【完結】リゼットスティアの王妃様

通木遼平

文字の大きさ
4 / 4

最終話

しおりを挟む



「またわたしと出会った時の話をしたのでしょう?」

 煌びやかな大広間では隣国との同盟を祝い大使を歓迎するための夜会が開かれていた。オリヴェルはいつものようににこやかに客人たちをもてなした。もちろん、その傍らには王妃であるツェツィーリアがいる。隣国の客人をリゼットスティアの貴族や重臣たちに紹介し、外務大臣が彼らをもてなしている間に国王夫妻はのどを潤しひと息ついていたところだった。

 隣国の王子と王女の兄妹と対面した際、妹王女であるフィロメナの視線が射殺すように自分に突き刺さったのにツェツィーリアはすぐに気がついた。最近ではほとんどなかったが、となりに立つ夫と婚約した当初はよくこういう視線にさらされていたなと彼女は懐かしく思った。

 フィロメナが彼女の兄と共にオリヴェルと会い、そこでオリヴェルにアプローチをしたことはツェツィーリアの耳にも当然入っていた。オリヴェルが相手をしなかったことも……しかし射殺すような視線の直前、フィロメナが一瞬だが確実に驚いたのを見た時、ツェツィーリアは正確にオリヴェルがどういう対応をしたのかを察した。

「話したらダメなのかい?」
「何度も話すようなことではないと思いますが」
「私は何度でも話したいことだよ」

 ツェツィーリアは持っていた扇子で口元を隠し、やれやれとため息をついた。途端に、オリヴェルが不安そうにツェツィーリアに視線を向けた。

「怒らないで」
「わたしは怒ってはいません。フィロメナ王女殿下は怒っていらっしゃるでしょうが……」
「彼女が怒っていようが私たちには関係のないことだよ」
「同盟を結んだばかりなのですよ?」
「無礼な態度を取ったのは彼女の方だよ。王子殿下はよくわかっているようだったから問題にはならない」
「王子殿下も騙されたと感じていらっしゃるかもしれませんよ。わたしを見て驚いていらっしゃいましたから」

 ツェツィーリアは自分の夫が自分のことをまるで絶世の美女のように語るのをたびたび耳にしていたが、実際のところ彼女自身は自分の容姿がごく平凡なものだと思っていた。ほとんど黒に近いこげ茶色の髪、灰色の瞳、背はあまり高くなく、体質なのか肉がつかないので痩せっぽっちだ。家族は昔からツェツィーリアをかわいいかわいいと言ってくれたが、彼女は幼い頃からそれが身内のひいき目なのだとよく理解していた。
 オリヴェルは目が悪いのではないかと何度も思ったが、それを彼の前で言うと大げさなくらいの褒め言葉が返ってきて恥ずかしい思いをするだけなので今は口にすることはない。オリヴェルが心からそう思ってくれているのはわかるが、その言葉を素直に受け入れられるかは別問題だ。

「大げさだな」

 オリヴェルはやさしく微笑んだ。フィロメナはずっと兄の王子と共にいる。時折オリヴェルの方に視線を向けているが、兄の王子がそれに気づくとすぐに注意をしていた。

「……もしこの同盟がもっと早くに結ばれていたら、陛下の元にはフィロメナ王女殿下が嫁いでいたのでしょうか? 同盟をより強固なものにするために」

 兄に注意されたフィロメナの睨むような視線を受けながらツェツィーリアはぽつりとこぼした。

「もし私が独身で、君と出会う前だったとしても、彼女とは絶対に結婚しない」

 オリヴェルはきっぱりとそう言った。

「増して君と出会った後だったら君以外の女性なんて考えられない――ツェツィーリア、どうしてそんなもしもの話をするんだい?」
「……そうでなくてよかったと思っただけです」

 ぽそりとツェツィーリアのこぼした言葉にオリヴェルは目を丸くして、それからすぐに頬を緩ませた。

「ツェツィーリアがそんな風に思ってくれるなんて……出会ったばかりの頃の私に話しても信じてもらえないだろうな」
「あら? どうしてです?」

 夫をちらりと見上げた彼女の頬はバラ色に染まっている。

「リゼットスティアの女性はみんな、一度は陛下に恋をすると言われているのに」
「だけど出会った頃の君は私に興味なんてなかっただろう?」
「わたしだってリゼットスティアの女性ですよ、オリヴェル様」

 もしここが夜会の会場ではなかったら、すぐにツェツィーリアを抱きしめてキスをしていただろう。

 会話を打ち切るためか、ツェツィーリアは休憩は終わりだと言わんばかりに立ち上がった。オリヴェルもそれにつづき、彼女をエスコートするために腕を差し出した。いつものことだというのに、今までにないくらい彼は幸福に満ちていた。初夜の前にツェツィーリアが照れ隠しにツンとしながら「嫌いではない」と言ってくれた時以上の幸福だ。どこかあきれたような彼女の視線でさえ、オリヴェルは笑顔になれた。





 青い海に浮かぶ島々の一つにリゼットスティアという美しく豊かな国があった。リゼットスティアを治める国王も精霊を見まごうほどに美しいと評判で、リゼットスティアの女性はもちろん近隣の国の女性も皆、一度はこの若く美しい王に恋をするとまで言われていた。
 しかし国王はこの世でただ一人、王妃だけをこよなく愛していた。王妃もまた国王を心から大切に想っていた。二人はお互いを慈しみ、尊重し、リゼットスティアをより発展させていったのだった。


しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

白い結婚を捨てた王妃は、もう二度と振り向かない ――愛さぬと言った王子が全てを失うまで』

鍛高譚
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」 華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。 王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。 そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。 レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。 「お願いだ……戻ってきてくれ……」 王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。 「もう遅いわ」 愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。 裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。 これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。

強面貴族の幼馴染は恋を諦めている〜優しさを知っている年下令嬢は妹にしか見られない〜

蒼井美紗
恋愛
伯爵令嬢シルフィーネは幼馴染のレオナルドが大好きだった。四歳差があり妹としか見られていないので、自身の成長を待っていたら、レオナルドが突然騎士団に入ると言い出す。強面の自分と結婚させられる相手が可哀想だと思ったらしい。しかしシルフィーネはレオナルドのことが大好きで――。

遊び人の令嬢が目を付けたのは、私の真面目な婚約者でした

おいどん
恋愛
子爵家の令嬢エリーネと伯爵家の次男のノルトが婚約を結んだのは、半年前だった。 真面目で優秀なノルトに相応しい婚約者であろうとするものの、エリーネには自信がなかった。 ある日、遊び人と噂の令嬢べルティーナとノルトが共にいるところを見てしまう。 「真面目クンは壁さえ破っちゃえばこっちのもんだからね〜」 「きっと、彼女の美しさに嫉妬しているのだわ…」 「…今度は、ちゃんと言葉にするから」

そろそろ諦めてください、お父様

鳴哉
恋愛
溺愛が過ぎて、なかなか婚約者ができない令嬢の話 短いので、サクッと読んでもらえると思います。 読みやすいように、7話に分けました。 毎日1回、予約投稿します。 2025.09.21 追記 自分の中で溺愛の定義に不安が生じましたので、タグの溺愛に?つけました。

婚約破棄ブームに乗ってみた結果、婚約者様が本性を現しました

ラム猫
恋愛
『最新のトレンドは、婚約破棄!  フィアンセに婚約破棄を提示して、相手の反応で本心を知ってみましょう。これにより、仲が深まったと答えたカップルは大勢います!  ※結果がどうなろうと、我々は責任を負いません』  ……という特設ページを親友から見せられたエレアノールは、なかなか距離の縮まらない婚約者が自分のことをどう思っているのかを知るためにも、この流行に乗ってみることにした。  彼が他の女性と仲良くしているところを目撃した今、彼と婚約破棄して身を引くのが正しいのかもしれないと、そう思いながら。  しかし実際に婚約破棄を提示してみると、彼は豹変して……!? ※『小説家になろう』様、『カクヨム』様にも投稿しています

旦那様に「君を愛する気はない」と言い放たれたので、「逃げるのですね?」と言い返したら甘い溺愛が始まりました。

海咲雪
恋愛
結婚式当日、私レシール・リディーアとその夫となるセルト・クルーシアは初めて顔を合わせた。 「君を愛する気はない」 そう旦那様に言い放たれても涙もこぼれなければ、悲しくもなかった。 だからハッキリと私は述べた。たった一文を。 「逃げるのですね?」 誰がどう見ても不敬だが、今は夫と二人きり。 「レシールと向き合って私に何の得がある?」 「可愛い妻がなびくかもしれませんわよ?」 「レシール・リディーア、覚悟していろ」 それは甘い溺愛生活の始まりの言葉。 [登場人物] レシール・リディーア・・・リディーア公爵家長女。  × セルト・クルーシア・・・クルーシア公爵家長男。

婚約破棄された令嬢は、“神の寵愛”で皇帝に溺愛される 〜私を笑った全員、ひざまずけ〜

夜桜
恋愛
「お前のような女と結婚するくらいなら、平民の娘を選ぶ!」 婚約者である第一王子・レオンに公衆の面前で婚約破棄を宣言された侯爵令嬢セレナ。 彼女は涙を見せず、静かに笑った。 ──なぜなら、彼女の中には“神の声”が響いていたから。 「そなたに、我が祝福を授けよう」 神より授かった“聖なる加護”によって、セレナは瞬く間に癒しと浄化の力を得る。 だがその力を恐れた王国は、彼女を「魔女」と呼び追放した。 ──そして半年後。 隣国の皇帝・ユリウスが病に倒れ、どんな祈りも届かぬ中、 ただ一人セレナの手だけが彼の命を繋ぎ止めた。 「……この命、お前に捧げよう」 「私を嘲った者たちが、どうなるか見ていなさい」 かつて彼女を追放した王国が、今や彼女に跪く。 ──これは、“神に選ばれた令嬢”の華麗なるざまぁと、 “氷の皇帝”の甘すぎる寵愛の物語。

(完結保証)大好きなお兄様の親友は、大嫌いな幼馴染なので罠に嵌めようとしたら逆にハマった話

のま
恋愛
大好きなお兄様が好きになった令嬢の意中の相手は、お兄様の親友である幼馴染だった。 お兄様の恋を成就させる為と、お兄様の前からにっくき親友を排除する為にある罠に嵌めようと頑張るのだが、、、

処理中です...