38 / 51
8章 公開へ
1 番宣のふたり
しおりを挟む
撮影が終わったあとも、水上との仕事はしばらく続いた。
それは撮影ではなく映画公開に向けての宣伝であり、雑誌の取材はもちろんテレビ出演もあった。
今日は系列テレビ局の朝の生放送への出演があって、その後初めてのバラエティ番組の収録があった。
「昂世、大丈夫か?」
「……はい。一応」
初バラエティを前に昂世は緊張していた。
今回番宣の時間を与えられ呼ばれたのは、大御所お笑い芸人が司会をするとあるトーク番組だった。進行台本はすべて頭に入れていたものの、はじめてのゴールデン帯バラエティとあって昂世は心配していた。
「俺、変な事言ったりしないでしょうか……」
「大丈夫だよ。いつも通りやればみんなお前の魅力に気付いてくれる。水上周も隣りにいるだろう?」
「……はい」
確かにそれだけが救いだと昂世は思った。
あの日、撮影と共に終わるかと思った彼との仕事は今もこうして続いていて、仕事で会うことができる。
わかってはいたものの、あの濃厚な一日以来互いの忙しさから二人きりの時間は取れていなかった。身体を重ねることはもちろん、触れることすらも。
昂世は収録スタジオに向かい、セット脇で待機していた水上を見つけ手を振った。すると本人も気付いてこちらに微笑みを向けた。
そうしてスタッフに従いセットに誘導され、薄暗い現場の隅で待つ間だけ、ふたりは手を触れ合った。その温もりだけで、今は心が満たされる感覚があった。
「今回のゲストはこの方々!映画『まほろばに鳥はもう来ない』主演の宮城昂世さんと水上周さんです!」
司会者の賑やかな声を合図に、ふたりは収録現場に躍り出た。
まばゆい照明と派手なセットの中で、昂世は表情を作る。
「「お願いします」」
用意された席に腰かけると、合図があって司会者が口を開いた。
「えー、今回ダブル主演の恋愛映画ということでおふたりに来て頂きましたが……もうスタジオ全体が浮足立ってるのわかります?お客さんもほら……今にも悲鳴上げそうな顔してるじゃないですか!」
照明のぎらぎらとした光の奥には、確かに無数の人の気配と視線を感じた。
「――宮城くんは顔面国宝と呼ばれる今をときめく若手俳優だそうで……えー、今回バラエティ初出演!ねえ、いいの?こんな番組で?」
するとひな壇に座る司会者の相方や、お客さんの笑い声が響いた。昂世もきちんと「いやいや、そんな」と言う顔を作る。
「水上さんは皆さんご存知の通りだと思いますが……まさか俺ここでお会いできると思ってなかったですよ。水上さんってこういうバラエティ出てくれるんですね」
「はは。今回はどうしてもって宮城くんが言うので」
「え、そうなんですが?宮城くん」
そんなの台本になかった――そう昂世は焦りちらりと水上の方を見た。すると軽やかにウインクを返されてしまい、渋々答える。
「…………はい」
黄色い歓声が上がり、それが収まるのを待って司会は続けた。
「えー、おふたりは今回初共演と言うことで、撮影はどんな感じでしたか?スムーズに進みました?」
台本に戻ったことに安心し昂世は答える。
「……俺は映画自体が初めてだったんで、大先輩の水上さんに終始引っ張っていってもらいました」
「僕も、実は恋愛映画は久しぶりで。しかも今回純愛もので撮影はかなりハードだったんですけど、宮城君にリードしてもらって、何とか無事終えた感覚です」
また、台本から外れそうな気がする――そんな嫌な予感はずばり当たった。
「え、宮城くんがリードしたの?」
「そんなことはないです!筆下ろししてくれたの、水上さんですし……」
途端、さっきとは比べ物にならないどよめきが上がったので、昂世はまずいことを言ってしまったかと反省する。
視線を脇にそらすとにやにや笑う水上の姿があった。
「こ、これは今回すごい回になりそうだ。では早速、次のコーナー行ってみましょう!」
その後、進行は脇道にそれることはあったものの、無事撮影は終わった。ほっとひと息ついたものの、隣りにいた水上は次の仕事に向かったようで、すでに姿はなかった。
昂世は現場の脇で控えていた波多野に駆け寄って聞く。
「波多野さん、俺大丈夫でしたか?」
「ああ、あれくらいなら大丈夫だって。映画のいい宣伝になるだろ!それより朝の番組の反響がすごいぞ、見てみろ」
そうしてスマホを渡され、SNSの画面をスクロールする。
『朝から水上周も破壊力あるけど宮城昂世もなかなか』
『宮城くん色気すごくない?』
『このふたりが並んでるの奇跡』
『恥ずかしそうなのかわいすぎる』
「…………」
「すごいだろ?」
「……はい。ありがたいですね」
「映画の特報映像の公開も始まって、アクセス数も好調らしい。次の仕事の打診も増えてるぞ。この調子なら公開したら、本当に休みがなくなるかもな」
「……はい!頑張ります!」
あれだけ力を入れて皆で作り上げた作品だ。映画自体を評価をされる自信はすでにあった。
もうひとつ、このとき昂世の胸にあったのは、水上や江口監督、そして脇を支えるスタッフたちともう一度仕事をしたいという願いだった。
撮影が終わって気付いたのは、あの現場に関わった人たちの意識の高さや、作品に対する情熱だった。
今回、たまたま声をかけられて参加することが叶ったが、これからもこの人たちと仕事をしたいと思えた。
ただ今の自分に力が足りていないことは十分承知していた。だからそのためには、今は仕事をこなして経験を積むしかなかった。
そんな中、波多野のスマホが鳴った。
「はい、波多野です!お疲れ様です」
その口調から社内の電話であることはわかった。ただ電話を受ける彼が徐々に青い顔をしはじめたので、昂世は嫌な予感を感じた。
波多野が通話を切り、急いで事務所に戻ると言った、そのとき。なぜか昂世の頭をよぎったのは水上の姿だった――。
それは撮影ではなく映画公開に向けての宣伝であり、雑誌の取材はもちろんテレビ出演もあった。
今日は系列テレビ局の朝の生放送への出演があって、その後初めてのバラエティ番組の収録があった。
「昂世、大丈夫か?」
「……はい。一応」
初バラエティを前に昂世は緊張していた。
今回番宣の時間を与えられ呼ばれたのは、大御所お笑い芸人が司会をするとあるトーク番組だった。進行台本はすべて頭に入れていたものの、はじめてのゴールデン帯バラエティとあって昂世は心配していた。
「俺、変な事言ったりしないでしょうか……」
「大丈夫だよ。いつも通りやればみんなお前の魅力に気付いてくれる。水上周も隣りにいるだろう?」
「……はい」
確かにそれだけが救いだと昂世は思った。
あの日、撮影と共に終わるかと思った彼との仕事は今もこうして続いていて、仕事で会うことができる。
わかってはいたものの、あの濃厚な一日以来互いの忙しさから二人きりの時間は取れていなかった。身体を重ねることはもちろん、触れることすらも。
昂世は収録スタジオに向かい、セット脇で待機していた水上を見つけ手を振った。すると本人も気付いてこちらに微笑みを向けた。
そうしてスタッフに従いセットに誘導され、薄暗い現場の隅で待つ間だけ、ふたりは手を触れ合った。その温もりだけで、今は心が満たされる感覚があった。
「今回のゲストはこの方々!映画『まほろばに鳥はもう来ない』主演の宮城昂世さんと水上周さんです!」
司会者の賑やかな声を合図に、ふたりは収録現場に躍り出た。
まばゆい照明と派手なセットの中で、昂世は表情を作る。
「「お願いします」」
用意された席に腰かけると、合図があって司会者が口を開いた。
「えー、今回ダブル主演の恋愛映画ということでおふたりに来て頂きましたが……もうスタジオ全体が浮足立ってるのわかります?お客さんもほら……今にも悲鳴上げそうな顔してるじゃないですか!」
照明のぎらぎらとした光の奥には、確かに無数の人の気配と視線を感じた。
「――宮城くんは顔面国宝と呼ばれる今をときめく若手俳優だそうで……えー、今回バラエティ初出演!ねえ、いいの?こんな番組で?」
するとひな壇に座る司会者の相方や、お客さんの笑い声が響いた。昂世もきちんと「いやいや、そんな」と言う顔を作る。
「水上さんは皆さんご存知の通りだと思いますが……まさか俺ここでお会いできると思ってなかったですよ。水上さんってこういうバラエティ出てくれるんですね」
「はは。今回はどうしてもって宮城くんが言うので」
「え、そうなんですが?宮城くん」
そんなの台本になかった――そう昂世は焦りちらりと水上の方を見た。すると軽やかにウインクを返されてしまい、渋々答える。
「…………はい」
黄色い歓声が上がり、それが収まるのを待って司会は続けた。
「えー、おふたりは今回初共演と言うことで、撮影はどんな感じでしたか?スムーズに進みました?」
台本に戻ったことに安心し昂世は答える。
「……俺は映画自体が初めてだったんで、大先輩の水上さんに終始引っ張っていってもらいました」
「僕も、実は恋愛映画は久しぶりで。しかも今回純愛もので撮影はかなりハードだったんですけど、宮城君にリードしてもらって、何とか無事終えた感覚です」
また、台本から外れそうな気がする――そんな嫌な予感はずばり当たった。
「え、宮城くんがリードしたの?」
「そんなことはないです!筆下ろししてくれたの、水上さんですし……」
途端、さっきとは比べ物にならないどよめきが上がったので、昂世はまずいことを言ってしまったかと反省する。
視線を脇にそらすとにやにや笑う水上の姿があった。
「こ、これは今回すごい回になりそうだ。では早速、次のコーナー行ってみましょう!」
その後、進行は脇道にそれることはあったものの、無事撮影は終わった。ほっとひと息ついたものの、隣りにいた水上は次の仕事に向かったようで、すでに姿はなかった。
昂世は現場の脇で控えていた波多野に駆け寄って聞く。
「波多野さん、俺大丈夫でしたか?」
「ああ、あれくらいなら大丈夫だって。映画のいい宣伝になるだろ!それより朝の番組の反響がすごいぞ、見てみろ」
そうしてスマホを渡され、SNSの画面をスクロールする。
『朝から水上周も破壊力あるけど宮城昂世もなかなか』
『宮城くん色気すごくない?』
『このふたりが並んでるの奇跡』
『恥ずかしそうなのかわいすぎる』
「…………」
「すごいだろ?」
「……はい。ありがたいですね」
「映画の特報映像の公開も始まって、アクセス数も好調らしい。次の仕事の打診も増えてるぞ。この調子なら公開したら、本当に休みがなくなるかもな」
「……はい!頑張ります!」
あれだけ力を入れて皆で作り上げた作品だ。映画自体を評価をされる自信はすでにあった。
もうひとつ、このとき昂世の胸にあったのは、水上や江口監督、そして脇を支えるスタッフたちともう一度仕事をしたいという願いだった。
撮影が終わって気付いたのは、あの現場に関わった人たちの意識の高さや、作品に対する情熱だった。
今回、たまたま声をかけられて参加することが叶ったが、これからもこの人たちと仕事をしたいと思えた。
ただ今の自分に力が足りていないことは十分承知していた。だからそのためには、今は仕事をこなして経験を積むしかなかった。
そんな中、波多野のスマホが鳴った。
「はい、波多野です!お疲れ様です」
その口調から社内の電話であることはわかった。ただ電話を受ける彼が徐々に青い顔をしはじめたので、昂世は嫌な予感を感じた。
波多野が通話を切り、急いで事務所に戻ると言った、そのとき。なぜか昂世の頭をよぎったのは水上の姿だった――。
30
あなたにおすすめの小説
流れる星、どうかお願い
ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる)
オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年
高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼
そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ
”要が幸せになりますように”
オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ
王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに!
一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので
ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが
お付き合いください!
ジャスミン茶は、君のかおり
霧瀬 渓
BL
アルファとオメガにランクのあるオメガバース世界。
大学2年の高位アルファ高遠裕二は、新入生の三ツ橋鷹也を助けた。
裕二の部活後輩となった鷹也は、新歓の数日後、放火でアパートを焼け出されてしまう。
困った鷹也に、裕二が条件付きで同居を申し出てくれた。
その条件は、恋人のフリをして虫除けになることだった。
完結|好きから一番遠いはずだった
七角@書籍化進行中!
BL
大学生の石田陽は、石ころみたいな自分に自信がない。酒の力を借りて恋愛のきっかけをつかもうと意気込む。
しかしサークル歴代最高イケメン・星川叶斗が邪魔してくる。恋愛なんて簡単そうなこの後輩、ずるいし、好きじゃない。
なのにあれこれ世話を焼かれる。いや利用されてるだけだ。恋愛相手として最も遠い後輩に、勘違いしない。
…はずだった。
箱入りオメガの受難
おもちDX
BL
社会人の瑠璃は突然の発情期を知らないアルファの男と過ごしてしまう。記憶にないが瑠璃は大学生の地味系男子、琥珀と致してしまったらしい。
元の生活に戻ろうとするも、琥珀はストーカーのように付きまといだし、なぜか瑠璃はだんだん絆されていってしまう。
ある日瑠璃は、発情期を見知らぬイケメンと過ごす夢を見て混乱に陥る。これはあの日の記憶?知らない相手は誰?
不器用なアルファとオメガのドタバタ勘違いラブストーリー。
現代オメガバース ※R要素は限りなく薄いです。
この作品は『KADOKAWA×pixiv ノベル大賞2024』の「BL部門」お題イラストから着想し、創作したものです。ありがたいことに、グローバルコミック賞をいただきました。
https://www.pixiv.net/novel/contest/kadokawapixivnovel24
αが離してくれない
雪兎
BL
運命の番じゃないのに、αの彼は僕を離さない――。
Ωとして生まれた僕は、発情期を抑える薬を使いながら、普通の生活を目指していた。
でもある日、隣の席の無口なαが、僕の香りに気づいてしまって……。
これは、番じゃないふたりの、近すぎる距離で始まる、運命から少しはずれた恋の話。
【完結】君を上手に振る方法
社菘
BL
「んー、じゃあ俺と付き合う?」
「………はいっ?」
ひょんなことから、入学して早々距離感バグな見知らぬ先輩にそう言われた。
スクールカーストの上位というより、もはや王座にいるような学園のアイドルは『告白を断る理由が面倒だから、付き合っている人がほしい』のだそう。
お互いに利害が一致していたので、付き合ってみたのだが――
「……だめだ。僕、先輩のことを本気で……」
偽物の恋人から始まった不思議な関係。
デートはしたことないのに、キスだけが上手くなる。
この関係って、一体なに?
「……宇佐美くん。俺のこと、上手に振ってね」
年下うさぎ顔純粋男子(高1)×精神的優位美人男子(高3)の甘酸っぱくじれったい、少しだけ切ない恋の話。
✧毎日2回更新中!ボーナスタイムに更新予定✧
✧お気に入り登録・各話♡・エール📣作者大歓喜します✧
あまく、とろけて、開くオメガ
藍沢真啓/庚あき
BL
オメガの市居憂璃は同じオメガの実母に売られた。
北関東圏を支配するアルファの男、玉之浦椿に。
ガリガリに痩せた子は売れないと、男の眼で商品として価値があがるように教育される。
出会ってから三年。その流れゆく時間の中で、男の態度が商品と管理する関係とは違うと感じるようになる憂璃。
優しく、大切に扱ってくれるのは、自分が商品だから。
勘違いしてはいけないと律する憂璃の前に、自分を売った母が現れ──
はぴまり~薄幸オメガは溺愛アルファ~等のオメガバースシリーズと同じ世界線。
秘密のあるスパダリ若頭アルファ×不憫アルビノオメガの両片想いラブ。
番じゃない僕らの恋~俺の唯一だった君~
伊織
BL
高校1年生の蓮(れん)は、成績優秀で運動神経も抜群なアルファ。
誰よりも大切に想っているのは、幼い頃からずっとそばにいた幼なじみのオメガ・陽(ひなた)だった。
初めての発情期(ヒート)──それは、蓮と陽の関係を静かに、でも確実に変えていく。
「陽が、知らない誰かに抱かれるのは嫌だ」
その言葉をきっかけに、陽は蓮だけに身体を預けるようになる。
まだ番にはなれない年齢のふたり。
触れ合えば触れ合うほど、高まる独占欲と焦燥、そして不安。
ただ一緒にいられる今を、大切に過ごしていた。
けれど、優しくあるはずのこの世界は、オメガである陽に静かな圧力を与えていく。
気づけば、陽が少しずつ遠ざかっていく。
守りたくても守りきれない。
アルファであるはずの自分の無力さに、蓮は打ちのめされていく。
番じゃない。
それでも本気で求め合った、たったひとつの恋。
これは、ひとりのアルファが、
大切なオメガを想い続ける、切なくて愛しい学園オメガバース・ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる