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4章 近づく心
4 無理、無理
しおりを挟む「宮城くん……まだやってるの?」
扉越しに聞こえた水上の声に、昂世は焦った。
この狭い場所にこもってどのくらいたっただろうか。そそり立つ自身をひとりで慰めていたものの、快楽ばかりでまだ達するところまでいっていなかった。
「すみません」
「……イけないのか?」
「……はい」
そう答えるも、しょうがないと昂世は思った。
この状況で簡単にいけるほど、強靭なメンタルを持っていなかった。
今いるのは今晩水上が泊まる部屋で、もちろん本人もすぐそこにいる。またバスルームに駆け込んだはいいが、脱衣所になぜかさっきまで水上が着ていたものが置かれたままになっていた。だから、この狭い場所にも甘い匂いが充満していてくらくらした。
また昂世の中で、焦りと同時にあの声が聞こえるのではという恐怖もあった。
不意にさっきのニュースが思い浮かぶ。
『二十代α男性、三十代Ω女性に対する暴行により現行犯逮捕。違法抑制剤の使用による突発的発情が原因か』
――大丈夫。
昂世はなんとか自分を鼓舞した。
自分はちゃんとした薬を処方してもらっているし、あの声はまだ聞こえていない。
きっとイきにくいのも薬のせいだろう。早く出して、落ち着いて帰らないと――。
昂世がそう思ったときだった。
「――大丈夫?」
「わっ!」
扉が開く音がしたと思えば、そこには水上周が立っていた。
「な、なんで勝手に入ってきてるんですか!」
「いや、一応僕の部屋だし、大丈夫かなと思って」
「大丈夫じゃないですよ!み、見ないで下さい!」
手と身体の陰で陰部をなんとか隠そうとするも、水上はさらりと言う。
「明日どうせ見るよ」
「それとこれとは違いますし、こんな直接見ないでしょう!」
そう言いながら、昂世は自分に向けられた視線に戸惑っていた。まるで品定めされているような、じっくりと嘗め回すような視線にどきりとする。
不意に水上は口を開いた。
「……宮城くんっていくつだっけ?」
「二十一ですけど」
「……若いね」
その表情は、普段の柔らかな笑みもない真顔だった。
何を考えているかもわからず、ただただ向けられ続ける視線に、昂世はだんだん腹立たしくなってきた。
――普段なら見られてとっくに萎えているところなのに。
水上がいるせいで、男根はさらに上を向いてしまった。これでは、いつになっても落ち着くことはない。
そんなことなど知らない本人はさらりと言う。
「別にいくらでもやってもらって構わないんだけど……正直時間がね」
ぱっと腕時計を見ると、もうとっくに日付は変わっていて深夜になっていた。
これでは明日の仕事に支障が出てしまう――そう思った昂世は、もうこのまま帰ろうかと思った。
この時間なら廊下に誰もいないし、走ればすぐに部屋に戻れるはず。
「水上さん、俺――」
すると水上はとんでもないことを口にした。
「しょうがないな。君のために先輩が一肌ぬいであげよう」
「へっ?」
「他人が触ればどうってことないだろ。明日どうせ触れ合うんだから、俺が手でイかせてあげる」
「ちょ……ちょっと待ってください!」
何を言われているかようやく理解した昂世は、不意にあとずさった。
「まさか……セクハラとか言う?」
「い、言いませんけど」
「ならいいじゃん。明日見るんだから」
「でも――」
「そう言うのなら、こちらにも案がある。濡れ場に悩める子羊に、僕が直々に演技プランを伝授してあげよう。もちろん触りだけだけどね」
今の困った昂世は、水上周にそう言われてしまえばこう答えるしかなかった。
「…………お願いします」
そうして大きく主張する自身を隠しながら、昂世はおそるおそる風呂場から出たのだった。
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