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【番外編】後に王国史上最も愛妻家な国王になる男
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※ご無沙汰しております。他サイト様にて番外編のリクエストをいただきましたので投稿します
時は遡り、ヒルデが誘拐されたと知ったエーファとフリートヘルムとマクダレーナがそれぞれ分かれてヒルデの救出を始めてから三十分ほど経った頃。
フリートヘルムは魔法兵団の中でも信頼できる魔法使いたちを揃えて城門のすぐ内側に立っていた。
城門を封鎖し、王宮から誰も出られないよう結界を張り終えたところだ。
フリートヘルムたちが急に結界を張ったため、異変に気づいた近衛騎士が集まって来た。
「さて、どうやって兄上の計画を説明すべきか」
王太子が平民を誘拐したと話したところで、俄には信じ難いだろう。
どうしたものかと考えあぐねていたフリートヘルムだが、ふと魔法の気配を感じ取って周囲を見回した。
「ヘルマンの魔法の気配がする」
そう呟いた刹那、ぶわりと魔法の気配が強くなり、目の前に人影が現れた。ヒルデだ。
「ヒルデさん!」
フリートヘルムは突然現れたヒルデを前に瞠目したが、すぐにヒルデに駆け寄って彼女の体を抱き留めた。
まるで、ヒルデがまた攫われてしまわないようにと言わんばかりに、しっかりと腕の中に閉じ込めている。
「あ、あの、フリートヘルム殿下?」
「ヒルデさんが兄上に誘拐されたと聞いて、心配でなりませんでした。怪我はありませんか? 魔法をかけられていませんか?」
フリートヘルムはゆっくりとヒルデから体を離すと、彼女の頭の先からつま先まで視線を走らせ、怪我がないか確認する。
あまりにもじっと見つめるものだから、気恥ずかしくなったヒルデの頬がじわりと赤くなった。
「私は大丈夫です。だけど、エーファさんが危ないのです。どうかエーファさんを助けてください。エーファさんは王太子殿下と取引をして、私を自由にする対価に、王太子殿下に仕えると仰ったんです。このままではエーファさんが王太子殿下に囚われてしまいます……!」
周りにいる騎士たちは、ヒルデの話を聞いてどよめく。
「エーファって、氷結の賢者殿のことか?」
「王太子殿下が民を攫うなんて……」
信じ難い事態だが、目の前に現れたヒルデの手には拘束された時についたであろう縄の痕がある。おまけに衣服には誘拐された時についたであろう汚れや傷が見える。
「エーファさんは私を転移魔法で逃がしてくださったんです。お願いです、エーファさんを助けてください」
「転移魔法を使っているという事は、痕跡を辿れば見つけられるはずだ。全員、エーファ・ヘルマンの魔力を辿って居場所を突き止めてくれ」
フリートヘルムが周囲にいる魔法使いと騎士に命令すると、彼らはヒルデに残されたエーファの魔力をもとに捜査を始めた。
暗闇に、探知魔法で目印となる光の粒子が浮かび、一本の光の道を作る。
「ヘルマンは王宮の中にいるようだ。今から全員で捜索して救出せよ!」
そう指示をするや否や、フリートヘルムはヒルデを横抱きにして歩き始めた。
ヒルデは慌てて降りようとしたが、魔法兵団で鍛え上げているフリートヘルムの腕を振りほどけるはずもなく、そのまま運ばれてしまう。
周囲にいる騎士や魔法使いたちが物珍しそうに見てくるものだからいたたまれない。
ヒルデは知らなかった。
今自分を横抱きにしているこの男が自分以外の女性に対しては不愛想で誰にも靡かない氷結の王子と呼ばれていることを。
そのため、周りの騎士や魔法使いたちから、王子を足にしている平民だと不興を買っているのではないかと不安になっているのだ。
「あ、あの、降ろしてください」
「ヒルデさんは大変な目に遭って疲れているはずです。無理してはいけないので、このまま運ばせてください」
「で、でも、私のような平民がフリートヘルム殿下に運んでいただくなんて畏れ多いです……」
「非常事態だから気にしないでくれ」
そう言われても気にするものだ。
しかしこれ以上遠慮すると、逆に不敬になってしまうような気がした。
それに、フリートヘルムの善意を拒否し続けるのは気が引ける。
しかたがなく、ヒルデは大人しくした。
とはいえ心が落ち着かなくてならない。
目の前に端正な顔があるのだ。あまりジロジロと見ないようにしているが、どうしても視界に入ってしまうので見てしまう。
ふと、フリートヘルムの横顔に既視感を覚えた。
髪の色や目の色、それに顔立ちもどこか、恋焦がれているあの少年に似ているような気がする。
もしかして、と期待する想いが、ヒルデの心臓の鼓動を早くする。
「私、五年前にフリートヘルム殿下に似た人に助けていただいたことがあるんです」
「……俺に似た人?」
フリートヘルムは歩く速度を緩めて、月を彷彿とさせる金色の目にヒルデを映す。
「はい。長い水色の髪と金色の目がとても綺麗な人でした。降星祭で迷子になっていた私に声をかけてくれたのです。その人が、私の声が綺麗で歌うたいになれそうだと言ってくれたので、私は十五歳になって歌うたいの試験を受けられる年になってから、毎年選考に出ています。彼にあの時のお礼を伝えるためと、……できれば、もう一度会うために。私はその人にずっと、恋をしているのです」
恋、とヒルデが言ったものだから、周りにいる者たちが緊急事態にもかかわらず、どこか浮ついた面持ちになる。
フリートヘルムもまた、いつもよりちょっと浮ついてしまい、柔らかな微笑みを浮かべた。
「俺も、五年前の降星祭の日にヒルデさんに似た人と会ったことがある」
*☆*:;;;:*☆**☆*:;;;:*☆**☆*:;;;:*☆*
それは、フリートヘルムが十五歳になる年の降星祭だった。
式典が終わった後に退屈を覚えたフリートヘルムはなんとなく城を抜け出して街中を歩いていると、迷子になって泣いているヒルデを路地裏で見つけた。
あまりにも悲しそうに泣いているため、見ていられなくなったフリートヘルムは思わず声をかけた。
「お、おい……どうした? 迷子か?」
ヒルデはビクリと体を震わせると、恐る恐る顔を上げてフリートヘルムを見て頷いた。
明らかに自分に怯えているようで、フリートヘルムはこのまま話しかけていいのか躊躇ったが、それでも少しずつヒルデから状況を聞き出した。
どうやら屋台に売られているものに気をとられている間に家族とはぐれてしまったらしい。
ヒルデは口数が少なく、あまり言葉を発さないため聞き出すのに苦労した。
彼女の家族の特徴とはぐれた場所の情報は得たから、探し出して届けよう。
自分は護衛が隠れてついてきているから安全だが、この平民の少女はこのまま一人にしていると人攫いに遭ってしまいそうで心配だ。
「ほら、行くぞ。もしかすると、君の家族ははぐれた場所に戻ってきているかもしれないから、そこに行こう」
フリートヘルムはヒルデの手を取り、彼女の手を引いて路地裏から連れ出す。
初めは黙ってついて来ていたヒルデだが、不意に「ごめんなさい」と零した。
「私、昔から近所に住む男の子たちから『変な声だ』って言われているから、家族以外の人と話すことが苦手で……さっきは黙りがちでごめんなさい。せっかく、私のためにたくさん聞いてくれたのに……」
ぽつりぽつりと話し始めた声は、鈴の音を転がしたようなと形容されそうなほど澄んでいる。
「変な声? どこが? むしろ綺麗な声だと思うけど……」
もしかすると、好きな女の子を虐めて気を引こうとしていたのではないのだろうか。
そうだとすれば悪意はないだろうが、それでもこの少女を傷つけているのだから許しがたい。
「綺麗な声だから、聖女になれると思うけどな。試しに試験を受けてみたらいい。こんなにも綺麗な声なら、きっと多くの人に褒められるだろう。きっと、君の声を馬鹿にした者たちよりももっと多くの人が褒めてくれるはずだ」
「私が聖女だなんて、絶対に無理です……!」
ヒルデがぶんぶんと顔を横に振る。
首が取れそうな勢いだ、とフリートヘルムは少し笑った。
「君の声は本当に綺麗だから自信を持つといい。それに、声だけで嫌な思いする人なんていない。だから君は自由に話していい」
「ありがとうございます。そう言ってもらえると、なんだか心が軽くなりました。これからは、家族以外の人とも話せる気がします」
ヒルデがふわりと笑う。
まるで花が咲くように笑った顔があまりにも可愛くて、フリートヘルムは瞬く間に恋に落ちてしまったのだ。
ヒルデと家族の再会を見届けてそっとその場を立ち去った後も、ヒルデの笑顔が頭から離れなかった。
それから二年後、もしかしてあの少女は自分の助言を聞いてくれて、歌うたいに応募しているのではないかと期待したフリートヘルムは教会にお忍びで立ち寄った。
期待通りヒルデの姿を見つけたフリートヘルムは感激した。
それから毎年、降星祭までの歌うたいたちが練習する期間に教会に訪れては、ヒルデを見守っていたのだ。
*☆*:;;;:*☆**☆*:;;;:*☆**☆*:;;;:*☆*
フリートヘルムはヒルデに当時の事を話し終えると、足を止める。
ヒルデを見つめる金色の目がじわじわと熱を帯びてゆく。
「つまり俺も、五年前の降星祭の日からずっと、ヒルデさんに恋をしている」
フリートヘルムの告白を聞いた騎士と魔法使いたちは、緊急事態であるのにもかかわらず拍手喝采して二人の両想いを祝った。
その後、フリートヘルムとヒルデの慣れ染めから両想いになるまでの話はその日のうちに瞬く間に広まり、国王の耳にまで届く。
いかにも国民たちが好みそうな話だと思った国王や宰相を始めとする国の重鎮たちは、フリートヘルムとヒルデの恋を後押しして婚約まで押し進めた。
こうして二人の結婚は、国民の王族に対する心象を上げるためにトントン拍子で進められ、降星祭の半年後に盛大な式を挙げた。
ヒルデはエーファやマクダレーナの助けを借りて一生懸命に妃教育を受けて、その後国民から愛される王妃となった。
フリートヘルムはというと、妃教育に励むヒルデを全身全霊で支え、結婚後は政務以外の時間はヒルデから片時も離れなかった。
その後、リーツェル王国史上最も愛妻家な国王として名を残したのだった。
時は遡り、ヒルデが誘拐されたと知ったエーファとフリートヘルムとマクダレーナがそれぞれ分かれてヒルデの救出を始めてから三十分ほど経った頃。
フリートヘルムは魔法兵団の中でも信頼できる魔法使いたちを揃えて城門のすぐ内側に立っていた。
城門を封鎖し、王宮から誰も出られないよう結界を張り終えたところだ。
フリートヘルムたちが急に結界を張ったため、異変に気づいた近衛騎士が集まって来た。
「さて、どうやって兄上の計画を説明すべきか」
王太子が平民を誘拐したと話したところで、俄には信じ難いだろう。
どうしたものかと考えあぐねていたフリートヘルムだが、ふと魔法の気配を感じ取って周囲を見回した。
「ヘルマンの魔法の気配がする」
そう呟いた刹那、ぶわりと魔法の気配が強くなり、目の前に人影が現れた。ヒルデだ。
「ヒルデさん!」
フリートヘルムは突然現れたヒルデを前に瞠目したが、すぐにヒルデに駆け寄って彼女の体を抱き留めた。
まるで、ヒルデがまた攫われてしまわないようにと言わんばかりに、しっかりと腕の中に閉じ込めている。
「あ、あの、フリートヘルム殿下?」
「ヒルデさんが兄上に誘拐されたと聞いて、心配でなりませんでした。怪我はありませんか? 魔法をかけられていませんか?」
フリートヘルムはゆっくりとヒルデから体を離すと、彼女の頭の先からつま先まで視線を走らせ、怪我がないか確認する。
あまりにもじっと見つめるものだから、気恥ずかしくなったヒルデの頬がじわりと赤くなった。
「私は大丈夫です。だけど、エーファさんが危ないのです。どうかエーファさんを助けてください。エーファさんは王太子殿下と取引をして、私を自由にする対価に、王太子殿下に仕えると仰ったんです。このままではエーファさんが王太子殿下に囚われてしまいます……!」
周りにいる騎士たちは、ヒルデの話を聞いてどよめく。
「エーファって、氷結の賢者殿のことか?」
「王太子殿下が民を攫うなんて……」
信じ難い事態だが、目の前に現れたヒルデの手には拘束された時についたであろう縄の痕がある。おまけに衣服には誘拐された時についたであろう汚れや傷が見える。
「エーファさんは私を転移魔法で逃がしてくださったんです。お願いです、エーファさんを助けてください」
「転移魔法を使っているという事は、痕跡を辿れば見つけられるはずだ。全員、エーファ・ヘルマンの魔力を辿って居場所を突き止めてくれ」
フリートヘルムが周囲にいる魔法使いと騎士に命令すると、彼らはヒルデに残されたエーファの魔力をもとに捜査を始めた。
暗闇に、探知魔法で目印となる光の粒子が浮かび、一本の光の道を作る。
「ヘルマンは王宮の中にいるようだ。今から全員で捜索して救出せよ!」
そう指示をするや否や、フリートヘルムはヒルデを横抱きにして歩き始めた。
ヒルデは慌てて降りようとしたが、魔法兵団で鍛え上げているフリートヘルムの腕を振りほどけるはずもなく、そのまま運ばれてしまう。
周囲にいる騎士や魔法使いたちが物珍しそうに見てくるものだからいたたまれない。
ヒルデは知らなかった。
今自分を横抱きにしているこの男が自分以外の女性に対しては不愛想で誰にも靡かない氷結の王子と呼ばれていることを。
そのため、周りの騎士や魔法使いたちから、王子を足にしている平民だと不興を買っているのではないかと不安になっているのだ。
「あ、あの、降ろしてください」
「ヒルデさんは大変な目に遭って疲れているはずです。無理してはいけないので、このまま運ばせてください」
「で、でも、私のような平民がフリートヘルム殿下に運んでいただくなんて畏れ多いです……」
「非常事態だから気にしないでくれ」
そう言われても気にするものだ。
しかしこれ以上遠慮すると、逆に不敬になってしまうような気がした。
それに、フリートヘルムの善意を拒否し続けるのは気が引ける。
しかたがなく、ヒルデは大人しくした。
とはいえ心が落ち着かなくてならない。
目の前に端正な顔があるのだ。あまりジロジロと見ないようにしているが、どうしても視界に入ってしまうので見てしまう。
ふと、フリートヘルムの横顔に既視感を覚えた。
髪の色や目の色、それに顔立ちもどこか、恋焦がれているあの少年に似ているような気がする。
もしかして、と期待する想いが、ヒルデの心臓の鼓動を早くする。
「私、五年前にフリートヘルム殿下に似た人に助けていただいたことがあるんです」
「……俺に似た人?」
フリートヘルムは歩く速度を緩めて、月を彷彿とさせる金色の目にヒルデを映す。
「はい。長い水色の髪と金色の目がとても綺麗な人でした。降星祭で迷子になっていた私に声をかけてくれたのです。その人が、私の声が綺麗で歌うたいになれそうだと言ってくれたので、私は十五歳になって歌うたいの試験を受けられる年になってから、毎年選考に出ています。彼にあの時のお礼を伝えるためと、……できれば、もう一度会うために。私はその人にずっと、恋をしているのです」
恋、とヒルデが言ったものだから、周りにいる者たちが緊急事態にもかかわらず、どこか浮ついた面持ちになる。
フリートヘルムもまた、いつもよりちょっと浮ついてしまい、柔らかな微笑みを浮かべた。
「俺も、五年前の降星祭の日にヒルデさんに似た人と会ったことがある」
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それは、フリートヘルムが十五歳になる年の降星祭だった。
式典が終わった後に退屈を覚えたフリートヘルムはなんとなく城を抜け出して街中を歩いていると、迷子になって泣いているヒルデを路地裏で見つけた。
あまりにも悲しそうに泣いているため、見ていられなくなったフリートヘルムは思わず声をかけた。
「お、おい……どうした? 迷子か?」
ヒルデはビクリと体を震わせると、恐る恐る顔を上げてフリートヘルムを見て頷いた。
明らかに自分に怯えているようで、フリートヘルムはこのまま話しかけていいのか躊躇ったが、それでも少しずつヒルデから状況を聞き出した。
どうやら屋台に売られているものに気をとられている間に家族とはぐれてしまったらしい。
ヒルデは口数が少なく、あまり言葉を発さないため聞き出すのに苦労した。
彼女の家族の特徴とはぐれた場所の情報は得たから、探し出して届けよう。
自分は護衛が隠れてついてきているから安全だが、この平民の少女はこのまま一人にしていると人攫いに遭ってしまいそうで心配だ。
「ほら、行くぞ。もしかすると、君の家族ははぐれた場所に戻ってきているかもしれないから、そこに行こう」
フリートヘルムはヒルデの手を取り、彼女の手を引いて路地裏から連れ出す。
初めは黙ってついて来ていたヒルデだが、不意に「ごめんなさい」と零した。
「私、昔から近所に住む男の子たちから『変な声だ』って言われているから、家族以外の人と話すことが苦手で……さっきは黙りがちでごめんなさい。せっかく、私のためにたくさん聞いてくれたのに……」
ぽつりぽつりと話し始めた声は、鈴の音を転がしたようなと形容されそうなほど澄んでいる。
「変な声? どこが? むしろ綺麗な声だと思うけど……」
もしかすると、好きな女の子を虐めて気を引こうとしていたのではないのだろうか。
そうだとすれば悪意はないだろうが、それでもこの少女を傷つけているのだから許しがたい。
「綺麗な声だから、聖女になれると思うけどな。試しに試験を受けてみたらいい。こんなにも綺麗な声なら、きっと多くの人に褒められるだろう。きっと、君の声を馬鹿にした者たちよりももっと多くの人が褒めてくれるはずだ」
「私が聖女だなんて、絶対に無理です……!」
ヒルデがぶんぶんと顔を横に振る。
首が取れそうな勢いだ、とフリートヘルムは少し笑った。
「君の声は本当に綺麗だから自信を持つといい。それに、声だけで嫌な思いする人なんていない。だから君は自由に話していい」
「ありがとうございます。そう言ってもらえると、なんだか心が軽くなりました。これからは、家族以外の人とも話せる気がします」
ヒルデがふわりと笑う。
まるで花が咲くように笑った顔があまりにも可愛くて、フリートヘルムは瞬く間に恋に落ちてしまったのだ。
ヒルデと家族の再会を見届けてそっとその場を立ち去った後も、ヒルデの笑顔が頭から離れなかった。
それから二年後、もしかしてあの少女は自分の助言を聞いてくれて、歌うたいに応募しているのではないかと期待したフリートヘルムは教会にお忍びで立ち寄った。
期待通りヒルデの姿を見つけたフリートヘルムは感激した。
それから毎年、降星祭までの歌うたいたちが練習する期間に教会に訪れては、ヒルデを見守っていたのだ。
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フリートヘルムはヒルデに当時の事を話し終えると、足を止める。
ヒルデを見つめる金色の目がじわじわと熱を帯びてゆく。
「つまり俺も、五年前の降星祭の日からずっと、ヒルデさんに恋をしている」
フリートヘルムの告白を聞いた騎士と魔法使いたちは、緊急事態であるのにもかかわらず拍手喝采して二人の両想いを祝った。
その後、フリートヘルムとヒルデの慣れ染めから両想いになるまでの話はその日のうちに瞬く間に広まり、国王の耳にまで届く。
いかにも国民たちが好みそうな話だと思った国王や宰相を始めとする国の重鎮たちは、フリートヘルムとヒルデの恋を後押しして婚約まで押し進めた。
こうして二人の結婚は、国民の王族に対する心象を上げるためにトントン拍子で進められ、降星祭の半年後に盛大な式を挙げた。
ヒルデはエーファやマクダレーナの助けを借りて一生懸命に妃教育を受けて、その後国民から愛される王妃となった。
フリートヘルムはというと、妃教育に励むヒルデを全身全霊で支え、結婚後は政務以外の時間はヒルデから片時も離れなかった。
その後、リーツェル王国史上最も愛妻家な国王として名を残したのだった。
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