【完結】若手アルファ俳優の運命は大嫌いなオメガ俳優でした ~インテグラル・スター ~

上杉

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8章 公開へ

1 番宣のふたり

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 撮影が終わったあとも、水上との仕事はしばらく続いた。
 それは撮影ではなく映画公開に向けての宣伝であり、雑誌の取材はもちろんテレビ出演もあった。
 今日は系列テレビ局の朝の生放送への出演があって、その後初めてのバラエティ番組の収録があった。
 
「昂世、大丈夫か?」

「……はい。一応」

 初バラエティを前に昂世は緊張していた。
 今回番宣の時間を与えられ呼ばれたのは、大御所お笑い芸人が司会をするとあるトーク番組だった。進行台本はすべて頭に入れていたものの、はじめてのゴールデン帯バラエティとあって昂世は心配していた。

「俺、変な事言ったりしないでしょうか……」

「大丈夫だよ。いつも通りやればみんなお前の魅力に気付いてくれる。水上周も隣りにいるだろう?」

「……はい」

 確かにそれだけが救いだと昂世は思った。
 あの日、撮影と共に終わるかと思った彼との仕事は今もこうして続いていて、仕事で会うことができる。
 わかってはいたものの、あの濃厚な一日以来互いの忙しさから二人きりの時間は取れていなかった。身体を重ねることはもちろん、触れることすらも。
 昂世は収録スタジオに向かい、セット脇で待機していた水上を見つけ手を振った。すると本人も気付いてこちらに微笑みを向けた。
 そうしてスタッフに従いセットに誘導され、薄暗い現場の隅で待つ間だけ、ふたりは手を触れ合った。その温もりだけで、今は心が満たされる感覚があった。

「今回のゲストはこの方々!映画『まほろばに鳥はもう来ない』主演の宮城昂世さんと水上周さんです!」

 司会者の賑やかな声を合図に、ふたりは収録現場に躍り出た。
 まばゆい照明と派手なセットの中で、昂世は表情を作る。

「「お願いします」」

 用意された席に腰かけると、合図があって司会者が口を開いた。

「えー、今回ダブル主演の恋愛映画ということでおふたりに来て頂きましたが……もうスタジオ全体が浮足立ってるのわかります?お客さんもほら……今にも悲鳴上げそうな顔してるじゃないですか!」

 照明のぎらぎらとした光の奥には、確かに無数の人の気配と視線を感じた。

「――宮城くんは顔面国宝と呼ばれる今をときめく若手俳優だそうで……えー、今回バラエティ初出演!ねえ、いいの?こんな番組で?」

 するとひな壇に座る司会者の相方や、お客さんの笑い声が響いた。昂世もきちんと「いやいや、そんな」と言う顔を作る。

「水上さんは皆さんご存知の通りだと思いますが……まさか俺ここでお会いできると思ってなかったですよ。水上さんってこういうバラエティ出てくれるんですね」

「はは。今回はどうしてもって宮城くんが言うので」

「え、そうなんですが?宮城くん」

 そんなの台本になかった――そう昂世は焦りちらりと水上の方を見た。すると軽やかにウインクを返されてしまい、渋々答える。

「…………はい」

 黄色い歓声が上がり、それが収まるのを待って司会は続けた。

「えー、おふたりは今回初共演と言うことで、撮影はどんな感じでしたか?スムーズに進みました?」

 台本に戻ったことに安心し昂世は答える。

「……俺は映画自体が初めてだったんで、大先輩の水上さんに終始引っ張っていってもらいました」

「僕も、実は恋愛映画は久しぶりで。しかも今回純愛もので撮影はかなりハードだったんですけど、宮城君にリードしてもらって、何とか無事終えた感覚です」

 また、台本から外れそうな気がする――そんな嫌な予感はずばり当たった。

「え、宮城くんがリードしたの?」

「そんなことはないです!筆下ろししてくれたの、水上さんですし……」

 途端、さっきとは比べ物にならないどよめきが上がったので、昂世はまずいことを言ってしまったかと反省する。
 視線を脇にそらすとにやにや笑う水上の姿があった。

「こ、これは今回すごい回になりそうだ。では早速、次のコーナー行ってみましょう!」

 その後、進行は脇道にそれることはあったものの、無事撮影は終わった。ほっとひと息ついたものの、隣りにいた水上は次の仕事に向かったようで、すでに姿はなかった。
 昂世は現場の脇で控えていた波多野に駆け寄って聞く。

「波多野さん、俺大丈夫でしたか?」

「ああ、あれくらいなら大丈夫だって。映画のいい宣伝になるだろ!それより朝の番組の反響がすごいぞ、見てみろ」

 そうしてスマホを渡され、SNSの画面をスクロールする。

『朝から水上周も破壊力あるけど宮城昂世もなかなか』

『宮城くん色気すごくない?』

『このふたりが並んでるの奇跡』

『恥ずかしそうなのかわいすぎる』

「…………」

「すごいだろ?」

「……はい。ありがたいですね」

「映画の特報映像の公開も始まって、アクセス数も好調らしい。次の仕事の打診も増えてるぞ。この調子なら公開したら、本当に休みがなくなるかもな」

「……はい!頑張ります!」

 あれだけ力を入れて皆で作り上げた作品だ。映画自体を評価をされる自信はすでにあった。
 もうひとつ、このとき昂世の胸にあったのは、水上や江口監督、そして脇を支えるスタッフたちともう一度仕事をしたいという願いだった。
 撮影が終わって気付いたのは、あの現場に関わった人たちの意識の高さや、作品に対する情熱だった。
 今回、たまたま声をかけられて参加することが叶ったが、これからもこの人たちと仕事をしたいと思えた。
 ただ今の自分に力が足りていないことは十分承知していた。だからそのためには、今は仕事をこなして経験を積むしかなかった。

 そんな中、波多野のスマホが鳴った。

「はい、波多野です!お疲れ様です」

 その口調から社内の電話であることはわかった。ただ電話を受ける彼が徐々に青い顔をしはじめたので、昂世は嫌な予感を感じた。
 波多野が通話を切り、急いで事務所に戻ると言った、そのとき。なぜか昂世の頭をよぎったのは水上の姿だった――。
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