【完結】リゼットスティアの王妃様

通木遼平

文字の大きさ
3 / 4

第三話

しおりを挟む



 私がまだ王太子だった頃、多くの貴族が自分の家の娘を私の妃にすることを望んでいました。この国ではあまり幼い頃に婚約者を決めるということがありません。私の祖父母が若かった頃に政略的な都合で幼い頃から決まっていた婚約が突然解消になったり婚約者がすげ変わったり――そういったことがあって、少々問題になったのです。
 王家も他人事ではなく、私の父である先王や私は幼い頃に同年代の令嬢と接する機会は設けても婚約はせず様子を見ながら十代の半ばまで過ごしました。十代の半ばを過ぎるとさすがにそろそろ婚約者を選ぶべきだという話が出ます。
 特に私はその頃に父が大きな病気をして……幸い良くはなりましたが、少し後遺症のようなものがあり……いえ、普段は何の問題もないのです。今も元気に過ごしていますよ。しかし当時は弱気だったのでしょう。私にできるだけ早く後を継いで欲しいと口癖のように言っていました。それで、婚約者を選ぶように急かされたのです。

 私は両親や重臣たちと相談し、何人か候補者を選定しました。その中の一人が彼女だったのです。

 彼女――ツェツィーリアは、候補者の令嬢の中では……正直、パッとしない令嬢でした。他の令嬢たちが自身の容姿に自信を持っているような方々だったから余計にそう思ったのでしょう。今思えば、当時の私は目がおかしかったとしか思えませんが。
 もちろん、どの令嬢も見た目だけでなく知性もあり、私の妃として共にこの国を支えていくのに充分な能力を持っていました。私は――私は、その時、実のところ誰が妻になっても同じだと思っていました。最悪、周りが決めてくれればいいと……もちろん、生涯を共にするのですから誰が選ばれても尊敬の気持ちをもって接しようと決めてはいました。
 私は彼女たちと一対一で会い、よく話をし、彼女たちがどういう人なのか知ろうと努めました。彼女たちも同じでした。ツェツィーリアを除いては……。

 最初に会った時、ツェツィーリアは私にはあまり興味がないようでした。私の方もそこまで彼女に興味を抱けなかったのですが、彼女の方はそれを少しも隠そうとしていなかったのです。自惚れのように思われるかもしれませんが、そんな態度を取る女性に会ったのははじめてで、私は純粋に驚きました。同時に、彼女に少し興味を持ちました。
 彼女の家は古くから王家を支えてくれた忠臣で、領地とこの国が穏やかであればいいというような権力とは無縁の家だったのも理由の一つかもしれません。王家に嫁ぐなんて考えもしないような家なのです。候補者に選んでもすぐに辞退しそうな――いえ、辞退することは許していました。実際、そうした家もあります。内々に婚約が決まりそうだったとか万が一妃に選ばれてもその務めを果たせる自信がないとか理由はいろいろですが……。
 私は彼女が候補者になることを選んだ理由が知りたいと思い、率直に理由をたずねました。ツェツィーリアは普段からよく領地にある孤児院で読み書きを教える手伝いをしているのだと話しました。これは我が国全土で行われていることですが、金銭的に余裕がない家の子どもでも読み書きくらいはできるように授業料のかかる学校ではなく孤児院や教会で無償で子どもたちに教えているのです。
 ところが彼女の話だと、家の事情で自身が働きに出なければならない子どもは、その子こそ読み書きくらいできた方がいいに違いないのに、働く時間が減るからとそういう場には現われないというのです。

 そう、彼女が候補者になったのはもし妃になればその問題の解決に乗り出せるのではないかと考えたからだったのです。もちろん、彼女の両親もそのことを了承済みでした。もし選ばれなくても、その話を私にすることで何か対策をとってくれるのではないかと彼女は考えていました。
 私は彼女の話に――いえ、彼女自身に興味を持って、その後視察と称して彼女が読み書きを教えている孤児院へと赴きました。

 ツェツィーリアは……ツェツィーリアは、私と会った時の興味がなさそうな顔からは想像もできないような温かい笑顔で子どもたちと接し、やさしく読み書きを教えていました。私は彼女から目が離せませんでした。孤児院の日当たりのいい部屋で、子どもたちに囲まれて子どもたちの好きな物語をひとことずつ書き取りさせているツェツィーリアのやさしい声も教わった文字がうまく書けない子の手を取って一緒に書いてあげる時のしぐさも何もかもが愛らしく思え、その瞬間、彼女ほど美しい人はいないと思ったのです。

 視察を終えて私は彼女が気づいた問題の解決に取り組むことを約束しました。その結果が騎士学校に新しく作った学科になるのですが――ええ、そうです。騎士学校に通う生徒は見習いとして騎士団に所属し、騎士団での雑務を行って給金をもらうのですがそれを応用したのです。いずれは独立した学校にするつもりですよ。もちろん、視察をご希望でしたら予定を立てましょう。

 それで、話を戻しますが――この件の解決を約束すると同時に私はツェツィーリアに私の妃になって欲しいと告げました。ツェツィーリアは……彼女は……「無理です」と……私がこの件の解決を約束した時点で、彼女にとって候補者でいる理由はなくなってしまったのです……しかしあきらめきれず、私は彼女を婚約者とし、婚姻を迫ったのです。
 ツェツィーリアは私を嫌う、まではいかなくとも随分とあきれた様子を見せていました。もっとも一度は候補者になった以上、選ばれれば受け入れないといけないとは思っていたようです。無理だと言ったのは、私の申し出がかなり唐突だったせいでついうっかり口を滑らしたのでしょう……結婚してすぐは彼女はどこかよそよそしかったのは事実です。それでも私は常に彼女を愛し、尊重し、誠実に接してきました。
 私たちはどちらかというと仕事仲間だったのかもしれません。しかしそうして過ごす内に、彼女も私を大切に想ってくれるようになりました。今では多くの国民が私たちのことを理想の夫婦だと言ってくれています」


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

白い結婚を捨てた王妃は、もう二度と振り向かない ――愛さぬと言った王子が全てを失うまで』

鍛高譚
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」 華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。 王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。 そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。 レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。 「お願いだ……戻ってきてくれ……」 王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。 「もう遅いわ」 愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。 裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。 これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。

強面貴族の幼馴染は恋を諦めている〜優しさを知っている年下令嬢は妹にしか見られない〜

蒼井美紗
恋愛
伯爵令嬢シルフィーネは幼馴染のレオナルドが大好きだった。四歳差があり妹としか見られていないので、自身の成長を待っていたら、レオナルドが突然騎士団に入ると言い出す。強面の自分と結婚させられる相手が可哀想だと思ったらしい。しかしシルフィーネはレオナルドのことが大好きで――。

遊び人の令嬢が目を付けたのは、私の真面目な婚約者でした

おいどん
恋愛
子爵家の令嬢エリーネと伯爵家の次男のノルトが婚約を結んだのは、半年前だった。 真面目で優秀なノルトに相応しい婚約者であろうとするものの、エリーネには自信がなかった。 ある日、遊び人と噂の令嬢べルティーナとノルトが共にいるところを見てしまう。 「真面目クンは壁さえ破っちゃえばこっちのもんだからね〜」 「きっと、彼女の美しさに嫉妬しているのだわ…」 「…今度は、ちゃんと言葉にするから」

そろそろ諦めてください、お父様

鳴哉
恋愛
溺愛が過ぎて、なかなか婚約者ができない令嬢の話 短いので、サクッと読んでもらえると思います。 読みやすいように、7話に分けました。 毎日1回、予約投稿します。 2025.09.21 追記 自分の中で溺愛の定義に不安が生じましたので、タグの溺愛に?つけました。

婚約破棄ブームに乗ってみた結果、婚約者様が本性を現しました

ラム猫
恋愛
『最新のトレンドは、婚約破棄!  フィアンセに婚約破棄を提示して、相手の反応で本心を知ってみましょう。これにより、仲が深まったと答えたカップルは大勢います!  ※結果がどうなろうと、我々は責任を負いません』  ……という特設ページを親友から見せられたエレアノールは、なかなか距離の縮まらない婚約者が自分のことをどう思っているのかを知るためにも、この流行に乗ってみることにした。  彼が他の女性と仲良くしているところを目撃した今、彼と婚約破棄して身を引くのが正しいのかもしれないと、そう思いながら。  しかし実際に婚約破棄を提示してみると、彼は豹変して……!? ※『小説家になろう』様、『カクヨム』様にも投稿しています

旦那様に「君を愛する気はない」と言い放たれたので、「逃げるのですね?」と言い返したら甘い溺愛が始まりました。

海咲雪
恋愛
結婚式当日、私レシール・リディーアとその夫となるセルト・クルーシアは初めて顔を合わせた。 「君を愛する気はない」 そう旦那様に言い放たれても涙もこぼれなければ、悲しくもなかった。 だからハッキリと私は述べた。たった一文を。 「逃げるのですね?」 誰がどう見ても不敬だが、今は夫と二人きり。 「レシールと向き合って私に何の得がある?」 「可愛い妻がなびくかもしれませんわよ?」 「レシール・リディーア、覚悟していろ」 それは甘い溺愛生活の始まりの言葉。 [登場人物] レシール・リディーア・・・リディーア公爵家長女。  × セルト・クルーシア・・・クルーシア公爵家長男。

婚約破棄された令嬢は、“神の寵愛”で皇帝に溺愛される 〜私を笑った全員、ひざまずけ〜

夜桜
恋愛
「お前のような女と結婚するくらいなら、平民の娘を選ぶ!」 婚約者である第一王子・レオンに公衆の面前で婚約破棄を宣言された侯爵令嬢セレナ。 彼女は涙を見せず、静かに笑った。 ──なぜなら、彼女の中には“神の声”が響いていたから。 「そなたに、我が祝福を授けよう」 神より授かった“聖なる加護”によって、セレナは瞬く間に癒しと浄化の力を得る。 だがその力を恐れた王国は、彼女を「魔女」と呼び追放した。 ──そして半年後。 隣国の皇帝・ユリウスが病に倒れ、どんな祈りも届かぬ中、 ただ一人セレナの手だけが彼の命を繋ぎ止めた。 「……この命、お前に捧げよう」 「私を嘲った者たちが、どうなるか見ていなさい」 かつて彼女を追放した王国が、今や彼女に跪く。 ──これは、“神に選ばれた令嬢”の華麗なるざまぁと、 “氷の皇帝”の甘すぎる寵愛の物語。

(完結保証)大好きなお兄様の親友は、大嫌いな幼馴染なので罠に嵌めようとしたら逆にハマった話

のま
恋愛
大好きなお兄様が好きになった令嬢の意中の相手は、お兄様の親友である幼馴染だった。 お兄様の恋を成就させる為と、お兄様の前からにっくき親友を排除する為にある罠に嵌めようと頑張るのだが、、、

処理中です...