”という重要な式典だった。

 それは同時に、かつて「平民とでも結婚すれば?」と見下され、婚約を破棄されたひとりの令嬢が、正真正銘の“王太子妃候補”として戴冠される瞬間でもあった。



 楽団の演奏が始まり、レオンハルトが姿を現す。

 その隣に立ったセレナの姿に、会場からどよめきが起こった。

 月光を思わせる淡い銀のドレス。繊細な刺繍と、背中まで流れる黒髪。控えめでありながら、凛としたその美しさに、誰もが息を呑んだ。

「なんて……威厳と気品……」

「あれが、本当にあの“捨てられた”令嬢か?」

「いや、もう彼女は“選ばれた”存在だ……!」

 そんなささやきを聞きながら、セレナは静かに前へ歩く。

 隣には、彼――レオンハルト。

 迷いも恐れも、もうなかった。

「皆にご紹介したい。僕の婚約者、セレナ・エヴァレット嬢だ」

 王太子のその宣言に、会場が拍手に包まれる。

 セレナは丁寧にお辞儀をしてから、レオンハルトを見上げた。

 ――ああ、本当に、ここまで来たのだと実感する。

 涙が浮かびそうになるのを、ぐっとこらえた。



 そのとき――

「セレナ!」

 声が響いた。

 異国の言葉ではなく、かつて聞き慣れた、アルヴェインの王国語。

 驚いたように人々が振り返ると、そこにいたのは――

 リカルド王子と、アリシア・ローレンスだった。

「……!」

 思わず立ち尽くすセレナ。

 レオンハルトは静かに彼女の手を握り直した。

「動揺しなくていい。君の隣に、僕がいる」

「……はい」

 二人はゆっくりと視線を前に向けた。



「セレナ、俺は――」

 必死な表情で叫ぶリカルド。

「お前がこんなに誇り高く美しくなるなんて……俺は、間違っていた! アリシアではなかった。やっぱり俺にはお前が……!」

「お黙りなさい」

 その言葉を、セレナは一刀両断した。

「私を蔑み、見下し、捨てたのはあなたです。私に『平民とでも結婚すれば』と吐き捨てたのも、あなたです」

 ざわめきが広がる。

 セレナはゆっくりと階段を下り、リカルドと対峙した。

「後悔するのは勝手ですが、それを私にぶつけないでください。私は、もう過去には戻りません」

 きっぱりと言い放ったセレナに、リカルドは茫然と立ち尽くす。

「……そんな……」

「それに――私にはもう、隣に立ってくれる人がいるのです」

 そう言って、セレナは振り返る。

 そこには、穏やかに手を差し出すレオンハルトがいた。

 彼の手を取る。それだけで、全身に勇気が満ちる。



 一方、アリシアの顔は、怒りと嫉妬で歪んでいた。

「どうして、あなたが幸せになるのよ……! あたしの方が、ずっと……!」

 しかし彼女に向けられた視線は冷ややかだった。

「あなたがセレナ様から奪ったものは、彼女の不幸ではありません。捨てられたことで、彼女は“自由”を手に入れ、そして――本当の愛を得たのです」

 そう口にしたのは、ヴァルディア王妃だった。

「あなたが奪ったのは、ただの見せかけ。セレナ嬢が得たのは、本物の誇りと幸福です」

 アリシアは、何も言い返せなかった。

 ついに、立ち尽くしたまま涙を流し、そのままリカルドと共に会場を去っていった。

 ――敗者の顔で。



 夜の祝宴が再び静かに始まる。

 セレナは、レオンハルトの腕に寄り添いながら、小さく囁いた。

「……終わりましたね」

「ああ。でも、始まりでもある。僕と君の人生の」

 彼はそう言って、セレナの額にそっと口づけを落とした。

 ふわりと温かい光が、心に灯る。

「私は……殿下と出会って、自分の価値を取り戻せました。もう、あの頃の私じゃない。これからは、未来を信じられます」

「それなら、もう“殿下”とは呼ばないでくれるかな?」

「……え?」

「僕のことは、レオンって呼んで。僕だけの、特別な呼び方で」

 戸惑いながらも、セレナはそっと口にした。

「……レオン様」

「うん、それがいい」

 彼は嬉しそうに微笑む。

 そして、踊りの誘いのように手を差し出した。

「僕と一緒に、これからの人生を踊っていかないか?」

「……はい」

 そっと手を取る。

 それは、未来を誓う契りのようなものだった。

 音楽がふたりを包み込む。

 誰にも邪魔されない舞踏。誰にも汚せない絆。

 “平民とでも結婚すれば?”――その言葉は、もう記憶の片隅にも残っていなかった。

 彼女の人生は、誰かの“選ばれなかった物語”ではない。

 これは、セレナ・エヴァレットが自ら選び取った、新たな物語の幕開け――

 

 ――そして、彼とともに歩む幸せな未来の、始まりだった。

 
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

ブスすぎて嫁の貰い手がないから閨勤侍女になれと言われたので縁を切ります、完全に!完全縁切りの先にあったのは孤独ではなくて…

ハートリオ
恋愛
ルフスは結婚が決まった従姉の閨勤侍女になるよう父親に命令されたのをきっかけに父に無視され冷遇されて来た日々を終わらせようとブラコン父と完全に縁を切る決意する。 一方、従姉の結婚相手はアルゲンテウス辺境伯とのことだが、実は手違いがあって辺境伯が結婚したいのはルフス。 そんなこんなの異世界ファンタジーラブです。 読んでいただけると嬉しいです。

出来損ない令嬢は、双子の娘を持つ公爵様と契約結婚する~いつの間にか公爵様と7歳のかわいい双子たちに、めいっぱい溺愛されていました~

夏芽空
恋愛
子爵令嬢のエレナは、常に優秀な妹と比較され家族からひどい扱いを受けてきた。 しかし彼女は7歳の双子の娘を持つ公爵――ジオルトと契約結婚したことで、最低な家族の元を離れることができた。 しかも、条件は最高。公の場で妻を演じる以外は自由に過ごしていい上に、さらには給料までも出してくてれるという。 夢のような生活を手に入れた――と、思ったのもつかの間。 いきなり事件が発生してしまう。 結婚したその翌日に、双子の姉が令嬢教育の教育係をやめさせてしまった。 しかもジオルトは仕事で出かけていて、帰ってくるのはなんと一週間後だ。 (こうなったら、私がなんとかするしかないわ!) 腹をくくったエレナは、おもいきった行動を起こす。 それがきっかけとなり、ちょっと癖のある美少女双子義娘と、彼女たちよりもさらに癖の強いジオルトとの距離が縮まっていくのだった――。

【完結】領主の妻になりました

青波鳩子
恋愛
「私が君を愛することは無い」 司祭しかいない小さな教会で、夫になったばかりのクライブにフォスティーヌはそう告げられた。 =============================================== オルティス王の側室を母に持つ第三王子クライブと、バーネット侯爵家フォスティーヌは婚約していた。 挙式を半年後に控えたある日、王宮にて事件が勃発した。 クライブの異母兄である王太子ジェイラスが、国王陛下とクライブの実母である側室を暗殺。 新たに王の座に就いたジェイラスは、異母弟である第二王子マーヴィンを公金横領の疑いで捕縛、第三王子クライブにオールブライト辺境領を治める沙汰を下した。 マーヴィンの婚約者だったブリジットは共犯の疑いがあったが確たる証拠が見つからない。 ブリジットが王都にいてはマーヴィンの子飼いと接触、画策の恐れから、ジェイラスはクライブにオールブライト領でブリジットの隔離監視を命じる。 捜査中に大怪我を負い、生涯歩けなくなったブリジットをクライブは密かに想っていた。 長兄からの「ブリジットの隔離監視」を都合よく解釈したクライブは、オールブライト辺境伯の館のうち豪華な別邸でブリジットを囲った。 新王である長兄の命令に逆らえずフォスティーヌと結婚したクライブは、本邸にフォスティーヌを置き、自分はブリジットと別邸で暮らした。 フォスティーヌに「別邸には近づくことを許可しない」と告げて。 フォスティーヌは「お飾りの領主の妻」としてオールブライトで生きていく。 ブリジットの大きな嘘をクライブが知り、そこからクライブとフォスティーヌの関係性が変わり始める。 ======================================== *荒唐無稽の世界観の中、ふんわりと書いていますのでふんわりとお読みください *約10万字で最終話を含めて全29話です *他のサイトでも公開します *10月16日より、1日2話ずつ、7時と19時にアップします *誤字、脱字、衍字、誤用、素早く脳内変換してお読みいただけるとありがたいです

婚約破棄されたので昼まで寝ますわ~白い結婚で溺愛なんて聞いてません

鍛高譚
恋愛
「リュシエンヌ・ド・ベルナール、お前との婚約は破棄する!」 突然、王太子フィリップから婚約破棄を告げられた名門公爵家の令嬢リュシエンヌ。しかし、それは義妹マリアンヌと王太子が仕組んだ策略だった。 王太子はリュシエンヌが嘆き悲しむことを期待するが—— 「婚約破棄ですね。かしこまりました。」 あっさり受け入れるリュシエンヌ。むしろ、長年の束縛から解放され、自由な生活を満喫することに! 「これでお昼まで寝られますわ! お菓子を食べて、読書三昧の生活ができますのよ!」 しかし、そんな彼女の前に現れたのは、王太子のライバルであり冷徹な公爵・ヴァレンティン・ド・ルーアン。 「俺と婚約しないか?」 政略的な思惑を持つヴァレンティンの申し出に、リュシエンヌは「白い結婚(愛のない形式的な結婚)」ならと了承。 ところが、自由を満喫するはずだった彼女の心は、次第に彼によって揺さぶられ始め——? 一方、王太子と義妹は社交界で次々と醜態をさらし、評判は地に落ちていく。 そしてついに、王太子は廃嫡宣告——! 「ええ? わたくし、何もしていませんわよ?」 婚約破棄された令嬢が、のんびり自由を謳歌するうちに、 いつの間にか勝手にざまぁ展開が訪れる、痛快ラブストーリー! 「婚約破棄……むしろ最高でしたわ!」 果たして、彼女の悠々自適な生活の行方は——?

悪役令嬢の身代わりで追放された侍女、北の地で才能を開花させ「氷の公爵」を溶かす

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の罪は、万死に値する!」 公爵令嬢アリアンヌの罪をすべて被せられ、侍女リリアは婚約破棄の茶番劇のスケープゴートにされた。 忠誠を尽くした主人に裏切られ、誰にも信じてもらえず王都を追放される彼女に手を差し伸べたのは、彼女を最も蔑んでいたはずの「氷の公爵」クロードだった。 「君が犯人でないことは、最初から分かっていた」 冷徹な仮面の裏に隠された真実と、予想外の庇護。 彼の領地で、リリアは内に秘めた驚くべき才能を開花させていく。 一方、有能な「影」を失った王太子と悪役令嬢は、自滅の道を転がり落ちていく。 これは、地味な侍女が全てを覆し、世界一の愛を手に入れる、痛快な逆転シンデレラストーリー。

【完結】私を捨てた国のその後を見守ってみた。

satomi
恋愛
侯爵令嬢のレナは公然の場でというか、卒業パーティーで王太子殿下イズライールに婚約破棄をされた挙句、王太子殿下は男爵令嬢のラーラと婚約を宣言。 殿下は陛下や王妃様がいないときを狙ったんでしょうね。 レナの父はアルロジラ王国の宰相です。実家にはレナの兄が4名いますがみんなそろいもそろって優秀。 長男は領地経営、次男は貿易商、3男は情報屋、4男は…オカマバー経営。 レナは殿下に愛想をつかして、アルロジラ王国の行く末を見守ろうと決意するのです。 次男監修により、国交の断絶しているエミューダ帝国にて。

元公爵令嬢は年下騎士たちに「用済みのおばさん」と捨てられる 〜今更戻ってこいと泣きつかれても献身的な美少年に溺愛されているのでもう遅いです〜

日々埋没。
ファンタジー
​「新しい従者を雇うことにした。おばさんはもう用済みだ。今すぐ消えてくれ」  ​かつて婚約破棄され、実家を追放された元公爵令嬢のレアーヌ。  その身分を隠し、年下の冒険者たちの身の回りを世話する『メイド』として献身的に尽くしてきた彼女に突きつけられたのは、あまりに非情な追放宣告だった。  ​レアーヌがこれまで教育し、支えてきた若い男たちは、新しく現れた他人の物を欲しがり子悪魔メイドに骨抜きにされ、彼女を「加齢臭のする汚いおばさん」と蔑み、笑いながら追い出したのだ。 ​ 地位も、居場所も、信じていた絆も……すべてを失い、絶望する彼女の前に現れたのは、一人の美少年だった。 ​「僕とパーティーを組んでくれませんか? 貴方が必要なんです」  ​新米ながら将来の可能性を感じさせる彼は、レアーヌを「おばさん」ではなく「一人の女性」として、甘く狂おしく溺愛し始める。  一方でレアーヌという『真の支柱』を失った元パーティーは、自分たちがどれほど愚かな選択をしたかを知る由もなかった。  ​やがて彼らが地獄の淵で「戻ってきてくれ」と泣きついてきても、もう遅い。  レアーヌの隣には、彼女を離さないと誓った執着愛の化身が微笑んでいるのだから。

醜貌の聖女と呼ばれ、婚約破棄されましたが、実は本物の聖女でした

きまま
恋愛
王国の夜会で、第一王子のレオンハルトから婚約破棄を言い渡された公爵令嬢リリエル・アルヴァリア。 顔を銀の仮面で隠していることから『醜貌の聖女』と嘲られ、不要と切り捨てられた彼女は、そのまま王城を追われることになる。 しかし、その後に待ち受ける国の運命は滅亡へと向かっていた——

処理中です...