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不愛想な婚約者のメガネをこっそりかけたら
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(はぁ、こんな状態で結婚しても、上手くいくのかしら?)
私――男爵令嬢のアダリーシア・ホフマンは溜息をついて、ティーカップに添えられたスプーンに映る自分の姿を見つめる。
十六歳になったばかりの私がより大人っぽく見えるようメイドが張り切って編み込みを入れてくれた紫色の髪。
紫色の瞳に合わせてメイドに化粧をしてもらったおかげで、いつもより少し落ち着いた雰囲気に仕上がった顔。
ドレスは、婚約者のエディング・ローゼンベルグ様の瞳に合わせた緑色で、胸元はレースとリボンで彩られており、とても気に入っているものだ。
そうして着飾った私は、今はエディング様との顔合わせのため、彼の住む王都の家――タウン・ハウスの応接室にあるソファに腰かけている。
私は、差し向かいの席に腰かけるエディング様をそっと盗み見る。
エディング様はローゼンベルグ伯爵家の次期当主。
年齢は私と同い年の十六歳で、十年前の六歳の頃に親同士が決めて婚約した。
誰もが目を留めるほど整った顔立ちで、綺麗すぎて冷たささえ感じる美形。
切れ長の目に、新緑を彷彿とさせる緑色の瞳。銀縁メガネをかけており、他の令息たちよりも年上に見えることが多々ある。
夜空のような深い青色の短い髪をいつも丁寧に整えており、その見た目通り、几帳面な性格だ。
「……」
「……」
私たちの間には、気まずい沈黙がおちている。
先ほどまでは私が話していたけれど、エディング様が一言だけ相槌を打つだけで会話を続けようとしないから、もう話すネタが無いのだ。
これでも、頑張った方だ。
だって、エディング様とこの部屋に来て一時間ほど、私が一人で喋り続けたのだから。
婚約してから何度かこうして会っているのだけれど、エディング様はいつも不愛想で、話しかけても素っ気ないのだ。
それに、あまり目を合わせてくれない。
(結婚しても、ずっとこのままよね?)
そんな不安がある。
他愛のない会話ができない人との結婚生活なんて、息が詰まりそうだ。
とはいえ、結婚は貴族の義務なのだから、耐えるしかないのだけれど。
それでも、結婚までにどうにか関係を改善できないか模索している。
せめてエディング様が笑いかけてくれたらいいのだけれど、いくら私がにこにこと笑顔を浮かべて話しかけてみても、エディング様は少しも笑ってくれない。
いまだって、そうだ。
エディング様は、ぶすっとした表情で、自分の目の前にあるティーカップを見つめている。
すると、いきなり扉が開いて、ローゼンベルク伯爵家の執事が現れる。
「失礼します。坊ちゃま、お伝えしたいことがございます」
その執事はエディング様に近寄って、耳打ちした。
「……少し、席を外す」
そう言い残して、エディング様は耳打ちした使用人と一緒に応接室から出た。
取り残された私は、そっと溜息をついて、温くなった紅茶を啜る。
そうして気を紛らわせないと、やるせない思いに呑み込まれそうな気がした。
ティーカップをソーサーに戻した時、視界の端に銀縁メガネが見えた。
先ほどまで、エディング様がかけていたメガネだ。いつの間にか外していたことに、私は気づいていなかった。
「メガネを忘れているなんて……見えなくて困らないのかしら?」
私はエディング様のメガネを手に取る。
立ち上がって、エディング様に届けようとしたけれど、すぐに止めて、再びソファに腰かける。
エディング様がどこにいるのかわからないし、余計なお世話だったらどうしようと、不安になってしまったのだ。
手に持っているエディング様のメガネに視線を落とす。
「……エディング様と同じ世界を見れたら、もう少し仲良くなれるのかしら?」
ぽつりと呟いた言葉が、静かな部屋の空気に溶けていく。
少し、寂しさと虚しさを感じた。
(そんなわけ、ないわよね)
他にやることがなく、手持ち無沙汰なため、エディング様のメガネをつぶさに観察する。
いつから、エディング様はメガネをかけ始めたか。
初めて会った頃はまだ、メガネをかけていなかった気がする。
出来心で、エディング様のメガネをかけてみた。
「え……嘘でしょう?」
私は自分の目を疑った。
なんと、メガネをかけてみても、目の前の景色は先ほどと変わりなく見えるのだ。
てっきり、メガネの度が合わずに、目の前の景色が歪んで見えると思っていたのに。
「このメガネ……まさかの、度無し?!」
エディング様はなぜ、度の無いメガネをかけているのだろうか。
なにか、こう……深い理由があるのかもしれない。しらないけれど。
きっと、知的な雰囲気を醸し出すためにわざとメガネをかけていた、ということではないはず。
そうだと信じたい。
メガネを外そうとしたそのとき、扉が開いた。
ドキリとして、咄嗟に扉の方に顔を向けると、こちらを見て茫然としているエディング様がいた。
視線が交わると、エディング様は目をカッと見開き、口をくわっと開く。
こんなにも表情が変わったエディング様を、初めて見た。
「か……!」
エディング様が言葉発する。
続く言葉は「勝手にメガネに触れるな!」だと思った私は、急いで謝ろうとしたのだけれど――。
「か・わ・い・い~っ!!」
エディング様はそう叫ぶと、膝から崩れ落ちてしまった。
そのまま、「ふわぁぁっ!」と、言葉にならないなにかを叫んでいる。
(ええ、待って。なにが起きたの!?)
突然起きたことに頭がついていけず、私はただエディング様がブリッジしそうな勢いで体を反らせている様子を見守るしかなかった。
ややあって、エディング様はハッとしたように肩を揺らすと、両手を顔から離して立ち上がり、居住まいを正す。
「す、すまない。アダリーシアがとても可愛いから、つい見つめてしまった」
「いえ、お気になさら……えっ、可愛い?」
予想外の言葉に驚いた私は、思わず聞き返してしまう。
すると、エディング様は力強く頷いた。
「ああ、アダリーシアはとても可愛い。あまりにも可愛くて、いつも目のやり場に困っている」
人を、見てはならないもののように言わないでほしい、と心の中で突っ込んだ。
とはいえ、エディング様が本当に私のことを可愛いと思っていたのだとわかり、なんだか混乱してしまう。
それに、今のエディング様はよく喋るから、なんだか別人みたいだ。
「それにしても、なぜメガネをかけたんだ? もしかして……視力が悪くなったのか?」
エディング様が私に話しかけてくれた。いったい、何年振りのことだろう。
「いえ……エディング様と同じ景色を見たくて……」
「――っ!」
私の答えを聞いたエディング様は瞠目すると、またもや両手で顔を覆う。
「か・わ・い・い~っ!!」
そう言って、エディング様は両手で顔を覆ったまま天井を仰いだ。
今度は、「ふぅぅぅっ!」と、やはり言葉にならない声を出している。
唖然としていると、エディング様が顔から手を離す。
森を映したような美しい緑色の瞳が私に向いた。
「私と同じ景色を見たいだなんて、かわいい……本当に、かわいい……」
と、エディング様が「かわいい」を連呼してくる。
エディング様にじっと見つめられたまま、私はどうしたらいいかわからず、固まった。
「ハッ、いけない。ついアダリーシアを見つめ過ぎてしまった。こうなるから、見つめ過ぎないように気をつけていたのに……」
「ど、どういうことですか?」
まるで、私のために我慢していたような言い方だ。
なにがなんだか、まったくわからない。
そんな私のために、エディング様が答えてくれた。
「アダリーシアがあまりにも可愛くて、じっと見つめてしまいそうになるから、我慢していたんだ」
「……そんなことなら、我慢しないで見つめてください。私、ずっと嫌われているかと思って、不安だったのですよ? 話しかけても、ぶっきらぼうな態度で一言くらいしか返事をしてくれませんでしたし」
「申し訳ない……。変なことを言ってアダリーシアに不快な思いをさせたくなくて、言葉を選んでいたのだが……かえって嫌な思いをさせてしまったな……」
エディング様は決して私を嫌っているのではなく、私への気遣いを重ねすぎたことが裏目に出てしまっていたのだった。
「見つめないようにしていたことも、いつも私たちのそばに控えていた使用人から、失礼な態度だから改めるように言われていたんだ。さっき部屋に出たのも、見守っていた使用人たちが、私の態度を指摘するために、呼び出してくれたんだよ」
どうやら、エディング様は私のために使用人たちに協力してもらってまで、変わろうとしてくれていたらしい。
「しかし、いざアダリーシアを見ようと思うと、あまりにも可愛くて、目を逸らさないとすぐに叫んでしまいそうで……」
「そこは、なんとか叫ぶのを堪えてください」
私は思わず突っ込みを入れた。
いつもこのように叫ばれては困る。気恥ずかしいし、照れくさいのだ。
心から可愛いと思ってくれているようで、嬉しさも少しあるけれど……できることなら、普通に褒めてほしい。
「メガネをかけていたのも、アダリーシアを見つめ過ぎてしまわないように、敢えてレンズ越しに見るためだったんだ」
「レンズ越しでも見えているのなら、同じなのでは?」
「レンズがあるだけで、少しだけ自分の意識をアダリーシアから逸らせることができる。ジロジロ見てくる奴なんて、気持ち悪いだろう?」
どうやら、メガネをかけていたのは、私のためだったらしい。
「こんな私だが、これからも一緒にいてくれるだろうか……?」
エディング様が、うるうるとした目で訴えかけてくるように、こちらを見てきた。
まるで、捨てられた仔犬のような雰囲気を醸し出している。
これまでのエディング様とはまるで別人のような表情に、私は思わず笑ってしまった。
「いまのエディング様とならば、上手くやっていけそうな気がします」
「本当か!?」
「ええ、とても話しやすいですから」
私はエディング様の両手を握る。
「エディング様、これからも――末永くよろしくお願いします」
「――っ! ああ、こちらこそ!」
エディング様は私の手を握り返したかと思うと、腕を引いて私を抱き寄せてきた。
それ以来、エディング様はあらゆるメガネを買ってきては、身に着けてほしいと言ってくる。
私のために用意してくれたので、試しにどのメガネもかけてみると、エディング様は熱のこもった眼差しで見つめてくるのだった。
(結)
***あとがき***
はじめまして。最後までお読みいただきありがとうございました。
デレたエディングの様子をニヤニヤしながら書いていましたので、エディングの悶えっぷりにニヤニヤしていただけましたら嬉しいです…!
また、もしよろしければ、応援・感想などで応援いただけますと嬉しいです。
次作の執筆の励みにします。
年の瀬で忙しい時期ですが、どうかお体にお気をつけてお過ごしくださいませ。
それでは、新しい物語の世界でまたお会いしましょう。
私――男爵令嬢のアダリーシア・ホフマンは溜息をついて、ティーカップに添えられたスプーンに映る自分の姿を見つめる。
十六歳になったばかりの私がより大人っぽく見えるようメイドが張り切って編み込みを入れてくれた紫色の髪。
紫色の瞳に合わせてメイドに化粧をしてもらったおかげで、いつもより少し落ち着いた雰囲気に仕上がった顔。
ドレスは、婚約者のエディング・ローゼンベルグ様の瞳に合わせた緑色で、胸元はレースとリボンで彩られており、とても気に入っているものだ。
そうして着飾った私は、今はエディング様との顔合わせのため、彼の住む王都の家――タウン・ハウスの応接室にあるソファに腰かけている。
私は、差し向かいの席に腰かけるエディング様をそっと盗み見る。
エディング様はローゼンベルグ伯爵家の次期当主。
年齢は私と同い年の十六歳で、十年前の六歳の頃に親同士が決めて婚約した。
誰もが目を留めるほど整った顔立ちで、綺麗すぎて冷たささえ感じる美形。
切れ長の目に、新緑を彷彿とさせる緑色の瞳。銀縁メガネをかけており、他の令息たちよりも年上に見えることが多々ある。
夜空のような深い青色の短い髪をいつも丁寧に整えており、その見た目通り、几帳面な性格だ。
「……」
「……」
私たちの間には、気まずい沈黙がおちている。
先ほどまでは私が話していたけれど、エディング様が一言だけ相槌を打つだけで会話を続けようとしないから、もう話すネタが無いのだ。
これでも、頑張った方だ。
だって、エディング様とこの部屋に来て一時間ほど、私が一人で喋り続けたのだから。
婚約してから何度かこうして会っているのだけれど、エディング様はいつも不愛想で、話しかけても素っ気ないのだ。
それに、あまり目を合わせてくれない。
(結婚しても、ずっとこのままよね?)
そんな不安がある。
他愛のない会話ができない人との結婚生活なんて、息が詰まりそうだ。
とはいえ、結婚は貴族の義務なのだから、耐えるしかないのだけれど。
それでも、結婚までにどうにか関係を改善できないか模索している。
せめてエディング様が笑いかけてくれたらいいのだけれど、いくら私がにこにこと笑顔を浮かべて話しかけてみても、エディング様は少しも笑ってくれない。
いまだって、そうだ。
エディング様は、ぶすっとした表情で、自分の目の前にあるティーカップを見つめている。
すると、いきなり扉が開いて、ローゼンベルク伯爵家の執事が現れる。
「失礼します。坊ちゃま、お伝えしたいことがございます」
その執事はエディング様に近寄って、耳打ちした。
「……少し、席を外す」
そう言い残して、エディング様は耳打ちした使用人と一緒に応接室から出た。
取り残された私は、そっと溜息をついて、温くなった紅茶を啜る。
そうして気を紛らわせないと、やるせない思いに呑み込まれそうな気がした。
ティーカップをソーサーに戻した時、視界の端に銀縁メガネが見えた。
先ほどまで、エディング様がかけていたメガネだ。いつの間にか外していたことに、私は気づいていなかった。
「メガネを忘れているなんて……見えなくて困らないのかしら?」
私はエディング様のメガネを手に取る。
立ち上がって、エディング様に届けようとしたけれど、すぐに止めて、再びソファに腰かける。
エディング様がどこにいるのかわからないし、余計なお世話だったらどうしようと、不安になってしまったのだ。
手に持っているエディング様のメガネに視線を落とす。
「……エディング様と同じ世界を見れたら、もう少し仲良くなれるのかしら?」
ぽつりと呟いた言葉が、静かな部屋の空気に溶けていく。
少し、寂しさと虚しさを感じた。
(そんなわけ、ないわよね)
他にやることがなく、手持ち無沙汰なため、エディング様のメガネをつぶさに観察する。
いつから、エディング様はメガネをかけ始めたか。
初めて会った頃はまだ、メガネをかけていなかった気がする。
出来心で、エディング様のメガネをかけてみた。
「え……嘘でしょう?」
私は自分の目を疑った。
なんと、メガネをかけてみても、目の前の景色は先ほどと変わりなく見えるのだ。
てっきり、メガネの度が合わずに、目の前の景色が歪んで見えると思っていたのに。
「このメガネ……まさかの、度無し?!」
エディング様はなぜ、度の無いメガネをかけているのだろうか。
なにか、こう……深い理由があるのかもしれない。しらないけれど。
きっと、知的な雰囲気を醸し出すためにわざとメガネをかけていた、ということではないはず。
そうだと信じたい。
メガネを外そうとしたそのとき、扉が開いた。
ドキリとして、咄嗟に扉の方に顔を向けると、こちらを見て茫然としているエディング様がいた。
視線が交わると、エディング様は目をカッと見開き、口をくわっと開く。
こんなにも表情が変わったエディング様を、初めて見た。
「か……!」
エディング様が言葉発する。
続く言葉は「勝手にメガネに触れるな!」だと思った私は、急いで謝ろうとしたのだけれど――。
「か・わ・い・い~っ!!」
エディング様はそう叫ぶと、膝から崩れ落ちてしまった。
そのまま、「ふわぁぁっ!」と、言葉にならないなにかを叫んでいる。
(ええ、待って。なにが起きたの!?)
突然起きたことに頭がついていけず、私はただエディング様がブリッジしそうな勢いで体を反らせている様子を見守るしかなかった。
ややあって、エディング様はハッとしたように肩を揺らすと、両手を顔から離して立ち上がり、居住まいを正す。
「す、すまない。アダリーシアがとても可愛いから、つい見つめてしまった」
「いえ、お気になさら……えっ、可愛い?」
予想外の言葉に驚いた私は、思わず聞き返してしまう。
すると、エディング様は力強く頷いた。
「ああ、アダリーシアはとても可愛い。あまりにも可愛くて、いつも目のやり場に困っている」
人を、見てはならないもののように言わないでほしい、と心の中で突っ込んだ。
とはいえ、エディング様が本当に私のことを可愛いと思っていたのだとわかり、なんだか混乱してしまう。
それに、今のエディング様はよく喋るから、なんだか別人みたいだ。
「それにしても、なぜメガネをかけたんだ? もしかして……視力が悪くなったのか?」
エディング様が私に話しかけてくれた。いったい、何年振りのことだろう。
「いえ……エディング様と同じ景色を見たくて……」
「――っ!」
私の答えを聞いたエディング様は瞠目すると、またもや両手で顔を覆う。
「か・わ・い・い~っ!!」
そう言って、エディング様は両手で顔を覆ったまま天井を仰いだ。
今度は、「ふぅぅぅっ!」と、やはり言葉にならない声を出している。
唖然としていると、エディング様が顔から手を離す。
森を映したような美しい緑色の瞳が私に向いた。
「私と同じ景色を見たいだなんて、かわいい……本当に、かわいい……」
と、エディング様が「かわいい」を連呼してくる。
エディング様にじっと見つめられたまま、私はどうしたらいいかわからず、固まった。
「ハッ、いけない。ついアダリーシアを見つめ過ぎてしまった。こうなるから、見つめ過ぎないように気をつけていたのに……」
「ど、どういうことですか?」
まるで、私のために我慢していたような言い方だ。
なにがなんだか、まったくわからない。
そんな私のために、エディング様が答えてくれた。
「アダリーシアがあまりにも可愛くて、じっと見つめてしまいそうになるから、我慢していたんだ」
「……そんなことなら、我慢しないで見つめてください。私、ずっと嫌われているかと思って、不安だったのですよ? 話しかけても、ぶっきらぼうな態度で一言くらいしか返事をしてくれませんでしたし」
「申し訳ない……。変なことを言ってアダリーシアに不快な思いをさせたくなくて、言葉を選んでいたのだが……かえって嫌な思いをさせてしまったな……」
エディング様は決して私を嫌っているのではなく、私への気遣いを重ねすぎたことが裏目に出てしまっていたのだった。
「見つめないようにしていたことも、いつも私たちのそばに控えていた使用人から、失礼な態度だから改めるように言われていたんだ。さっき部屋に出たのも、見守っていた使用人たちが、私の態度を指摘するために、呼び出してくれたんだよ」
どうやら、エディング様は私のために使用人たちに協力してもらってまで、変わろうとしてくれていたらしい。
「しかし、いざアダリーシアを見ようと思うと、あまりにも可愛くて、目を逸らさないとすぐに叫んでしまいそうで……」
「そこは、なんとか叫ぶのを堪えてください」
私は思わず突っ込みを入れた。
いつもこのように叫ばれては困る。気恥ずかしいし、照れくさいのだ。
心から可愛いと思ってくれているようで、嬉しさも少しあるけれど……できることなら、普通に褒めてほしい。
「メガネをかけていたのも、アダリーシアを見つめ過ぎてしまわないように、敢えてレンズ越しに見るためだったんだ」
「レンズ越しでも見えているのなら、同じなのでは?」
「レンズがあるだけで、少しだけ自分の意識をアダリーシアから逸らせることができる。ジロジロ見てくる奴なんて、気持ち悪いだろう?」
どうやら、メガネをかけていたのは、私のためだったらしい。
「こんな私だが、これからも一緒にいてくれるだろうか……?」
エディング様が、うるうるとした目で訴えかけてくるように、こちらを見てきた。
まるで、捨てられた仔犬のような雰囲気を醸し出している。
これまでのエディング様とはまるで別人のような表情に、私は思わず笑ってしまった。
「いまのエディング様とならば、上手くやっていけそうな気がします」
「本当か!?」
「ええ、とても話しやすいですから」
私はエディング様の両手を握る。
「エディング様、これからも――末永くよろしくお願いします」
「――っ! ああ、こちらこそ!」
エディング様は私の手を握り返したかと思うと、腕を引いて私を抱き寄せてきた。
それ以来、エディング様はあらゆるメガネを買ってきては、身に着けてほしいと言ってくる。
私のために用意してくれたので、試しにどのメガネもかけてみると、エディング様は熱のこもった眼差しで見つめてくるのだった。
(結)
***あとがき***
はじめまして。最後までお読みいただきありがとうございました。
デレたエディングの様子をニヤニヤしながら書いていましたので、エディングの悶えっぷりにニヤニヤしていただけましたら嬉しいです…!
また、もしよろしければ、応援・感想などで応援いただけますと嬉しいです。
次作の執筆の励みにします。
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