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竜王陛下の告白
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◇◇◇
「ウェンディ、どこへ行きたいか決まったか?」
ディーンは爽やかな水色の装束を着て現れた。私の瞳の色を纏ったのだとはにかみながら教えてくれた。
今日はいよいよ竜王陛下とのデートの日だ。
目覚めてから三週間ほど、すっかり体力がなくなってしまった私は、領主邸で治療を受けながら体力をつける特訓をした。
そうして体力づくりに励んだ結果、医者から完治したと告げられ――今日を迎えた。
「城下町にしましょう。その方が陛下が観光できますよね?」
「観光……か。私に気を遣わなくていい。せっかくだから私の背に乗って、この周辺を散策しよう」
黄金の瞳の奥で黒い瞳孔がキュッと細くなる。竜王陛下が光に包まれると形が変わり――光が収まると、今となっては懐かしい黒竜の姿があった。
(本当に陛下がオブシディアンだったのね……)
実際に姿が変わるところを見るまでは、同一人物なのだと信じ難かった。
『さあ、乗るがいい』
私が乗りやすいように伏せてくれている黒竜から竜王陛下の声が聞こえてくる。本当は竜の姿でも人の言葉を話せたらしい。
「本当に、乗ってもよろしいのでしょうか?」
『あなたが乗ってくれるのであれば本望だ』
躊躇う私に焦れたのか、竜王陛下は頭を使って器用に私を背に乗せる。
『私の首にしがみついてくれ』
その言葉を残し、大空に飛び立った。突然の浮遊感慌て、夢中で竜王陛下の首にしがみつく。
『ウェンディ、もう目を開けても大丈夫だ』
優しい声に促されてそっと目を開けると、私は上空にいた。
「わあっ! 城下町が小さく見える。まるで人形の街みたい」
眼下に城下町の景色が広がっており、人々が忙しなく動いている。
鳥や竜はいつもこのような景色を見ているのかと感激した。
『町を一周するから、気になる場所があれば言ってくれ』
時計台や中央広場、住宅街や公園を上空から観察すると、見慣れた町の違った表情が見れて面白い。
いつか竜の背に乗ってみたいと思っていた景色に、胸がいっぱいになった。
「竜王陛下、見せてくださってありがとうございます。もしお疲れでしたら、どこかに下りて休みませんか?」
『疲れてはいないが……とっておきの景色を見せたい。場所を移ろう』
城下町を離れて山を一つ越えると、そこはヴァレリア王国の領土内だ。初めて訪れる土地に浮き立つ半面、他国にいるため少し緊張する。
竜王陛下は山の斜面に広がる花畑の上に降り立った。翼から生まれる風が辺り一面に咲く花を揺らすと、ピンクや水色や白色の花びらが宙を舞う。
「素敵な花畑……北の砦は花が珍しいので、山を越えた先にこんなにも花が溢れているなんてビックリしました」
『喜んでもらえて何よりだ。フォーサイス辺境伯領では花が特別な日の贈り物だと辺境伯から聞いたから、この景色を見せたいと思っていた』
私が背中から降りると、竜王陛下は人間の姿になった。促され、彼が花畑の上に広げたハンカチの上に座る。
「ここは私が幼い頃から密かに訪れていた場所だ。一人になりたい時はここに来ていた。侵攻されてからも変わらないままで残っていてよかった」
竜王陛下は微笑むと花を一輪ずつ手折り、何やら手作業を始めてしまった。私もとりあえず倣って花を手折る。花の冠でも作ろう。
「私に秘密の場所を教えて良いのですか?」
「あなたは私の番だから構わない」
「番って……まさか竜の夫婦を指すあの言葉ですか?」
「そう、竜人にも番がある。自分の唯一の伴侶で、竜の血を強く受け継いだもの中には本能的にわかる人がいるとされている。自分がそうなるまでは半信半疑の言い伝えだった」
本当は初めて私と出会った時に、他の人からは感じない何かを感じ取っていたらしい。だけどその時は自分が番を判別できるなんて知らなかったから、不可解な違和感と思っていたそうだ。
「竜は強い者に惹かれる性質があるから、当時の私は竜人より力の劣る人間を背に乗せるなんてあり得ないと思っていた。フォーサイス辺境伯とその父君は、助けてもらった恩義があるから別だが……」
「だから私を背に乗せなかったんですね。認めてもらえなかったことは辛かったですが、竜王陛下の御立場を考えるとたしかに他国の平民を背に乗せるなんてできないと思います」
「しかし私の命の恩人であるあなたにはその権利がある。あの時、私は竜に効く魔術のせいで体が動かず、殺されるところだった」
「私はただ、相棒を守りたかっただけです。騎士になったは、目の前にいる大切な人たちを守りたいからだったので、あなたを助けたのも自分の信条に従っただけです。だから命の恩人だなんて大袈裟な……」
ふわり、と頭の上に軽い何かが乗せられる。顔を上げると、竜王陛下が瞳を蕩けさせて私を見つめている。
片手で触れてみると柔らかな花びらに手が触れる。竜王陛下も花輪を作っていたらしい。意外と器用だ。
「本能で愛しているだけではない。あなたのその真っ直ぐな想いと勇気に惚れている。もうあなた以外の伴侶は考えられない。砦の騎士を目指していたあなたの夢を奪うことは申し訳ないが……ヴァレリア王国の王妃として共に民を守ってほしい」
「私にそのような大層な役が務まるとは思えません。やってみて、できなかったで済まされることではないのに……」
「仕事をする時は補佐をしてくれる者がいる。私もそうだ。誰だって一人で仕事をしている訳ではない。これからも――仕事では相棒になろう」
大きな掌が私の頬に触れる。あっという間に、竜王陛下の顔が近づいて私の頬にキスをした。
「――っ」
「黒竜の私にいきなりキスしてきた意趣返しだ。あれには心をかき乱された」
頬が熱い。片手で頬に触れる私を、竜王陛下はニヤニヤと意地の悪い表情を浮かべて見てくる。
「あなたを妃として迎えるのは決定事項だ。しかしその前に――私の恋人になってくれないだろうか?」
「私が竜王陛下の……恋人に……?」
「そうすれば、あなたの望みを一つは叶えらえるかもしれないと思う。……いや、絶対に叶える。愛するウェンディのために最高の恋人になると約束しよう」
自信満々に言ったかと思うと、眉尻を下げてやや不安げに私を見つめる。
「この命に代えてもあなたを守るし絶対に幸せにする。嫌なことは随時言ってくれ。改善するから……私を嫌いになる前に言ってくれ。もちろん、嫌われない努力はするが……」
絶対に私を妃にさせるつもりだし外堀を埋めてきているくせに、私に嫌われることを恐れているらしい。
彼の言葉に胸の中が温かくなるのはたぶん、彼を愛おしく思う気持ちが芽吹いたからなのかもしれない。
私は竜王陛下の頭に自分が作った花の冠をポンと載せた。
「わかりました。不束者ですが、まずはあなたの恋人にさせてください。王妃になるまで必死で妃教育に励むので――たまにはまた、ここに連れて来てくださいね?」
「――っ、ああ、約束する!」
感極まった竜王陛下にぎゅうぎゅうと抱きしめられ、ちょっと息苦しくなった。
竜王陛下には約束をしっかり守ってくれて、いつも絶妙なタイミングで私を迎えに来ては、竜の姿になってこの花畑に連れて行ってくれた。
そうしてフォーサイス辺境伯領の空を黒竜が飛ぶと、城下町の人々は一途な竜王陛下の話をするのだった。
――それから一年後、イルゼ王国からヴァレリア王国に、元騎士で平民の女性が嫁いで妃となった。
新しい妃は竜人より力は劣るが、その勇気と行動力で彼らの王を助けた勇敢さにヴァレリア王国の民たちは感銘を受けており、温かく迎えた。
王妃は常に人に囲まれ、そして夫に見守られ、民のために仕事に励み、慕われたのだった。
(結)
***あとがき***
これにて完結です!お付き合いいただきありがとうございました!
ヒロインが番だとわかってからガンガン押していくヒーローでしたが、お楽しみいただけましたら嬉しいです。
それでは、新しい物語の世界でまた会いましょう!
「ウェンディ、どこへ行きたいか決まったか?」
ディーンは爽やかな水色の装束を着て現れた。私の瞳の色を纏ったのだとはにかみながら教えてくれた。
今日はいよいよ竜王陛下とのデートの日だ。
目覚めてから三週間ほど、すっかり体力がなくなってしまった私は、領主邸で治療を受けながら体力をつける特訓をした。
そうして体力づくりに励んだ結果、医者から完治したと告げられ――今日を迎えた。
「城下町にしましょう。その方が陛下が観光できますよね?」
「観光……か。私に気を遣わなくていい。せっかくだから私の背に乗って、この周辺を散策しよう」
黄金の瞳の奥で黒い瞳孔がキュッと細くなる。竜王陛下が光に包まれると形が変わり――光が収まると、今となっては懐かしい黒竜の姿があった。
(本当に陛下がオブシディアンだったのね……)
実際に姿が変わるところを見るまでは、同一人物なのだと信じ難かった。
『さあ、乗るがいい』
私が乗りやすいように伏せてくれている黒竜から竜王陛下の声が聞こえてくる。本当は竜の姿でも人の言葉を話せたらしい。
「本当に、乗ってもよろしいのでしょうか?」
『あなたが乗ってくれるのであれば本望だ』
躊躇う私に焦れたのか、竜王陛下は頭を使って器用に私を背に乗せる。
『私の首にしがみついてくれ』
その言葉を残し、大空に飛び立った。突然の浮遊感慌て、夢中で竜王陛下の首にしがみつく。
『ウェンディ、もう目を開けても大丈夫だ』
優しい声に促されてそっと目を開けると、私は上空にいた。
「わあっ! 城下町が小さく見える。まるで人形の街みたい」
眼下に城下町の景色が広がっており、人々が忙しなく動いている。
鳥や竜はいつもこのような景色を見ているのかと感激した。
『町を一周するから、気になる場所があれば言ってくれ』
時計台や中央広場、住宅街や公園を上空から観察すると、見慣れた町の違った表情が見れて面白い。
いつか竜の背に乗ってみたいと思っていた景色に、胸がいっぱいになった。
「竜王陛下、見せてくださってありがとうございます。もしお疲れでしたら、どこかに下りて休みませんか?」
『疲れてはいないが……とっておきの景色を見せたい。場所を移ろう』
城下町を離れて山を一つ越えると、そこはヴァレリア王国の領土内だ。初めて訪れる土地に浮き立つ半面、他国にいるため少し緊張する。
竜王陛下は山の斜面に広がる花畑の上に降り立った。翼から生まれる風が辺り一面に咲く花を揺らすと、ピンクや水色や白色の花びらが宙を舞う。
「素敵な花畑……北の砦は花が珍しいので、山を越えた先にこんなにも花が溢れているなんてビックリしました」
『喜んでもらえて何よりだ。フォーサイス辺境伯領では花が特別な日の贈り物だと辺境伯から聞いたから、この景色を見せたいと思っていた』
私が背中から降りると、竜王陛下は人間の姿になった。促され、彼が花畑の上に広げたハンカチの上に座る。
「ここは私が幼い頃から密かに訪れていた場所だ。一人になりたい時はここに来ていた。侵攻されてからも変わらないままで残っていてよかった」
竜王陛下は微笑むと花を一輪ずつ手折り、何やら手作業を始めてしまった。私もとりあえず倣って花を手折る。花の冠でも作ろう。
「私に秘密の場所を教えて良いのですか?」
「あなたは私の番だから構わない」
「番って……まさか竜の夫婦を指すあの言葉ですか?」
「そう、竜人にも番がある。自分の唯一の伴侶で、竜の血を強く受け継いだもの中には本能的にわかる人がいるとされている。自分がそうなるまでは半信半疑の言い伝えだった」
本当は初めて私と出会った時に、他の人からは感じない何かを感じ取っていたらしい。だけどその時は自分が番を判別できるなんて知らなかったから、不可解な違和感と思っていたそうだ。
「竜は強い者に惹かれる性質があるから、当時の私は竜人より力の劣る人間を背に乗せるなんてあり得ないと思っていた。フォーサイス辺境伯とその父君は、助けてもらった恩義があるから別だが……」
「だから私を背に乗せなかったんですね。認めてもらえなかったことは辛かったですが、竜王陛下の御立場を考えるとたしかに他国の平民を背に乗せるなんてできないと思います」
「しかし私の命の恩人であるあなたにはその権利がある。あの時、私は竜に効く魔術のせいで体が動かず、殺されるところだった」
「私はただ、相棒を守りたかっただけです。騎士になったは、目の前にいる大切な人たちを守りたいからだったので、あなたを助けたのも自分の信条に従っただけです。だから命の恩人だなんて大袈裟な……」
ふわり、と頭の上に軽い何かが乗せられる。顔を上げると、竜王陛下が瞳を蕩けさせて私を見つめている。
片手で触れてみると柔らかな花びらに手が触れる。竜王陛下も花輪を作っていたらしい。意外と器用だ。
「本能で愛しているだけではない。あなたのその真っ直ぐな想いと勇気に惚れている。もうあなた以外の伴侶は考えられない。砦の騎士を目指していたあなたの夢を奪うことは申し訳ないが……ヴァレリア王国の王妃として共に民を守ってほしい」
「私にそのような大層な役が務まるとは思えません。やってみて、できなかったで済まされることではないのに……」
「仕事をする時は補佐をしてくれる者がいる。私もそうだ。誰だって一人で仕事をしている訳ではない。これからも――仕事では相棒になろう」
大きな掌が私の頬に触れる。あっという間に、竜王陛下の顔が近づいて私の頬にキスをした。
「――っ」
「黒竜の私にいきなりキスしてきた意趣返しだ。あれには心をかき乱された」
頬が熱い。片手で頬に触れる私を、竜王陛下はニヤニヤと意地の悪い表情を浮かべて見てくる。
「あなたを妃として迎えるのは決定事項だ。しかしその前に――私の恋人になってくれないだろうか?」
「私が竜王陛下の……恋人に……?」
「そうすれば、あなたの望みを一つは叶えらえるかもしれないと思う。……いや、絶対に叶える。愛するウェンディのために最高の恋人になると約束しよう」
自信満々に言ったかと思うと、眉尻を下げてやや不安げに私を見つめる。
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彼の言葉に胸の中が温かくなるのはたぶん、彼を愛おしく思う気持ちが芽吹いたからなのかもしれない。
私は竜王陛下の頭に自分が作った花の冠をポンと載せた。
「わかりました。不束者ですが、まずはあなたの恋人にさせてください。王妃になるまで必死で妃教育に励むので――たまにはまた、ここに連れて来てくださいね?」
「――っ、ああ、約束する!」
感極まった竜王陛下にぎゅうぎゅうと抱きしめられ、ちょっと息苦しくなった。
竜王陛下には約束をしっかり守ってくれて、いつも絶妙なタイミングで私を迎えに来ては、竜の姿になってこの花畑に連れて行ってくれた。
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――それから一年後、イルゼ王国からヴァレリア王国に、元騎士で平民の女性が嫁いで妃となった。
新しい妃は竜人より力は劣るが、その勇気と行動力で彼らの王を助けた勇敢さにヴァレリア王国の民たちは感銘を受けており、温かく迎えた。
王妃は常に人に囲まれ、そして夫に見守られ、民のために仕事に励み、慕われたのだった。
(結)
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